軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08.転生王子、毒草を探す

「違います。第六王子のエアハルト様のお母上はヴァルテ国ヘルツシュプルング侯爵のご息女マルガレータ様です。アルダ国出身はご側室のナターリエ様で、ナターリエ様は公爵家出身です。間違えたらどちらにもぶち殺されますよ」

「へ……ヘル……プディング?」

「ヘルツシュプルング侯爵です。

では次に、ヘルツシュプルング侯爵家が属している派閥は―――――」

う~ん、ベディが護衛として働けるまではもう少し掛かりそうだね。

長いお名前はベディの故郷のクバラもだから慣れているかと思ったけど、そうでもないみたい。だったらみんな家名長いから大変だ。

あと第二夫人のエデルミラ様の故郷のエステリバリ国にいたっては、お名前も長い人が多い上にこちらでは馴染みのない発音だったりするから覚えにくいんだよね。

でもボクも一人でお勉強するの飽きてきちゃった。

ボクは読んでいた本を机に置いて、イスごと振り返った。

「ねぇメリエル、ボクとも一緒にお勉強しようよ」

「リエト様がベネディクテュクスさんに王宮の常識を教える様に仰られたのでしょう。

それに私はメイドです。他の仕事が山ほどありましてリエト様のお勉強に付き合う義理も義務も時間もございません」

確かに、メリエルはボクのたった一人のメイドさんだから、お仕事たくさんあるもんね。

「あっじゃあボクがメリエルのお仕事手伝うから、一緒にお勉強しよ!」

「何をたわけた事を仰ってるのですか。そんな事出来るわけがないでしょう」

「坊ちゃん、それはちょっと……」

ええ~、でもメリエル自分の仕事を減らすために、ボクに身支度やお風呂自分で出来るようにさせてるじゃない。他にもメリエルのお仕事を減らせる事あるんじゃない?

「大体、私がリエト様のお勉強に付き合っても意味などないでしょう」

え?何で?

「あるよぉ。ボクが他国にお婿さんに行く時、メリエルも一緒に行くんだから言葉が分からないと大変でしょう?」

「!」

メリエルが大きな黒目を更に大きくして驚いている。

え、もしかして……

「メリエル付いてきてくれないの!? ぼ、ボク一人で他の国に行くのはちょっと不安なんだけど……」

「………………いえ、行きます」

長い沈黙の後だけど、メリエルは返事をしてくれた。良かったぁ!

「ではベネディクテュスさんは自習をしていてください。

リエト様、ご本をお借りしても?」

「うん!」

「え、ちょっ、待って!てゆーか俺は!? 坊ちゃん、俺は!!?」

え?

「ベディもボクに付いてきてくれるの?」

「当たり前じゃねーですか!俺は坊ちゃんの護衛兼毒見でしょ!?」

護衛はまだ見習いだけどね。

うーん、でも……

「ベディは王宮で働きたいんでしょ?ボク将来王宮にいない可能性もあるよ?」

「え」

ボクは王家の血筋かもあやしい末王子で権力もほぼ無いからね、今後誰が政権を握るかによって、最悪王位継承権を剥奪されて王家追放もあり得るんだよね。

「そうなったら、市井に下りて生活する可能性もあるんだけど、それでも付いてくるの?」

「え……そ、そんな事あり得るんですかい? 坊ちゃんは王子なんでしょ?」

「あり得るよね、メリエル」

「そうですね……。リエト様のお爺様のオラフ男爵がお亡くなりになったりすれば、王宮内への影響も無くなり、オラフ男爵に付かれていたお味方も減り、奥様とリエト様の権力も落ちるでしょう。その後ヘルツシュプルング侯爵を始めとする保守派が勢力を広げれば、追放は大いにあり得ますね」

そうなんだよね、今うちに味方してくれてる軍部の人たちって、男爵家にじゃなくて、お爺様個人にお味方してくれてるだけなんだよね。

でもってマルガレータ様のご実家のヘルツシュプリング家は家柄重視だからね、本当に王様の子供か疑惑のある王子なんて絶対認めないもん。

あとアンネ様の逆バージョンで、お金持ちの平民が血筋を欲しがってパターンもあるかもね。

あってもなくても厄介だね、王家の血って!

