軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

52.転生王子、誘拐される

ガッタン。ゴチッ。

「あいたっ」

大きく体が跳ねあがって、何かに頭をぶつけた衝撃でボクは目を覚ました。

なんて最悪な目覚め方なのだろう。

いくらボクが起きないからって、メリエルったらそんな乱暴な……そんな乱暴な起こされ方、したことがないし、体が跳ねあがるって何だ?

そこにきてようやくボクは意識がはっきりしたみたいで、あたりを見渡した。

さっきまでボクが寝ていたのは、木の床。

狭い部屋で、ガタガタと細かく振動しているのには覚えがある。

「ここ、馬車の中だ」

馬車なら窓がと思って見上げるが、外側から何か貼られているのか、何も見えない。

そこでソファになっているベンチでノエル兄様が眠っているのに気付く。

その体には、毛布も掛けられている。

ボクは床だったのに、この扱いの差…………。

ノエル兄様が寝ているのとは逆のソファに乗って、御者につながる小窓を開けようとしてみたけど、開かない。

もちろん窓も、ドアも開かない。まぁ空いたところで、走る馬車からは降りられないんだけど。

寸前の記憶は、ノエル兄様が言う「ヒミツの場所」に案内されている途中だった。

そこで中庭の大きな木の穴に入り、中を進んで階段を降りた所までは覚えている。

「うーん、これは……」

誘拐っぽいね!

あの暗い道に降りてすぐに意識を失ったという事は、待ちぶせされていたのだろう。

という事は、あの場所を知っている人間で、あの場所……王宮に入れる人間。

子供だからとなめられているのか、縛られたりしていない所を見ると、あんまり危害を加える気はないみたい。

でも出られないし、ここは目的地に着くまで大人しくしてようかな。

う~ん、ベディやメリエルにさらわれたことだけでも知らせる方法があればいいんだけど……。

何かないかな~と自分の服のポッケとかをゴソゴソするが何も無い。

ん?何も無い?

いや、無い訳ないよ!

だってボク香水の瓶持ってたはずだもの!

あっ折りたたまれた便せんはあった。でもやっぱり香水は無い。

「え~、うそでしょ落としたかなぁ」

せっかくマルヤから分けてもらったのに、とぶちぶち言っていると、ベンチの上から声が漏れた。

「うう……ん」

あ、ノエル兄様起きた?

そろそろ起こそうとは思っていたのでよかった。

「ノエル兄様おはようございます」

「ん……なんでお前がここに……」

ゆっくりと起き上がって兄様は、ボクを見てそこまで言ったところで、ハッとした様に目を見開いた。

それからキョロキョロと辺りを見渡し、ザっとその白いお顔を青ざめさせた。兄様も現状に気付いたらしい。

小さく震えながらうつむきかけた、と思ったらまたハッとして、ボクを見た。

ごくり、と小さくだけど兄様が唾を飲み込んだ音が聞こえた。

きゅ、と唇を結び、顔に全身に力が入った様に見えた。

(何だか……ガマンしてる?)

