軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48.転生王子、第七王子のお部屋に遊びに行く

アルダの使者団は国客であるので、主塔の方に泊まるかと思いきやナターリエ様陣営のフロアに一泊して帰ったらしい。

側妃棟の一フロアとは言え、かなりの広さを誇る上に客室も十分にあるから泊まるのは大丈夫なのだけど……これはやっぱり、あくまでもアルダ側の人間の所にしか泊まりたくないという事だろうか。

ボク自身はあんまり会わない方がいいだろうし、階も違うので昨日見かけた以外は知らない。でも夜は 側妃棟(こっち) に父様も来られて、お食事会があったらしい。

朝食の時に母様が「ずるい、ずるい」って言っていた。

側妃棟もいつもの日常に戻ったので、ボクは変わらず毎日のお勉強を頑張っている。

マチェイ先生の授業の時に「クルトは先生のこと覚えてなかったよ」と教えてあげようかなと思ったけど、誰も幸せにならないだろうからやめておいた。

「それでは、本日はここまでにいたしましょう」

マチェイ先生のガラっぽい声の号令で本日のお勉強は終わり!

アルダの本もだけど、エステリバリの本も少しずつ読み進められている。どちらもご近所さんなのに、こんなに文化が違うんだって新しい発見がいっぱいあって楽しい。

「おや? 護衛の騎士が今日は遅いですね」

「ほんとですね」

ベディはこの時間は鍛錬に当てていて、いつもは授業が終わるよりも早く切り上げて待っていてくれる。マチェイ先生がドアを開けて廊下で左右を確認したけど、やっぱりいないらしい。

「お部屋まで送りましょうか?」

とてもそんな事やりたくないとでも言いたげな顔で聞かれて、首を振った。

「ううん、大丈夫です。ここでご本を読みながら待っています」

ベディが来るまではボクはひとりでうろちょろしていたので、別にひとりで部屋に帰れるのだが、ベディと入れ違いになっちゃかわいそうだ。幸いに読むご本ならここにある。

マチェイ先生は「そうですか、じゃ」と何の未練もなく教材を抱えてさっさと部屋から出て行った。分かりやすい人だ。

「ま、いっか」

ボクは改めて、ラウレンス兄様にいただいたエステリバリの本へ視線を戻した。

しばらくすると、ドアがノックされる音がしたので顔を上げた。ベディかな?と思ったのだけれど、違う。

返事を待たずに、ドアが開かれて現れたのは、威圧感のある大柄な騎士と、天使の様な美少年……ノエル兄様だった。

え?なんでノエル兄様がここに???

だって当たり前だけど、ボクがマチェイ先生にお勉強を教えてもらっている部屋は、ボクと母様のフロアにある。ノエル兄様とは階が違うのだ。

そりゃあ移動の時に他の階を通りかかることも、共用スペースでお会いすることもあるけど、ここは完全にボクのホームであり、ノエル兄様からしたらアウェイなはずなのだけれど?

ボクが驚いて二人を見ている内に、兄様はつかつかとボクのそばまでやって来て、ボクが読んでいる本に目を留め、舌打ちをした。

天使のようなお顔で舌打ち……似合わない……。いや、これはこれで需要があるのか?なんて考えていると、兄様の鈴が鳴る様な声がした。

「なんで僕があげた本を読んでいないんだ」

え?えーと……

「ノエル兄様にいただいたご本は、もう何度も読んだので、今はラウレンス兄様から頂いた本を読んでいます」

「ラウレンス兄様?」

ノエル兄様のお口が嫌そうに歪む。

ボクが読んでいる本を改めて見て、書かれてる字に気付いて眉間にシワを寄せる。

「エステリバリの本なんて、何で読んでるんだ」

「エステリバリの文化に興味があると言ったら、ラウレンス兄様がおさがりをたくさんくださったんです」

「お前、アルダに興味があるんじゃなかったのか!?」

「アルダもあります。他の国のことや、色んなことに興味があるんです」

未来のお嫁さんと仲良しするために!

他国に関しては、政略結婚の確率が高そうなアルダとエステリバリが一番だけどね。

「じゃあアルダの本を読めよ」

「だからアルダの本はもう読み終わって、エステリバリの本がたくさんあるので」

ボクがよどみなく答えていくと、ノエル兄様の真っ白なお肌がどんどん赤くなっていく。

何しに来られたのだろう?今ベディがいないから、メリエルか執事を呼んだ方がいいかな?なんて考えている間に、ノエル兄様が行動を起こした。

「じゃあアルダの本をもっとやる!来い!」

ガシッとボクの手首を掴むと、そのままずんずんと進んでいく。座った状態から引っ張られて、転げ落ちるみたいに床に着地してわたわたと付いて行くのがやっとだ。

なんせノエル兄様がいくら天使みたいにかわいらしい容姿で子供であろうと、ボクよりふたつも上の七才なのだ。五才が勝てるわけがなかった。

おまけにずんずん歩くノエル兄様と引きずられていくボクの後ろを、あのくっきょうな騎士、カジマールが付いて来ているのだ。逃げられる気がしない。

廊下に出て、ベディはいないかと左右を確認するも姿は見えない。うちって人員が少ないから、廊下に人すらいなかった。

(うーん、とりあえず……付いて行ってみよう)

ローレンツに来ませんかと言われて断ったのは、ボクのことを嫌っているアルダの人がたくさんいる所になんて危ないから行きたくない、というのともう一つ。

ローレンツが護衛騎士だからだ。

兄様たちでも、ましてや父様や母様、他のお妃様たちの遣いではなく、ローレンツ自身で来たから。

騎士の、しかも別陣営の護衛騎士の誘いに乗る王族なんて、おかしいでしょ?