「そんな……坊ちゃんはそれで良いんですかい?」

「え?いいよー、別に」

だってどうあがいても、結婚が出来る事は決まってるもの!

結婚相手が王族か貴族か平民かって違いだけでしょう?

それならボクは幸せな家庭を築くために全力でがんばるのみだよ!

「坊ちゃんがそう思うんでしたら……俺もそれに従います!」

「え~」

「『え~』!?」

ベディが小綺麗になって精悍とよべるようになった容姿で、キリッとかっこよく言ってきたから、ボクは思わず声を上げてしまった。

「な、何でそんな不服そうなんですか!?」

「不服ってわけじゃないけど……そっか~、ベディも付いてきてくれるのか~」

「嫌そー!!」

ショックを受けて涙目になってるベディに、嫌じゃないよと声を掛ける。

「ベディも付いてきてくれるなら、2人分のお給金があげれる様に稼がなきゃいけないなって思っただけだよ」

メリエルだけだったら、平民でもそこそこお金持ちのお家に婿入りするだろうから大丈夫かなと思ってたけど、ベディもってなったら護衛だしもちろん住み込みだろうから、お金足りるかなぁ。

仕方ない、将来のために今から貯金しながらも沢山儲けれるようにお勉強をもっとがんばろう。

「うん、分かった。ベディを養える様にボクがんばるね!よろしくね、ベディ」

「ぼ、坊ちゃん……!

はい!俺も坊ちゃんをお守り出来るように頑張ります!!」

「それではこちらのヴァルテ国貴族名鑑を明日までに暗記なさって来てください」

一緒にお勉強を始めようとしてた腰を折られたせいか、いつもよりも冷ややかなメリエルに分厚い本を落とされ、ベディが蛇が締められた時みたいな音を出してた。

もしもの時には、3人一緒に婿入り出来るように皆でお勉強がんばろうね!

◇◇◇

さあ!次は生き残るためのお勉強だよ!

ボクは既に何度も通って勝手知ったる〜てやつになった温室に入り、フィレデルス兄様を探す。

兄様のジャマをしないように静かにするとは言ったけど、礼儀としてちゃんとご挨拶しとかなきゃだもんね。じゃないと最初の時みたいに、驚かせちゃうかも。

「フィレデルス兄様、こんにちは!」

いつものテラスの席でご本を読んでいた兄様に声を掛けると、ボクが来た事には気付いていたみたいで一度顔を上げて「ああ」とだけ答えて、また本に視線を戻された。

よし、あいさつ終わり。今日はこっちの列を見て行こう。

あれから何度も通い、温室内の毒になる植物を図鑑と照らし合わせて行き、同時にその解毒剤の材料になる物もあるか探した。

やっぱり毒があれば解毒になる物もあった。もしも何かの事故で毒に掛かっちゃったら大変だもんね。

そうやって、ノートにはびっしりとボクのつたない字でメモがされていった。

ベディはまだ王宮内のお勉強に掛かりそうだし、鍛錬も欠かしたくないらしいから時間が無いもんね。それにボクがちゃんと覚えてベディに教えれば、ボクの復習にもなっていっせきにちょーかも!

それならこのメモも見やすいようにまとめた方が良いな。

あとは、調理場に行って料理にどういう風に使われているのかも直接見たいなー。お願いしたら見せてくれるかな?

