軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第52話 仲間

「俺の固有スキルは──」

言いかけて、ふと一呼吸おいた。言葉にしてしまえば、取り返しのつかないような気がしたからだ。

でも、もう決めたことだ。メイリンになら、話してもいい。

そう思って、俺は改めて口を開いた。

「壊れたものや、使われたアイテムを回収して、それをポイントに変換する能力だ。で、そのポイントでアイテム類と交換ができる。もちろん、なんでもってわけじゃない。回収するにも制限があるし、交換できるアイテムも、同じく制限されてる」

「おおーっ」

メイリンが声を上げた。予想以上に素直な反応だったので、少し面食らった。

「ってことはさ、遺跡で壊れた武具を拾って消えてたのは、そのスキルのため?」

「ああ。回収して、ポイントに変えて。それで回復薬とかに交換して渡してたってわけだ」

「なるほどねぇ……」

腕を組みながら、メイリンが小さくうなずいた。その顔は興味津々というより、もう完全に楽しんでる感じだ。

「じゃあ、その“回収できるアイテムの制限”って、どんな感じなの?」

「恐らくだけど……“ゴミ”と認識されるもの、じゃないかと思ってる」

言いながら、俺自身もあやふやな自説を頭の中で反芻した。

「ただ、その“ゴミ”ってのが誰基準なのかまでは分からない。俺なのか、世間なのか、あるいはスキル側の判断か──」

「ふうん……」

メイリンが顎に手を添えながら、少しだけ難しい顔をした。だが、すぐにまた、にやっと笑う。

「じゃあさ。持ち主からすれば『まだ使える』って思ってるものが、他人から見たらただのゴミ、みたいなのはどうなるんだろうね?」

なるほど。

正直、それは考えたこともなかった。回収できるかどうかの境界線、その“主観”が絡む領域を、俺はまだ確かめていない。

「……たしかに。それはちょっと、試してみたくなるな」

「でしょ?」

メイリンが得意げに言いながら、腰のポーチをごそごそと探り始めた。

「ちょっと待っててねー……あった、これこれ!」

彼女がぱっと取り出したのは、手のひらほどの細長い木の板。長さにして10センチほど、厚みは薄く、どこかで見たような気もするが──

「……定規、か?」

つい言葉が漏れる。

「ふふっ、まあそんなとこ。実はこれ、名刺入れのフタ部分でね、もうヒンジが壊れてるから、本体から外しちゃってるんだけど……」

そう言いながら、彼女はその木の板を大事そうに持ち直す。

「これ、私にはまだ“使える”ものなの。小物を押さえるときの下敷きにしたり、時々メモ帳の背当てにしたりね。でも、見た目はまあ、完全にただの端材」

そう言って、俺のほうに差し出してくる。

「……本当にいいのか? 回収したら、二度と戻らないぞ?」

「いいよいいよ! 実験だし、また似たようなの作ればいいし」

軽く笑ってみせるその顔には、迷いがなかった。

俺は小さく頷いて、そっと手を伸ばす。

手のひらに木の板が乗った瞬間──思考が静かにスキルに集中する。

──【名刺入れ(破損) :120P】

視界の端に現れた小さな表示と共に、木の板が光に包まれ、静かに粒子となって霧散した。

「おおっ……消えた!」

メイリンの声が跳ねるように響いた。

その目は輝いていて、まるで魔法を初めて見た子どものようだった。

俺は、そんな彼女の反応を見ながら、少しだけ口元が緩んでいることに気づいた。

──悪くないな、こういうのも。

「なるほど……これで“消えた”ってことは、少なくとも“持ち主の認識”によるゴミではない、ってことか」

俺はつぶやきながら、さっき手渡された奇妙なパーツのことを思い出していた。あれを渡される前に、メイリンははっきりと説明してくれたし、俺自身も“これは使えるものだ”と判断していた。明らかに壊れてはいたが、直せば使えそうな部品だった。

──それなのに、回収スキルを使った瞬間、あっさりと光の粒になって消えてしまった。

「そう考えると……スキルそのもの、あるいはそれを付与した“何者か”の視点で、ゴミか否かを判断してるのかもしれないな」

ぼそっとこぼした言葉に、メイリンがぽんっと手を打った。

「ふむん、なるほどねぇ。迷宮が突如として現れたこととか、あなたの固有スキルの存在も考え合わせると、やっぱり“何か”が背後で関与してるって気がするわよね。じゃあ、その“何か”は何のために? なにを、させようとしているのかしら……?」

彼女は両手で自分のこめかみをぎゅっと押さえて、深刻な顔で唸った。

「……むむむーっ!」

おでこにしわを寄せて真剣に悩む様子が、あまりにもコミカルで、思わず笑いそうになる。彼女の頭から、まるで煙が立ちのぼっているかのような幻覚が見えた気がした。

「……うーん、わからん!」

突然、メイリンが手を広げて天を仰ぐ。肩の力を抜いて、いつもの調子に戻ったようだった。

「まあ、とりあえずさ。ぱっと見ゴミっぽいものは、なんだかんだで回収スキルで拾えるってことがわかったなら、それで良しとしましょ? 難しい話は、あとからゆっくり考えればいいのよ。今はまだ、ピースが足りないんだもの」

