軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11.転生王子、護衛と挨拶する

「じゃあ図書室に行ってくるねー」

今日もいつもの様に、朝のお勉強の時間の後に図書室に行こうとメリエルに声を掛けたら、待ったがかかった。

「坊ちゃん、今日からは俺も一緒に行きます」

キリッと宣言してくるベディを見て、後ろのメリエルに視線を向けると、メリエルもコクリと頷いてくれた。

「(やっと)お勉強終わったんだね、ベディ!」

「はい、(やっと)最低限の知識と礼儀を叩き込めました」

「ものすごい含みを感じますけど、はい、メリエルから合格を貰えたので、今日からお供できます」

やっと護衛のお仕事が出来るとベディははりきっていた。

「良かったねー。あ、でもベディは鍛錬の時間も取りたいんだよね?」

「はい」

「あと学習も継続してください」

「げ、そうなの?」

付け加えるメリエルにベディが思い切り顔を顰めているけど、当然だよね。貴族社会は日々変化し進化していくものなんだ。流行もだけど、勢力図とかもね。何て言うんだっけ?にっしんげっぽ、だった気がする。違ったらごめんね。

本当だったら、護衛っていうのは一人じゃなくて交代制なんだけど、ボクに複数人雇える甲斐性がない。ボクに、って言うか、うちにって言うか、まず王宮にその気が無いっていうね!

「そうだね~、時間を決めていて、その時間は鍛錬時間にしたらどうかな?」

「それじゃその間坊ちゃんはどうするんでさ?」

「メリエルと一緒にいるか、行き先を言っておくよ」

そもそも今までいなかったんだから、数時間くらいいないのは構わないだろうと思ったのに、メリエルから×が出た。

「リエト様が一人になる時間が出来てしまうのなら、護衛に意味などありません。体力しか取り柄が無いのですから、鍛錬がしたいのであればリエト様のお休み中にすれば良いのです」

「そうですよ、坊ちゃん!護衛がいなくなる時間なんて決まってたら、そこを狙われるに決まってるじゃないですか!」

あれれ、自由時間をあげるって言ってるのに、被雇用者の方からダメだしされたぞ?

王宮内なら他の王子達もけっこう一人で動いてると思うんだけど、こないだ殺されかけたので警戒してるみたい。あと他の王子は一人に見えても見えないところに護衛とか従者とかいるはずだって。

確かに、温室でフィレデルス兄様ひとりだと思ってたら、どこからともなく執事が現れた事があったな。

だからボクがひとりでうろちょろしてても何も言われなかったのか。ひとりに見えて、本当にひとりだった訳だけど!

結局、話し合いの結果、朝のマチェイ先生のお勉強の時間がベディの鍛錬時間になった。

ボクに甲斐性がなさ過ぎて、ブラックな勤務になっちゃうのは今後どうにかしていきたいね。

そんな訳で、しばらくはベディが“護衛がいるんだぞ”アピールをする為にずっと付いてきてくれるんだって。ベディおっきいからちょっとうっとお……ううん、何でもない。お仕事だもんね。もう小汚くなくなったし、ボクの自慢の護衛だよ、うん。

「朝はね、母様とご飯を食べて、マチェイ先生の授業を受けた後は、図書室に行ってお勉強するよ」

「勉強の後にまた勉強してたんですか」

まずはボクの最近の一日のスケジュールを紹介しておくね。

起床。

朝の身支度。

母様と朝食。

マチェイ先生の授業。

昼食。

図書室でお勉強。

温室で植物観察。

お昼寝。

母様と夕食。

メリエルとベディと復習しながらお勉強。

就寝。

「べ、勉強ばっかっすよ坊ちゃん……」

そうかな?

図書室と温室でのは、ディートハルト兄様とフィレデルス兄様が教えてくれるからお勉強になっただけだから、そんなにお勉強の意識がなかったな。

あれから温室に行くと、フィレデルス兄様はボクをテラスに呼んでお茶とお菓子を出してくれるようになった。その間は植物のお話をしてくれるんだ。

ディートハルト兄様も、大体同じ時間に図書室に行けばいてくれて、ボクに合いそうな本を選んで解説してくれる。人から教わるのは、ひとりでお勉強するよりよく分かるから助かっている。

「でもそうなんだよね。運動もしなきゃなって思ってる」

ボクももう5才だからね。そろそろ剣の練習なんかも始めるべきじゃないかなって。

母様はそういうの気にしないって言うか、ボクの教育そのものにあんまり関心がない人だから何も言われないんだけど。かといって軍人だったお爺様に頼んだら、ものすごいスパルタ修行を課せられそうで怖い。

ボクとしては、剣も使えて未来のお嫁さんを守れる男になりたい訳で、戦争で活躍したい訳じゃないからね。

「そうですね!5才ともなれば、野兎から獲物をグレードアップさせる時期ですもんね!

