軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談「夢見る年末」

年末になると、同じ夢を見る。

狭いアパートの一室を片付けに行った日。両親が「まだ片付ける気になれない」と言うので、冬休みをつかって弟がいた部屋に向かった。

掛け布団は半分ずり落ちて毛布は捲れてまま、ベッドから抜け出た形跡が今もまだ残っていた。

「えっ?!何で兄さんが俺の部屋にいんの?」

なんて言って、ひょいと帰ってきそうな気がする。

弟が事切れた場所だというローテーブルは雑多に物が置かれていて、片付けの苦手な彼の過ごした日常が垣間見える。

卓上カレンダーは12月のままで、新しい年を迎えることなく彼は逝ってしまった。

僕の息子の誕生日には大きく印が付いている。

「先月の七五三にも誕生日にも行けなくてごめん!プレゼントは届いた?」

気まずそうに尋ねるその電話が、弟との最後の会話だった。咳き込む君が気掛かりではあったけど、忙しさも相まってそこまで気に留めなかった。

君が電話をかけてくることなんて、滅多になかったのに……僕は見落としてしまった。

同月には君の誕生日もあったのに――……君は年も取らなかったね。自分の誕生日だからか、その日には何の印も付いていない。

12月の第4日曜日。こちらは、はみ出すくらいの赤丸と「単勝!!」の文字に笑ってしまう。

年末に競馬の大きなレースがあるってはしゃいでいたな。好きな馬が走るんだと楽しみにしていて……。

馬券ってどうやって買うんだろうと思いながら、一つずつ弟の残した物を整理した。

◇──◇──◇──◇──◇

「レオ兄!……じゃなくて、兄上おかえりなさい」

元気に駆け寄ってくるのはリシアン。まだ10歳の幼くかわいい僕の弟だ。

「オルセリオもいますか?」

真っ先にそう尋ねてくる。リシアンは去年、僕が父上から贈られた馬をとても気に入っている。

初めてこの馬を見た時には

「オルセ?オルシェ……」

と、何かを思い出そうとしていたからつい遮ったけれど。僕はこれ以上リシアンに前世の記憶は思い出してほしくないからね。

「オルセリオと名付けようか?」

そう言うと素直に

「はい!カッコいい名前ですね」

と喜んでいたし、目の前の馬に夢中で先程まで思い出そうとしていた何かは霧散したようだった。

リシアンはそれからも僕が帰ってくると「またオルセリオに乗せて!」と彼にしてはめずらしくねだってくる。それで僕の乗馬技術は上達したんだっけ。

「オルセリオよりも、まずはお兄ちゃんとお茶でもして最近のリシアンの話を聞かせてくれないかい?」

そう言うと恥ずかしそうに笑ってから、ハッとして固まるリシアン。

「いいんですか?兄上はそれより継母上と、その……僕、じゃない……私なんかと話すよりも」

目がきょろきょろ泳いでいる。私なんかだって?

……僕がいない間に、また何かあったな。ため息を悟られないように飲み込む。

「いいんだよ、リシアン。母上とは晩餐の時にお話をするから。今は僕がリシアンと一緒にいたいからお願い」

こう言うと、やっと安心したように笑っている。

僕にとっては素直でかわいいリシアンだけど、この世界の貴族として生きていくには難しいかもしれない。何とかして守ってやらないと。

「リシアンは大きくなったら何がしたいのかな?」

なるべく、本人の希望に沿うことをさせてあげたい。

「大きくなったら……?」

うーん……と考えているけれど、これといったものは言わない。思いつかないのかな?

「馬が好きなら騎士団の中には騎馬部隊もあるんだよ」

僕の友人もなりたいって言っていたなぁ。彼は身長がネックで騎士団入りは難しいかもしれないと嘆いていたけれど。

友人のことと、騎士団についてを説明していたら

「何で兄上のご友人は背が低いから諦めるのですか?」

意味が分からないとでも言いたそうな顔で、いきなりそんなことを言い始める。

「それは騎士団に入るならある程度の体格は必要だと言われているからね」

そういうものだと思っていたんだけれど……。

「でも、騎馬部隊もありますよね?お馬さんは軽い人間を乗せたほうが早く走れます。だから騎馬部隊なら身長って関係ないですよね?早く上手に乗れるなら問題ないです」

きっぱりと言い切っているけれど、どこからその自信はくるのだろうか。

友人の乗馬の技術は頭一つ抜けている。確かにスピードと技術があれば騎士団入りも夢ではないように思える。

「そうだね。友人にも諦めないよう伝えておくよ。リシアンは騎士になりたい?」

活発な子だし、向いていると思うなぁ。

「なりません。それに僕は兄上よりも大きくなる予定なんで、騎馬部隊も無理です」

断言された。

「……そっかぁ。大きくなるんだね」

……その自信も、どこからくるんだろうね。

まだ10歳のリシアンは僕よりだいぶ小さいんだけどなぁ。

「大きくなって、もしもの時は兄上を守ってさしあげるくらい強くなりますからね。安心してください!」

胸を張るまだ幼い弟を撫でる。

「それよりも兄上、王都でお馬さんは走って競争しないんですか?」

お兄ちゃんは今、君の健気でかわいい発言を噛み締めているところなんだけどそれよりもって……。

「うん?馬術競技会なら今度あるけれど見に来るかい?」

王都にリシアンを連れて行くいい口実になるかもしれない。

「いや、お馬さんが走るだけの……」

わくわくしながら聞いているのは分かるんだけど

「馬だけが走るのは……ないかな」

リシアン、この異世界には競馬の文化はありません。そして何かを思い出しそうでハラハラします。

「じゃあいいです。行きません」

あっさりと王都行きも断られた。

そのスンッとした顔に前世の弟が 過(よ) ぎる。ブレないな。あんまり覚えていなさそうなのにこんなところだけは……君は変わらない。

◇──◇──◇──◇──◇

「兄上!じゃなくて、レオ兄さん久しぶりー」

今年も年末になってリシアンが王都にやって来た。

「これ、フリューゲルへのプレゼントね」

……まだ息子は生まれたばかりなんだけど、この量のプレゼントって何?

何が入っているのか気になるし「ギンさんよりマシだから」じゃないんだよ……あの方はああ見えても王族なんだから比べないように。

愛馬のゴルディくんを労るように撫でてご褒美の角砂糖を食べさせている。

その後ろ姿を見ながら、本当に僕より大きくなったなと思う。

強くなりますとも言ってたけれど、まさか国家転覆どころか他国も軽く侵略出来ますっていうレベルの過剰戦力になるとは思わなかったなぁ……。

昔のほのぼのとした思い出と、現実の魔王伯とも呼ばれる弟を見比べると遠い目をしたくなる。

白い毛並みのゴルディくんとリシアンを見て小さく「あっ」と声が出る。

前世の弟がいなくなった年末、そして大きなレースの結果を思い出した。

「……勝ったよ、君が応援していた子」

「レオ兄さん?何か言いました?」

振り返るリシアンは、あの「弟」ではない。

リシアンは「今世の弟」で彼とは別の人物だ……。

やっと、何か一つ。胸につかえていたものがストンと落ちた。

「何でもないよ。寒いから中に入ろうか?」

そう答えて、リシアンを家に招き入れる。

今年から、あの夢はもう見ない。

そんな予感がした。