軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【番外編】騎士の重大任務 2

「お見合い、緊張します?」

元々すごくおしゃべりというわけではないが、場を和ませるための話題は豊富なヴィクトリアが、さっきからひと言も話さない。

あえて軽く声をかけると、ハッとした彼女が苦笑した。

「ええ。実は、とても。初めてなの」

顔合わせではなく、お見合い。

婚姻を前提とした婚約しかしたことのないヴィクトリアは、確かにお見合いなどとは程遠かっただろう。

「相手に任せてみたらどうです?」

なので、ノーマンはそう言ってみた。ヴィクトリアが首を傾げる。

「話題もテンポも、相手次第。口説いてみせろって、どしんと構えてたらいいですよ」

そもそも、ヴィクトリアは頑張りすぎなのである。何事にも、どこでだって、だ。

ちょっとばかり相手任せにしたってバチは当たらない。

仕事じゃないのだから、婚約するなら寄りかかれる相手の方がいい。

「我が国の筆頭公爵家のご令嬢ですよ? 目いっぱい楽しませて、一生懸命口説きやがれってんです。ヴィクトリア様が合わせにいく必要ないんですよ」

「…………そんなこと、考えたこともなかったわ」

「なら、今日はそうしてみましょうよ。大丈夫、俺が保証します」

だって、ヴィクトリアはこーんなに綺麗で可愛くて、次期宰相と目されるほど頭もよくて働き者で、おまけに性格も抜群にいい。

公爵の鉄壁を乗り越えてお見合いまでこぎつけた猛者が、この機会をみすみす逃すはずがないんである。

お見合い会場に着く頃には、幾分かヴィクトリアも落ち着いたようで、ノーマンもほっとした。

やっぱり、柔らかく笑っているのが一番似合う。

幼馴染としてずっと見続けた身としては、どうか幸せになれと願ってしまう。過保護ではない。断じて。

「あら……?」

「えっ」

「おおっ! ヴィクトリア嬢! ノーマン殿も来てくれたのか!」

メイドに案内された先に見えた人物に、ノーマンとヴィクトリアが驚きの声を上げている間に、相手はささっと立ち上がって駆け寄って来た。

出迎えるマナーとかすべてすっ飛ばしているが、そんなことより。

「アレク殿下……?」

学園時代、親交を深めた隣国の第三王子アレクが、にぱっと明るい笑みを咲かせる。

話し上手で笑い上戸の楽しい人で、ノーマンとは特に仲がよかった。

「やあやあ、久しぶりだな! さあ、座ってくれ! 我が国のお茶と菓子を揃えたんだ!」

美麗というより、顔いっぱいに感情を表現する快活さは、彼の国での普通だ。

若干気圧されているヴィクトリアをさりげなく誘導し、ノーマンは椅子を引いた。

なるほど、隣国の王子か。公爵の鉄壁の守りを掻い潜った猛者は。

ヴィクトリアの後ろに控え、周囲を含めて警戒しつつ、ノーマンは深く納得する。

流れるような仕草で自ら給仕し、菓子の特徴などを説明しながらも、ヴィクトリアの表情をつぶさに観察するアレクは、なかなかマメだった。

これはかなりの本気度と見た。さすがすぎる。

あのヴィクトリアが気づくより先に、気づかぬ間に、あらゆるものを足したり引いたりして、彼女が心地よく過ごせるよう気を配っている。

サービス精神旺盛なのも彼の国の特徴だが、それにしたって細やかだ。

いつの間にかヴィクトリアの表情もかなり柔らかく、時折り笑い声をこぼしたりして、楽しそうだ。

ノーマンは心の底から安堵した。

幼い頃から、いつも完成された大人のような少女だった。

気を抜いたところも、努力していない場面も、一度たりとも見たことがない。

張り詰めたように頑張り続ける彼女が、肩の荷を降ろせる場所があるのなら、何を置いても整えてあげたい。

少なくともノーマンの目には、今のヴィクトリアはいい顔をしている。

────うまくいくといいなあ。

アレクは第三位とはいえ隣国の継承権を持つ王子で、ヴィクトリアはこの国からは出られない身。

様々な柵はあれど、すべて承知の上で、アレクは見合いを申し込んだのだ。

腹を抱えて笑い転げる姿ばかりが思い浮かぶが、彼とて王家の出身。

きっと、ヴィクトリアの立場や気持ちを本当の意味で理解できる、数少ない人間だろう。

「ノーマン様、もう少し話しても構わないかしら?」

時間を気にしつつ、話し足りないといったふうにヴィクトリアが伺いを立てる。

ノーマンは即座に笑顔で頷き、公爵への使者を立てるためメイドを呼び寄せた。

こんなに素に近いヴィクトリアの表情を引き出せるのは、きっとノーマンや他の友人たちじゃない。

唯一と誓える相手こそが、彼女の心に触れることが許されるのだ。

願わくば、二人の未来が重なり合うように。

明るい笑い声が彩る庭園は、まるで幸福そのものだと、ノーマンは目を細めた。