軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

攻略されたのは

ピンク様の編入から五ヶ月が過ぎた。

今や愛らしい彼女と第一王子、そしてルディオとノーマンの四人は、ほぼ毎日一緒にいるようになり、学園はどこかそわそわとした空気が流れている。

見目のいい高位の男性とばかり一緒にいるピンク様は、当然のように女性たちの顰蹙を買った。

いやもう、本当に当然である。

しかも、全員が婚約者持ち。

その婚約者が沈黙しているから何も言わないだけで、みな心の中ではかなり荒れている。

「ふわん、ってしてるのですって。ふわん、って」

五ヶ月もの間、協力して事にあたるようになってから、みんなずいぶんと仲良くなった。

アナスタシアの隣で不満そうにしているのは、最も遠慮がちだったクロエラ。

どこかおおらかで豪快なマジョルテとは正反対ながら、一番仲の良い淑やかな女性だ。

「一応、婚約者の義務ですから、ピンク様との距離感を婉曲に指摘したら、『ヴィクトリアは本当に僕が好きだね』って、ふわんふわんしていたというのです」

「そう……」

あれだけ事前に忠告をしたというのに、しかも陛下も王妃も同席の上だったと聞いているが、籠絡されたのは王子だった。

王子だけ。なぜに。

ルディオとノーマンは、使命感と責任感でピンク様の動向を注視し、どちらかと言えば監視しているため、甘えたな仕草や口説くような発言にもまったく動じない。

ちなみに、隣国の王子には早々に特別措置の護衛が二人付いたことで、輪に入ることは不可能。

もちろん国際問題についても理解しており、時折り声をかけられても流しているという。

ヴィクトリアの言うところによる『物語の強制力はほぼない』状態。

だというのに、王子だけがあっさりと『攻略』されてしまった。びっくりだ。

「政略結婚って、ヴィクトリア様は言い切ってましたけど……」

マジョルテが苦笑する。

王子と公爵令嬢の婚約など、誰がどう見たって政略的なものだ。

確かにヴィクトリアは、人としての好意は持っているようで、どうしても忠告せずにはいられないらしい。

嫉妬に見えるのならそれでいいと開き直り、婚約者としての『義務を果たして』いる。

そう、義務。

贈り物も手紙も送らなくなり、交流のための茶会も直前での取りやめが何度もあり、学園では常にピンク様と楽しそうにしている。

そんな姿を見れば、百年の恋も冷めるというもので。

少々意味はわからないが、『前世でオシだった』らしい王子への恋情は、さっぱり消えてしまったようだ。

おまけに、ピンク様に勝ち誇ったような顔をされ続ければ、馬鹿馬鹿しくもなる。

しかし、義理堅く生真面目な彼女は、放っておくことができない。

常に複数人での行動を徹底しているし、そもそも王子の婚約者には王家の監視が付いているので、冤罪を被せられることはないだろう。

今のところ、放っておけなくて苦言は呈しているが、婚約者として以上の発言はしない。

王子にのみ話しかけ、ピンク様とは対話していない。

ヴィクトリアも危険性は承知しているので、挑発されても堪えているらしい。

「今朝なんか『絶対あれは転生者。ヒロインはあんな意地の悪い顔はしないもの。可愛くてちんまりと善人なヒロインを返してほしい』って、すごく遠い目をしていましたよ」

「知っているというのは、いいことばかりではないわね……」

アナスタシアたちにしたら、ヴィクトリアからの前世話で初めてヒロインを知ったから、『ああこれがあの』と思うばかりだが。

知識と現実の差異に苦しんでいるらしい友人に、落ち着く紅茶を贈ろうと決める。

「おそらくピンク様は、隣国の王子以外の男性は攻略できていると考えているわね」

「そうだと思います。最近、わたくしたちにも意味ありげな笑みを向けますし」

「あの絶対零度のルディオ様の視線と、敵に斬りかからんばかりのノーマン様のお顔を、なぜそう思えるのでしょうか……」

これが『ヒロインの頭はお花畑』というやつだろうか。

ヴィクトリアが言っていた気がする。

アナスタシアとルディオ、クロエラとノーマンの関係は良好だ。何なら以前よりいい。

学園ではなかなか一緒にいないため、不仲と思われている節はあるものの、休日はほぼ共に過ごしている。

「ヴィクトリア様こそ、王妃に相応しい方なのですけどね」

婚約者との関係性に悩んでいても、友人たちが婚約者と仲睦まじくしているのを、自分のことのように喜ぶ。

一部公務も担いながら、王子妃教育はほぼ完了しており、学園でも身分の差なく優しく穏やかだ。

こんな人に仕えたい、と思わせる魅力がある。

少なくともアナスタシアは、いつか彼女の近くで働くことを目指して今までを生きてきた。

何なら乳母でも、なんて思っていたのだけれど。

「……ままならないものね」

視線の先では、ピンク様が転びかけて王子に抱きつき、王子が細い腰にがっつり手を回して笑っている。

きゃっきゃとした笑い声がここまで届きそうだ。眩しい。

「ノーマンの顔が怖い……」

「凍えそうですわ、ルディオ様の目……」

一定の距離を崩さない監視人二人を苦笑混じりに見届けて、淑女たちは次の準備へと舵を切った。