まかせてください坊ちゃん!このベネディクテュクスがクバラの地に懸けて鍛えてさしあげますよ!!」

あ、狩猟民族基準でもちょっと困るかな。

◇◇◇

鍛錬の話はひとまず置いておいて、ボクとベディは図書室にやって来た。

「王宮内の図書室なんて、初めて入ります」

「静かにね」

物珍しそうにきょろきょろしているベディだけど、王宮外の図書室には行ったことがあるのだろうか?

無さそうだな~と思いながら、今日読む本を探す。

「あ……」

聞き覚えのある声に振り向くと、ディートハルト兄様が今図書室に入ってきていた。

「あ、ディートハルト兄様……」

名前を呼んで駆け寄ろうとすると、兄様とボクの間に大きな影が入って来た。

と思ったら、ボクの前にも大きな体が割り込んできた。ベディだ。

ベディと睨みあっているのは、金髪の若い男で、腰に帯剣している様からも兄様の護衛の騎士だと分かる。

ボクとディートハルト兄様ふたりで話している時には出てこなかったから、今日はベディがいたから出たのか。

「ディートハルト兄様、これ、ボクの護衛のベディです。よろしくお願いします」

ベディの影から顔だけ出して兄様に話しかけると、ディートハルト兄様は少しホッとした表情になった。

「…………僕の護衛の、アードリアンです」

「アードリアン=ヴィンケルです、王子」

金髪の騎士が、兄様の声に被せる様にフルネームを言った。普通だったら、目上の人間同士の会話で、主人の言葉に被せる様に言うなんて事はあり得ない。

家名もあるし、どこかで聞いた事があるから結構上の貴族の家系なんだろう。

つまりはあれだね。平民出身の奥様の子であるディートハルト兄様を、王子といえど下に見ているんだね。

でもディートハルト兄様のお家は、元平民だからこそ箔を付けようとやたらと良いものを揃える。家庭教師しかり、護衛しかり。

王の側室の、そして王子の従者だから断りはしないけど、自分よりも位の低い血筋が半分ってだけでプライドが傷つく人種っているわけで、そのイライラを子供の兄様にぶつけている訳だ。

「あ、ごめん……」

「坊ちゃん……俺もベディじゃなくてベネディクテュスです」

ディートハルト兄様が暗い目で謝ってる前で、ベディがコソコソとボクに耳打ちしてくる。今そういう場合じゃないんだけど。

「ベディの名前は長くて覚えられないもん。じゃあ自分で自己紹介して」

今忙しいんだよって適当にあしらったつもりだったけど、ベディは神妙に頷いて、ディートハルト兄様に向き直った。

「お初にお目にかかります、ディートハルト殿下。

リエト殿下の護衛を賜りました、ベネディクテュスと申します」

低くよく通る声でキレイな礼と共に、ベディがあいさつをした。

え!すごい!

すごいよベディ!成長してる!!

こっちをチラチラ見ているのは減点ポイントだけど、すごく成長してる!

がんばったんだねって思いも込めて、ボクは笑顔で両手で小さく丸を作った。花丸あげちゃう!

ベディもちょっと眠そうにも見える目を輝かせて喜んでいる。しっぽがあったらブンブン振っていたに違いない表情だ。表情に出すぎなのも、減点ポイントだけど、おいおいね。

礼をされた兄様は目を丸くして年相応の顔をしているけど、すぐに我に返って何か言おうと口を開いた。けどまたそれを遮るように、兄様の護衛の騎士……何て名前だっけ?アがついた事は覚えてるんだけど……とにかくその騎士がまた割り込んできた。

「貴様か、ルベル出の未開の地の原住民族ってのは」

うん、まぁそうなんだけど。

「少しは礼儀を弁えているようだが、どうにも獣臭さがぬけない田舎兵士だな。

そんなので王子の護衛などといった、分不相応な大役が勤まるのか?」

獣臭いって言われたから、ベディはハッとしてボクを見た。大丈夫、もう臭くないよ。ただのひゆで嫌みだよ。

「ディートハルト兄様、ボクの護衛はちゃんとあいさつも出来るし、強そうでしょう?

一生懸命お勉強したんですよ。ボクも教えるの手伝ったんです」

兄様の護衛はあいさつもできないし、主人への礼儀もわきまえていませんね!

ボクがにこにこと話しかけると、兄様はちょっとビックリしたあと、頷いた。

「なんだ、礼儀は付け焼き刃ですか。それにしても、護衛に自ら礼儀を教えないといけないとは、リエト王子は大変ですね」

そうかな?

ボクよりもディートハルト兄様の方が大変そうだけど。

「ボクは今ディートハルト兄様とお話ししているから、ジャマしないでね」

だってこんな主人の会話に勝手に口を挟んでくる礼儀のなっていない護衛が何人もいるんでしょう?

ボクは教えたことはちゃんとしてくれるベディで良かった~。