軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14.転生王子、鍛錬を始める

「よーし、鍛練するぞ~!」

側室棟の裏庭的なスペースで、ボクは木剣を振り上げて宣言した。

今日からベディによる鍛練を始めるんだ。

ボクは薄手のシャツに短いズボンで、動きやすい恰好。木剣は短剣サイズだけど、初めて持つからテンション上がっちゃうね!

でも…………

「はい、坊ちゃん!」

「お~でございます」

「何でメリエルもいるの?」

そうなのだ。

はりきって返事をするベディの横には、ノリが良いのか悪いのか、無表情で片腕を上げているボクのメイドさん……何で?

「メリエル忙しいんでしょ? むりに付き合わなくて大丈夫だよ?」

ボクの唯一のメイドさんだから、お仕事いっぱいあるからって言ってたよね?それでも夜に一緒にお勉強する時間を作ってくれているのに、大丈夫?

「それでしたらリエト様。本当にこの野生児の訓練をお一人で受けられるつもりだったのですか?」

「え、うん……」

今ベディのこと野生児って言った?

ベディは一応王都で何年も兵士をやってたから、そんな無茶はしないよ?

「それではベネディクテュス、昨日私に教えてくださったリエト様の訓練内容をご本人にお伝えください」

「え?おお。

まずは基礎体力作りに王宮外周を3周。筋力作りに腕立て100回。腹筋背筋100回ずつして、スクワットも100回。準備運動が終わったら、危険な状態から潜在能力を引き出すために3階からロープで吊り下げて……」

「メリエルボクのそばをはなれないでね!!!」

「承知いたしました」

「あれ?」

という訳で、ベディによる超人育成計画はメリエルに修正され、メリエルは監視の意味も込めて一緒に鍛練を受ける事になった。

「でもこれ……何?」

さっきからでんぐり返りを繰り返しさせられてるんだけど……。

「坊ちゃんはまだ小さいですからね、まずは基礎体力と回避能力を身に付けやしょう」

「かいひのうりょく?」

もう回りすぎて目が回って来た。

「どんな攻撃でも避けれる様にする訓練です」

「え~、それってかっこわるくない?」

現に今お外ででんぐり返りしてて土だらけだよ。

ボクは未来のお嫁さんを守れる力と、かっこいいって言われるために鍛練したいんだけど。

「坊ちゃんは何よりもまず生き残る事が一番でしょう?

敵を倒すのは俺がやりやすよ」

それじゃあ未来のお嫁さんにかっこいいって言ってもらえないじゃない!

ベディが教えてくれるのはあくまでも「生き残る」為の手段みたいだ。ぐぬぬ、これは予想外だぞ。

いやでもまずは基礎体力とかいひのうりょくを身に付けてから、剣を学べばいいのか?だってボクまだ5才だしね!なにごとも基礎は大事って、夢の中の世界でも言われてた気がする。

まず死にたくないしね!

「分かったよベディ。次は何をすれば良い?」

「はい、坊っちゃん! 次は横に転がりましょう!」

こうしてボクとメリエルは裏庭をゴロゴロ転がった。

木剣はすみっこで忘れ去られた。

「メリエル転がるの速すぎるんだけど、なんで?」

しこたまゴロゴロ転がって土だらけになって気付いた事は、ボクよりメリエルの方が転がるのが早い事。ちなみにメリエルはメイド服の下にズボンを穿いていた。

メイド服汚れちゃうの困らない?って聞いたら、メイド服は元々作業服だから汚れていいんだって。替えもちゃんとあるみたい。たしかに、普段からその恰好でお掃除やお洗濯してるもんね。

「私は14才ですよ。リエト様とは身体能力が違います」

むむ~、確かに、転がっていたら腹筋が痛くなってきた。回るのにも筋肉を使ってるんだね。

「あとメリエルは凹凸がねぇから回りやすいんぐふぅっ!!」

どこから出したのか、メリエルのモップの柄がベディのお腹に突っ込まれた。

すごい、ベディの防具のちょっとだけの隙間に見事に入った!

