軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第33話 思いもよらないドロップ

広間に静寂が戻った。

俺とタケウチは無言で頷き合い、それぞれ慎重に周囲を見回しながら、倒れたアリたちのもとへと歩を進めた。

どうやらドロップは一つだけのようだった。

奴らが倒れた場所に、ぽつんと何かが転がっている。俺はゆっくりと手を伸ばし、それを拾い上げた。

「……鍵?」

掌に収まったそれは、どこか古めかしい雰囲気をまとった金属製の鍵だった。童話にでも出てきそうな、いかにもといった形状をしている。

鈍く光る銅色の表面には細かい傷が刻まれており、作り物めいた感じはしない。

表示される名称は、ただ一言。

《銅の鍵》

それだけ。何の鍵かも、どこで使えるかも、何も説明はない。

「……特に、追加の情報もなしか」

ぽつりと呟いて、俺は鍵を持ったまま振り返った。後から追いついてきたタケウチたち三人が、俺の手元に目を向ける。

「ドロップアイテム、これだけでした。名前は……『銅の鍵』ってだけですね」

鍵を見せながらそう言うと、ミツイが少し眉を寄せた。

「鍵……どこかに対応する扉でもあるんでしょうか……」

「だとしても、そんなもんなんでモンスターがドロップするんだ?」

ケイゴが腕を組みながら周囲を見回しつつ言う。確かに、ここまで進んでくる中で、いかにも“鍵穴”がありそうな場所には出くわしていない。

「特殊なアイテムなのか、そうでないのか、現状よくわからないですね」

俺の言葉に、タケウチも静かに頷く。

「いずれにせよ、持っていきましょう。後で識別の石板にかければ何かわかるかもしれません」

タケウチの言葉に頷き、アイテムボックスにそれをしまう。

「あ、そうだ」

ふと、思い出したように声が漏れる。

「アイテムに気を取られてましたが──さっきのアリの経験点、結構高かったですよ」

鍵を手にしていたせいで、すっかり頭から抜けていた。でも、今しがた表示されたポイントは明らかに一層のときよりも多かった。

三体合わせて、合計で50点。

前に出ていた二体がそれぞれ15点、そして奥で魔法のような攻撃をしてきた個体が20点。たった三体でこれだけ入るなら、明らかに一層よりも効率が良い。

「なるほど。確かに武器の使用や遠距離攻撃手段持ちなど、一層と比較してかなり強くなっていますからね。その分、経験値も高いんでしょう」

ミツイが補足する。

「ってことはだ」

腕を組んでいたケイゴが、真剣な面持ちでこちらを見る。

「レベル上げするなら二層の方がいいってことになるが……今んとこ、どうだ? イトウを除いて、俺たちでもいけそうか?」

問いかけられたミツイはほんの一瞬、目を伏せて考え込むような素振りを見せた後、静かに答えた。

「先ほどの戦闘だけでは判断しかねますが……やはり、レベルも装備も、今のままでは心許ないかと」

正直な意見だ。俺も同意見ではある。敵の強さはもちろんだが、安全マージンを十分とらないと"事故"が怖い。

「そう……だな」

タケウチが低く、呟くように言った。

「だが、まだ二層に入って最初の戦闘だ。他にどんなモンスターが出てくるか、もう少し様子を見たい」

彼の言葉に、俺たちは小さく頷いた。

戦力的には不安が残る。でも、情報がなければ何も判断できない。今はまず情報を集めることを優先する。

「じゃあ、進みましょう」

そう言って、俺は改めて仲間たちを促すように足を踏み出す。

迷宮の深部へと進んでいく足音が、湿った岩肌に反響していた。

* * *

……気がつけば、だいぶ時間が経っていた。

もともとは“少しだけ”探るつもりで、せいぜい一、二戦して、敵の傾向や二層の雰囲気を掴んだら戻る予定だったのだが。

結局、今の時点で探索を始めてからすでに二時間弱。結構な時間を第二層で過ごしていた。

だけど、それも無理はない──正直、思っていた以上に収穫が多すぎた。

まず、敵のバリエーション。

驚くべきことに、出てきたモンスターはすべて、あの“二足歩行のアリ”だった。武器を扱う異形のアリ。

一種の種族とでもいうべきか。この階層は、どうやら奴らの縄張りらしい。

ただ、同じアリでも個体差、というより装備差があった。

最初に遭遇したのは、剣と盾を構えた典型的な前衛型。それに加えて、後衛のような立ち位置で魔法らしき攻撃を放ってくる杖持ち。

そしてさらに進むにつれ、他にも様々な装備を持ったアリと遭遇した。槍、戦槌、弓、短剣、斧──それぞれが異なる武器を手にし、動きも異なっていた。

もはやただのモンスターというよりは、何らかの“兵士”のような存在に思える。

