軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16.転生王子、シェフにお願いをする

ボクの前にシェフとメイド2人が跪いて青い顔でこちらを見上げている。

だからさ、厨房の床ってあんまりキレイじゃないから汚れちゃうってば。

「殿下……この度の事の処分はどうか、どうか私に……!」

母様より年上っぽいメイドが震えながら頭を下げて言った。

「何を言っているんだ、ノーラ! ここの責任者は俺だ!」

「いえ! いいえ、ジェフさんは必要な方です、どうかしがないメイドではありますが、私の首一つで……!」

シェフに怒鳴られても涙目で首を振るノーラに、もう一人のメイドは「はわわわ」と慌てている。メリエルがいつも落ち着いているから、何だか新鮮だ。

「私が!」

「俺が!」

そうしている間もかばい合う二人。ジェフはさっきボクが罰しに来たんじゃないって説明して、納得したんじゃなかったっけ?

何だかヒートアップしているから口がはさめなくてどうしようかなと思っていたら、ベディが持っていた剣を鞘ごと床に叩きつけた。

その音にビックリして止まる3人とボク。

「ぼっちゃ……リエト殿下の御前だぞ」

おお!ベディってば猫背を直したから体の大きさもよく分かって迫力がある!

「も……申し訳ございません……」

そう言って再び地に伏せる3人。えっとー

「とりあえず喋りにくいから、立ってくれない?」

改めて、シェフ達に名前を聞いた。

「ジェフと申します」

シェフのジェフ?分かりやすいのか間違えやすいのか。

「ノーラと申します」

「ビアンカです……申します」

年上のメイドの方がノーラで、若い方がビアンカ。

「リエトだよ。よろしくね」

知ってると思うけど、ボクも一応自己紹介をする。

「こっちがボクの護衛と毒見をしてくれるベディ」

「ベネディクテュス、です」

側室棟で働く仲間だから元から挨拶はしていたみたい。ボクの前だから一応って感じでお互い礼をしている。てゆーかベディ、顔見知りをさらっと切ろうとしてたの?

「それでさ、ボクがこの間の毒殺未遂の事でここにいる人に罰を与えようとか思ってないから、そこは安心してね」

「え、本当ですか……?」

「ビアンカ!」

ビアンカが恐る恐るといった感じで問い返してくるけど、王族に対しての言葉遣いでも態度でもないから、ノーラにたしなめられている。

「うん、ほんとだよ。さっきもジェフにその話をしてたの。

ボクが毒のお菓子を食べて、三日三晩生死の境をさまよっていたのは、ここの人達には関係ないからね」

明るく答えたつもりだったんだけど、3人してヒュッと息を吞んで顔を青くしている。あれ?

「ぼっちゃん……そういう具体的な話は恨んでいる様に聞こえますぜ」

え、そう?それは失敗。

母様や他の妃や側室方がいつもこんな感じだから、無意識に移っていたみたい。反省だね。

「ごめんね、本当に恨んでないんだよ。

それよりも今日はお願いがあって来たんだ」

「お願い……ですか」

まだ3人とも顔色が悪い。

普通にお願いごとをしにきたんだけど、この話の流れだと脅しみたいになってないかな?出直すべき?

ちょっと考えたけど、やっぱり『善は急げ』って言うから今日にしとこう。

「うん、あのね―――――――」

◇◇◇◇

「フンフンフーン♪」

ちょっと手間どったけど、無事目的を果たせたし、ジェフにはこれからもたまにお邪魔させてもらう許可も取ったので、経過は上々でボクは軽い足取りで側室棟を歩いていた。もう少し仲良くなれたらお料理も教えてもらおっと。

あ、ボクがお願いしたら一介のシェフが断れないのは分かってるよ。でも「はい」って言ってもらうのは大事だよね。何て言うんだっけ?ことじち?げんち?

「ねぇベディ~」

こういう時にぴったりの言葉が思いつかなくてベディを振り返ったら、ベディはあれほど伸ばす様に言われた背筋を前みたいに丸めて、何だかどんよりとしている。

「どうしたのベディ? また背中丸めてるとメリエルに鉄の棒を突っ込まれるよ?」

それを聞いてベディは反射的に背筋を伸ばしたけど、顔はどんよりのままだ。

厨房では普通にご飯を物欲しそうに見たり、同僚を切り捨てようとしていたのに、どうしたんだろう?

「どうしたの? 何か嫌な事あった? それとも思い出しどんより?」

ベディの下からどんより顔を見上げて尋ねると、ベディは何度か目をきょろきょろさせた後に、ボクの方を見ずに口を開いた。

「坊ちゃん……俺はそんなに頼りにならないでしょうか?」

「ん?」

ベディが何を聞きたいのか分からなくて、首を傾げて続きを促す。

「そりゃあ……俺は蛮族の生まれですし、王宮のマナーも分かってないかも知れねぇスけど、坊ちゃんの護衛と毒見を任されてんだから精一杯お守りしやす。でも坊ちゃんは…………俺に頼らず自分で自分を守ろうとしてるじゃないですか……。俺は、そんなに…………」

「精一杯やっても、守れるとは限らないよ?」

「ッ!!」

ボクの言葉に、ベディが息を呑んで、歯を食いしばる。

ああ、違う違う。そうじゃない。

「別にベディを信じていない訳じゃないよ。でも護衛と毒見は本来一人でやるもんじゃないでしょ?」

ベディは確かに護衛としてはマナーを知らないし、毒見としても知識が無い。でもボクのたった一人の護衛兼毒見だ。

失うわけにはいかないのだ。

「そ……れはそうですけど、俺は毒には強いし……」

「だからって毒に当たっちゃったら、その間ボクの護衛はいなくなるんだよ?」

でもだからと言って今でさえいっぱいいっぱいのベディに毒見の作法や知識まで詰め込むのは無理だと思う。ベディがダメな子なんじゃなくて、普通に考えて護衛なんだから鍛錬も必要だしね。

そうなるとボクが勉強するしかないだろう。

「それに護衛対象としても、毒を受けた時も、本人が知識があった方が動きやすいでしょ?」

「それはまぁ……」

少しでも生存確率を上げていく為に、ボクも努力しなきゃ。

「だけど……」

「ベディ、ボクにはベディしかいないんだよ」

「!」

護衛も、毒見も。

今後増える可能性も多分低い。

「だから一緒に頑張って生き残ろうね!」

「坊ちゃん……はい!」

そしてかわいいお嫁さんと結婚して、幸せな家庭を築くんだ!

「誰がどうやって生き残るって?」

えいえいお~と気合を入れていたら、耳に馴染んでいない声がして振り返る。よりも早く、ベディが声の主とボクの間に瞬間移動していた。

ベディの足の影から覗き込むと、そこには浅黒い肌に白い衣装をラフに着た少年……ラウレンス兄様が護衛も従者も連れずに一人で堂々と立っていた。