心配になって声を掛けようとしたが、その前にノエル兄様の方が口を開いた。

「お前が起きたのはいつだ?」

「えっと、ボクもついさっきです」

答えると、兄様は毛布をはねのけてベンチから下りる。

扉部分を押したり引いたりして、動かない事を確認すると次に窓を同じく開かないか力を込めてるみたい。

もうそれボクも全部やったんだけど、自分でやった方が納得するかなと思って見守ることにした。

あとは御者への小窓かなと思ったけど、そっちは見なかった。

あ、そうか。ノエル兄様が乗る馬車は最高級の物で従者も多いから、自分や見える範囲で御者との連絡のやり取りがないのかも。

うーん、こんな所でも王子格差が出るとは。

「くっ、外が見えないとどこに向かってるかも分からないな」

さっきまで寝ていたから、どのくらい馬車に乗ってるかも分からないもんね。

ノエル兄様が背伸びをして窓の端から外が見えないか、がんばってる。

「そうだ」

ボクは思いついて、さっき懐から出てきた便せんを破って、ノエル兄様が見ているのとは逆のドアの隙間に差し込んだ。

さすがに紙の薄さは通ったみたいで、スルッと外に消えて行く。

間隔を少し空けながら、便せんの破片を落としていく。

あんまり小さくしすぎると見えないだろうから、四分割くらいで。

実はこれ、王宮でもらった便せんだから、かなりの高級紙で、平民の間で流通している紙とは全然違うんだ。

平民の間で使われている紙は、もっとごわごわしているんだってメリエルが以前見せてくれた。

みそっかす王子であっても、王宮にある物は高級品ばかりなので、じゃっかん感覚がにぶっているって言われた。

でもやっぱり、この間のノエル兄様のお部屋で見たものを思うと、ランクが少し低い気がするんだけどな。

そんなに数はなかったんだけど、見つけてもらえたら方角を示すくらいはできるかな。まぁダメもとでね。

紙を落とし終わったのと同じくらいにノエル兄様も窓の外を見るのを諦めたみたいで、ソファにどかって座った。と言っても勢いがあっただけで軽いのでせいぜいポスって音しかしなかったけど。

「くそ、一体誰がこんな事……」

「ノエル兄様、あのヒミツの場所は、どこに通じていたんです?」

ボクらが入った方が子供しか入れないのだから、逆側から入った者に誘拐されたのは明白だ。

ボクが訊ねると、ノエル兄様は少しの間口をへの字にした後、開いた。

「…………使用人住居とかある建物の地下で、そこに部屋がある」

兄様的には素敵な演出で紹介したい部屋だったから、不本意らしい。

でもそっか、つまり温室の裏にある方まで続いてたんだ。

「兄様はどうして、そこを知ったんですか?」

「偶然……中庭で遊んでいる時にあの木を見つけて、護衛たちの目を盗んで入ってみたんだ」

それはそれは、側近たちは大騒ぎの大捜索だったろうな、と思ったけど違うらしい。

「中が広いと分かったから、少しずつ探検したんだ」

おお、兄様かしこい。

て言うか、過保護され慣れしてる?

「あそこを誰かに言いました?」

「いや……でも、知られているかもしれない」

王子の側近であれば、同じ場所で何度も王子を見失うのだから捜索していても不思議ではない。

それに出口が使用人住居であるならば、あちらでも知られているのかもしれない。

でも、今日兄様があの場所に行こうとしている事を知っていて待ち伏せできる人間は、限られている。

見ると、下を向いているノエル兄様の顔が青ざめていて、両手のこぶしを膝の上でぎゅっと握り締めている。

兄様も、大体の目星がついたのだろう。

そして犯人も、ボクはともかくノエル兄様はすぐに気付くと分かっていると思う。

そうなると、馬車は目的地までに一度停まるだろう。

その時に、どれだけの事が出来るか。

ボクは顔色の悪い兄様を見て言った。

「兄様、”ジュー”の手遊びをしません?」

「……は?」

兄様が宝石の様に輝く紫の瞳を真ん丸にしてボクを見る。

ボクは両手を挙げて、”ジュー”の手をそれぞれ作る。

「こうやってですね、グ……じゃなかった、ダー・ティー・ソラ~で、ダー・ティ・ソラーで~なにつくる~?」

ボクは歌いながら、手を変えていく。

最初は何かな?なじみがあるものがいいよね、そうだ。

「なにつくる~? 右手がディーで、左手がダーで……グーリーフォーン!」

ヴァルテ王国の旗にもなっている、グリフォンだ!

ディーの親指を立てた手の方が上半身、ダーの人差し指を立てた方が下半身……人差し指はしっぽだ。

「どうですか?」

我ながらよく出来たと思ったのだが、ノエル兄様の顔はしかめっ面だ。

「どうってお前、こんな時に……」

「ダメかぁ、じゃあ……ダーティーソラーで、ダーティーソラーで、なにつくろ~? なにつくろ~?」

お気に召さなかったようなので再戦!

「右手がソラーで、左手もソラーで、雪だるま~」

今度は拳を重ねて雪だるまだ!これでどうだ!

ノエル兄様の反応を見ると、一瞬ポカンとした後に、兄様は笑い出した。

「お前っ、自信満々に何をやるかと思ったら……そんな簡単なの……!」

漏れる笑いをこらえながら、兄様がディスってくる。

「えーじゃあ兄様がお見本くださいよ!」

「いいだろう。見てろよ? ダーティーソラーで……」

歌いながら手遊びを始めた兄様のほっぺは元のピンクに戻っていてホッとした。

馬車が停まるまでの少ない時間、ノエル兄様には少しでも元気になってもらわなくちゃ。

ボクの生存確率が危ないからね!