肩越しに笑いかけてくる彼女に、俺も自然と小さく頷いた。

「……そうだな。今の段階では、それでいいと思う。焦っても仕方ない。……それよりも、次は“交換できるアイテム”のことだな」

「うん、それそれ!」

メイリンの目がぱっと輝く。先ほどまでの難しげな表情はどこへやら、完全に“興味の対象が変わった”という顔をしていた。

「で? どんなのが交換できるの? なんでも? レア武器とか、魔法アイテムとか?」

「いや、残念ながら“なんでも”ってわけじゃない。さっきも言った通り、条件がある。俺が体感した限りでは、主に二つのタイミングで交換リストが更新される。一つは、新しい階層に初めて到達したとき。もう一つは、未使用のアイテムを初めて使ったときだ」

「へぇー、けっこう限定的なのね」

興味深そうにうなずくメイリン。その反応を見て、俺は少し考えたあと、続けた。

「ただし、例外もある。たとえば……ここに飛ばされたときには、リストは更新されなかった。階層としては新しい場所のはずなのにな」

「ふむふむ?」

「逆に、遺跡で“魔力回復薬”を交換して渡したろ? 俺は使っていないのに、なぜか交換リストに追加されたんだ」

「へぇ~? じゃあ、自分で使わなくても、周囲で使われたのを“観測”しただけで追加される場合もあるのかな?」

彼女の目が細くなり、軽く口元を噛んだ。なにか考えているらしい。

「……うーん、そのあたり、ちょっとふわっとしてるわね。でも、たぶん……階層に関しては、正規のルートでちゃんと進んで来てないから、反映されなかったんじゃない?」

「正規の……ルート?」

「そう。ほら、私たちって、“事故”でここに来たでしょ? 本来の順番をすっ飛ばして」

なるほど。確かに、その可能性は高い。

「じゃあ、今から俺たちは上の階層に向かっていくことになるけど、それって……“正規のルート”じゃないってことになるのかな?」

そう口にしながら、俺は脳内で経路を反芻した。

本来なら、第一層から"下"にいくはずのもの。だが、今の俺たちはその逆、これから“上”を目指す。順序を逆行する行為が、果たして正式なルートと呼べるのか。

「うーん、それなんだけどね……」

メイリンが腕を組み、わずかに首を傾げる。柔らかく揺れるポニーテールが、淡い光に照らされて揺れた。

「もしかしたらさ、上の階層についたら、そっちが“最新の階層”として記録されるかも?」

「……どういうことだ?」

反射的に聞き返す。よくわからない理屈だが、メイリンの話す目は真剣そのもので、根拠がないわけではなさそうだった。

「えっとね、ゲームとかだとさ、“フラグ管理”ってのがあるじゃない? あるイベントが起きたら次の行動が解禁されるみたいな。階層の入口や出口に、そういう“到達フラグ”みたいなのがあって、それを通らないと記録が更新されないんじゃないかなって思ったのよ」

彼女は指先で空中に架空のリストをなぞるようにしながら、続ける。

「今回、私たちはどこの入口も通ってないでしょ? いきなりこの階層に“飛ばされた”から、到達って認識されてないんだと思うの」

「なるほど……」

言われてみれば確かに。ゲーム感覚の話とはいえ、俺たちがいるこの迷宮では、そうしたルールが存在していても不思議じゃない。

「じゃあ、次の階層に上がったときに、フラグが更新されるかどうか確認してみよう」

俺がそう言うと、メイリンは満足げに頷いた。

「そうね! 有用なアイテムが交換できるなら、今のうちに準備しておきたいもの」

そう言った瞬間、彼女の目がふと大きく見開かれ、「あっ!」と短い声を上げた。

「……なんだ?」

不意を突かれて問い返すと、彼女はなぜか視線を泳がせながら、そわそわと落ち着きなく動き出す。

「いや、あのね、ちょっとその……ふわっと話し始めちゃった感じなんだけど」

「ふわっと?」

彼女にしては珍しく、妙に回りくどい。あの快活で直線的な言動が嘘のように、言葉を探しながら口ごもっている。

「そのさ、運命的な……出会いって言ってたじゃない。あのアーティファクトで」

ぽつりぽつりと、言葉を選ぶように彼女が続けた。

さっきまでよりも少しだけ顔が赤らんでいるのは、気のせいじゃない。

「それにね、ほら、私……あんたから“固有スキル”とか教えてもらったりしてるし……普通、そんなのって、誰にでもすることじゃないでしょ?」

「……まあ、そうかもな」

「……だからさ」

彼女は一度、口をつぐんだ。少しだけ唇を噛んで、意を決したように顔を上げる。

「だから……私たちって、パーティ仲間、ってことで……いいのかしら?」

その言葉は、思っていたよりもずっと、まっすぐだった。

そして何より──どこか不安げなその目が、俺の返答を真剣に待っていた。

ああ、そうか。

──俺は、いつの間にか。

遺跡での戦いをともに乗り越え、死地をくぐり、こうして今も共に歩いている。

彼女の明るさや真剣さに、知らぬ間に救われていたのかもしれない。

それはタケウチたちと行動を共にしていた時とは、どこか異なる感覚だった。

「……そうだな。仲間──なんだと思う」

言いながら、言葉に少しだけ自信がなかったのは、きっと“関係”に名前をつけるのが少し照れくさかったからだ。

「疑問形なのが気になるけど……」

メイリンがふっと笑って、右手を差し出してきた。

「じゃあ、改めて、よろしくね!」

俺もその手を取り、軽く握り返す。

「こちらこそ、よろしく」

その一瞬だけ、なぜか空気が少し柔らかくなった気がした。

ただの協力関係だったはずの二人が、ようやく“仲間”になった。

そんな小さな変化を、俺は確かに胸の奥で感じていた。