これがボクとローレンツが仲が良いとかなら、少し違ってくるけど、まぁ基本は行かないよね。

だからエアハルト兄様のお手紙と同じ様に、兄様自ら誘いに来られれば応じることもある。

先ぶれも無く直接来たのにはビックリしたけどね。

あとベディがいないのも、こうなると何か仕掛けられたのかもしれない。

たどり着いたのは、やっぱりノエル兄様たちのフロア。て言うかノエル兄様のお部屋だった。

「どうだ、僕の部屋はすごいだろう?」

ノエル兄様の言う通り、兄様のお部屋はすごかった。

淡いベージュと白の壁が交互になっていて、上の方の壁紙は青。飾ってある絵や家具の全てが繊細で精巧に作られていて、芸術的だ。

「すごいです! きれいです!」

王族としての体裁を最低限整えてあるだけのボクの質素なお部屋とは大違いである。

それにやっぱり、色合いとか家具が王宮内でもあまり見ないもので、アルダ産の物をわざわざ取り寄せたり作ったりしているのかもしれない。

たしかに、他国の公爵令嬢を側妃として迎えるというのなら、一大リフォームが必要かもしれない。

ボクがもしも他国のお嫁さんを迎える立場になった時は、インテリアにもこだわらないといけないのだと再確認出来た。

「わ~時計もとってもキレイですね~」

見上げるばかりの大きさの置時計は、細かな装飾がたくさん入っていてところどころキラキラしているのは金かも。あと装飾の中には鳥が多い気がする。

「ふふん、そうだろう? それは僕のおじいさまから頂いた物なんだ。お前結構見る目があるな」

自分のお部屋だからか、それともお気に入りの物を褒められたからだろうか、ノエル兄様はいつもよりもよく喋るし表情も豊かだ。て言うかおじいさまって、アルダ王?

「これも見た事ないだろう!」

そう言ってその後も、いくつもの見た事のないオモチャや小物を出してきてくれた。

うちの陣営が貧乏なのと、地元であるオーバリは自然が第一で自然で遊ぶことがメインだから、そもそもオモチャ自体にあまり関わりがなかったので素直に面白い。

「ノエル兄様、これは何ですか?」

兄様が出してきた色んな物の中から、細い金属の筒が並べられて固定された物を見つける。

「これは楽器だ。こうやって……」

ノエル兄様がその筒が集まった物を手に取り、口元に持って行くと、高い音が響く。鳥の声に少し似ている音。

そのままその楽器?を左右に動かしてノエル兄様が吐息を注ぐと、それはキレイな音色を出した。とってもキレイで、何だか少し、切なくなるような音だ。

吹き終わって、ドヤ顔をするノエル兄様が口を開くよりも先にボクは思わず拍手をした。

「すごい! とってもキレイな音色ですノエル兄様! すごいです!」

「ふ……ふん、このくらい出来て当然だ」

えーそうなの!?

ボクまだ楽器は全然やった事ないんだけど……。

「えーすごいです。その楽器、音を出すのも難しそうなのに」

「まぁ別に慣れれば……。それに弦楽器より簡単だし」

「えっ!?」

ノエル兄様、他の楽器も出来るの!?

「す、すごい……。ボクもあと二年あれば兄様みたいに色んな楽器が出来る様になるかなぁ」

夢の中の世界でも、楽器をやっていた様子はなかったんだけど。

「まあ、僕まではいかなくても少しは出来るようになるんじゃない? ……たまになら、僕が教えてあげなくもないよ?」

出来るかなぁ?

楽器は貴族王族のたしなみの一つでもあるから、何かはやらないといけないんだろうけど。

あとウチに、果たして音楽の先生を雇う余裕があるのだろうか……?

急に怖くなってきて、目の前のノエル兄様のご厚意に全力で縋ることにした。

「その時が来たら、よろしくお願いします!」

「う、うん。まあ気が向いた時にね」

ノエル兄様はそう言うと、メイドを呼んでお茶の用意をしろと命じていた。

わーい、おやつもらえるのかな。

あ、そういえば。

ふと、ボクはある人物の事を思い出した。

それと同時位に、ワゴンを押してきたメイドと共に、ノエル兄様の筆頭従者のクルトが現れ、ボクを見て訳が分からないという顔をした。

昨日の今日で、お願い反故にしてゴメンね!