「あ、これ……」

そんな事を考えながらも図鑑を見ていたら、症状の欄に覚えのある物があった。

全身の倦怠感、眩暈、手足の痺れ、頭痛、意識混濁

「ブラーチェク……」

ボクが盛られたのは、これな気がする。

図鑑に載っているのは、ギザギザ葉っぱのどこにでもありそうな植物だ。でも赤い小さな実が沢山ある中に、ごく少数紫の実が成る。これが毒素の固まりらしい。

「う~ん、でもここには無いなぁ」

この草を探して、温室内を二周してみたけど、見当たらない。これじゃなかったのかな?

「何を探している?」

「わっ」

急に後ろから声を掛けられて、ボクはビックリして文字通り飛び上がった。

「フィレデルス兄様……おどかさないでください」

「お前が勝手に驚いただけだろう」

兄様が話しかけてくる事自体がビックリする事なんだから、仕方ないでしょ。

「それで、何を探している?」

「兄様、読書はいいのですか?」

ジャマするなって言ってたから、兄様からボクに構う事もないと思ってた。

「お前がさっきからチョロチョロとしているのが視界に入って気が散るんだ」

「それはごめんなさい。この草を探していました」

ボクが素直に図鑑を差し出すと、フィレデルス兄様はそれを受け取り、テラスへと持っていく。え、待って待って!

慌てて追いかけると、兄様はいつものイスに座って、図鑑を見ていた。

「ブラーチェクか……。これは温度が低い場所に生息するから、温室には無いな」

「そうなんですね。

フィレデルス兄様は植物にお詳しいんですか?」

「そうだな」

そっか、植物が好きだからいつも温室にいたんだ。あったかいからだけじゃなかったのか。

でも寒い所にしかないとなると、今の季節には手に入らないのかな。

「フィレデルス兄様、その草と同じ様な症状になる毒草を知りませんか?」

「ああ、それなら……このメドナも似た症状だな」

兄様が図鑑を指さすが、テラス席の机の上にある図鑑はボクからは見えない。

「兄様、見えません」

「…………」

ここにはフィレデルス兄様専用なのか、イスもテーブルも一つしかない。

無表情の兄様に向けて、ボクは思い切り両手を伸ばした。

「…………」

フィレデルス兄様は無言でボクを抱き上げてくれて、ひざに乗せてくれた。

「ありがとうございます、兄様!」

よーし、これでテーブルの上の図鑑が見れるぞ~!

「ああ……」

兄様が再び指さしてくれたのは、真っ赤で綺麗な花が咲いた植物の絵だった。

「メドナの花だ。

だがメドナの毒は花ではなく、根の部分にある」

「根っこに! フィレデルス兄様は物知りですね~」

ボクのイメージでは、植物の毒は花か実だった。まさか根っこだとは!

「…………別に、大した事じゃない。

それで、他に何が知りたい?」

「メドナの毒の解毒方法も知りたいです」

「ああ、それなら…………」

それからしばらくの間、フィレデルス兄様のひざの上で植物講義を受けていたら、兄様付きの執事の人がボクの分のお茶も用意してくれて、ごちそうになった。

うん、やっぱり詳しい人に教わるのが一番ためになるな!

フィレデルス兄様は植物にとっても詳しくて、図鑑に書いていない様な事までよく知っていてボクは大収穫だった。

ご機嫌でお部屋に帰ろうと、フィレデルス兄様に別れを告げ、温室を出て建物に入ろうとした時、力強い腕に首根っこを掴まれ、そのまま持ち上げられた。

「わあっ!何なに!?」

賊か!?敵襲か!?ボクが目障りな夫人陣営の騎士か、側近か!?

王宮内で直接的な行動に出られるとは思わなかった!

「でかい声出すな、チビ」

聞き覚えのある声にボクは少し落ち着きを取り戻し、振り回していた手を止め何とか首をひねって腕の主を見た。

「アルブレヒト兄様」

少し癖のある赤茶色の髪に、エメラルドみたいな緑色の瞳をした第二王子のアルブレヒト兄様が、不機嫌そうな顔でボクを見下ろしていた。