「メリエルはまだ14才なんだから、これから出来るよね!」

ボクはフォローのつもりで言ったんだけど、メリエルは冷えた黒い瞳でモップを握りしめたままボクを見た。

「リエト様……こういう時は、確証の無い未来の話をするのではなく、素のままの姿を褒めるのです」

「め、メリエルは今のままでもとってもすてきだよ……?」

「よろしい」

すごく勉強になったよ。今度から気をつけよう。

何はともあれ、鍛錬初日を終えたんだけど、全身泥だらけだ。おまけにボクは半ズボンだったから、ひざも擦り剥けてる。

「まずは湯あみをしてから、手当てをいたしましょう」

「こんな事するなら長ズボンで来たのにぃ~」

ボクが擦り傷の痛さに恨み言を言ったら、ベディはキョトンとした顔をしている。その間にメリエルは湯あみの準備に行った。

「何で短いズボンで来たのかと思ってました」

「動きやすいからだよ!その時点で言ってくれたら着替えたよ、もうっ!」

「まぁでも傷は男の勲章ですよ坊ちゃん! それにそんなの傷の内に入りゃしやせんよ」

「ボク王子なんだってば! 兵士とかクバラの子と一緒にしないの!」

王子がドロドロで擦り傷だらけなのを見られたら、みっともないとか言われちゃうでしょ……と言おうと思った矢先に、見つかってしまった。

「こんな所で何してんだ?」

あなた方こそ、 側室棟(こんなところ) で何してるんですか。

正室の息子であるオリヴィエーロ兄様と、第二夫人の子であるラウレンス兄様二人して。

正室の子オリヴィエーロ兄様の事は何度か紹介したけど、ラウレンス兄様については初めてだったかな?

海運国家エステリバリ王国のお姫様である第二夫人のエデルミラ様の次男。つまりフィレデルス兄様の実弟ってやつだね。

エステリバリの人の特徴である小麦色の肌に、青紫の髪に海の青の目。

年はオリヴィエーロ兄様と同じで、今13才でアカデミー2年生。

フィレデルス兄様は物静かでミステリアスな感じだけど、ラウレンス兄様は活発でいつも明るい、まぁ脳筋タイプだ。

周囲はオリヴィエーロ兄様とどっちが優秀かって比べまくって、ライバル関係にあるはずなんだけど、今一緒にいるって事は仲は悪くないのかな?後ろにいる護衛や従者は仲悪そうだけど。

「リエト、何だその恰好は?」

オリヴィエーロ兄様に問われ、自分の格好を思い出した。

あわわ、まずいまずい!皇太子の前でドロドロのぐちゃぐちゃだ。後ろの従者たちは皆眉をひそめている。

「誰にやられた?」

「え?誰って……」

「誰にこんな姿にされた?」

誰かって聞かれたらそりゃ……

「護衛のベディにですけど……」

「護衛にだと?」

オリヴィエーロ兄様がキッとベディを睨みつけた。あれれ?これ何か誤解されていない?

「に、兄様!オリヴィエーロ兄様、違うんです、これはベディに鍛錬してもらったんです」

「こんな傷だらけになるまで?」

再びオリヴィエーロ兄様に睨まれて、ベディもようやくまずい事に気付いたらしく焦っている。まさかここで兄様達とその従者に会うとは。

「護衛の身で仕える王子を傷つけ汚すとは、何を考えている?

そなたは本当にリエトを守る気があるのか?」

何と返したらいいのか分からないのだろう、ベディがだらだらと汗をかいて硬直している。ベディはボクを守る気は満々だけど、ボクが擦り傷作ったり汚れたりする事に関しては何が悪いのか全く分かっていないからね!

「オリヴィエーロ兄様!鍛錬で汚れる事も少しくらい傷を負うのも仕方ないですよ。強くなるためですから、当たり前です」

「坊ちゃん……」

皇太子であるオリヴィエーロ兄様に叱られて半泣きだったベディがボクをすがる様に見ている。大丈夫だよ。

「傷は男の勲章、なんでしょ?」

ベディが鍛えてくれなかったら、ボク剣の先生とか雇える気がしないもん!

何の鍛錬もなしにアカデミーに入るのは勘弁だよ!

「だよなぁ!!」

そこで突然、第三者の明るい声が響いた。

声の方に目を向けると、ラウレンス兄様がその海色の目をキラキラさせていた。

「鍛錬でちょっとくらい汚れたりケガするのなんて当たり前だよなぁ!お前分かってるな!」

ボクの手を握ってぶんぶん振り回す。リーチが違うから、いたいいたい!

「聞いたかお前ら!リエトの護衛は出来るんだから、お前らにも出来るよな!?」

多分自分の護衛の人達に言っているんだと思う。護衛の人達はすごい困った顔してる。あ、こっち睨まれた。知らないよ。

「お前は見込みがあるな!」

今度はガシガシ頭をなで繰り回された。うわわ、目が回る~。

「ラウレンス、リエトの首が取れてしまう」

「お?悪い悪い」

オリヴィエーロ兄様が止めてくれたので、ボクはラウレンス兄様の手を逃れ、ふらふらとベディに逃げた。

「まぁ……そういう事なら、あまり無理はしない様に。お前はまだ小さいのだから」

「はい~、ありがとうございますぅ」

頭がぐらぐらしながらも何とかお返事出来たと思う。

それにしても、兄様達は何をしにこっちに来ていたんだろうね?

その後、メリエルの用意してくれたお風呂に入って擦り傷がとても染みたので、夜のお勉強はちょっと厳しめにした。

ボクよりもメリエルが厳しかったけどね。