タケウチたちも、その動きや戦法の違いに驚きを隠せなかった。

「まるで中世の兵隊たちでも相手にしてるみたいですね……まさか、ここまで多様な武器を扱うとは」

ミツイが呆れたように、けれど感心した様子で呟いていた。

でも、何より印象的だったのは、奴らの“戦利品”だ。

アリたちが持っていた武器がドロップされたのだ。

どれもしっかりとした武具のようで、実際に手で持って振るってみても特に違和感を感じなかった。

アリが使っていたという先入観がなければ、普通に装備品として"使える"レベルの品ばかりだった。

「うお……こりゃいいな」

ケイゴが、ドロップした斧を手に取ってそう言った時の、目を輝かせた様子は妙に印象的だった。

もちろん、獲得できた内容に偏りはあった。剣、短剣持ちの出現頻度が高く、その分それらのアイテムドロップが多い。

それでも、確認できただけで全種類の武器がドロップすることはわかった。

だが、武器だけじゃない。

──いや、むしろこっちの方が“本命”と言っていいかもしれない。

アリたちとの戦闘を終え、ひと通り確認し終えたところで、俺は武器とは違うドロップ品に気が付いた。

淡い光を帯びた、見覚えのある球体。掌にすっぽり収まるほどのサイズで、うっすらと脈打つような波動を感じる。

拾い上げた瞬間、情報ウィンドウが表示された。

<スキル球:土棘(最下級)>

目を見開いたまま、しばし呆然としていた。

間違いない。これは、スキル球だ。

「おいおい……マジか」

俺は思わず独りごちていた。

今までスキル球といえば、ボス級──それも明確に“強敵”として設定されている存在からしかドロップしないものだと思っていた。

それが今、雑魚……とは呼べないにしても、一般のモンスターから手に入った。

しかも、ひとつじゃない。

少し離れた場所で、ケイゴが似たような光の球を拾い上げていた。

「おい、イトウ。これも、そうだよな?」

差し出されたそれに視線を向け、浮かび上がる情報を確認する。

<スキル球:治癒(最下級)>

……攻撃と回復。

片方は、最初俺たちに向けて“地面から岩の棘”を突き出してきた、杖持ちのアリが使っていたものと同じ。

もう片方は、それとは別の、やや異質な雰囲気を持った個体が使っていたものだ。

直接戦闘に介入することはなかったが、戦っていたアリに対して、明らかに何かしらの支援行動をしていた──つまり、ヒーラー的な役割の個体だったのだろう。

「……すげぇな。まさか雑魚敵からも出るとは」

ケイゴが感心したようにぼやき、ミツイも冷静な表情ながらどこか目を輝かせていた。

「しかも、攻撃スキルと回復スキル……パーティ運用を前提にしたような構成ですね」

「おそらく、ですが」

俺は静かに言葉を継ぐ。

「この階層では、一定確率で、とはいえおそらく低確率でスキル球がドロップするようになってるんじゃないかと。ボスだけじゃなく、通常個体からも……それも、戦闘内容と連動してるような気がします」

「だとしたら……こりゃ、二層の価値が跳ね上がるな」

ケイゴがそう言って、腕を組んだまま深く頷いた。

ランクは最下級──確かに、強力なスキルとは言えないかもしれない。

けれど、“遠距離攻撃”と“回復”という、この世界では貴重な選択肢が取れる意味は大きい。

* * *

結果として、今回の探索は収穫の多いものになった。

敵の戦力、行動パターン、経験点の増加幅、そして何より──スキル球を含む貴重なドロップの存在。

短時間とはいえ、二層の情報をこれだけ持ち帰れたのは、かなりの成果だろう。

……とはいえ、流石に時間が押してきた。

探索を終えた俺たちは、そろそろ撤収の判断を下す。

来た道を注意深く戻りながら、再び第二層の入口に向かって歩を進める。

途中、新たに襲ってきたアリから、追加のドロップをいくつか回収した。

目新しいドロップはなかったが、それでもいくつかの装備が追加されたので良かった。

やがて、目の前に例の小部屋が見えてくる。

そして、部屋の中心──静かに、しかしどこか存在感を放ちながら、ポータルが佇んでいた。

「さて、では帰還を試しましょう」

タケウチが周囲を一通り確認したのち、ポータルへと歩み寄る。

ポータルに手をかざすような仕草の直後、彼の姿は一瞬で霧のように崩れ、光の粒子となって消えた。

「お、問題なさそうだな」

後に続いたケイゴも同様に、軽い足取りでポータルに飛び込んでいく。

さて次は……と隣を見ると、ミツイが小さく頷いて俺を促してきた。

「どうぞ、先に」

「……じゃあ、失礼して」

俺は軽く頭を下げ、ポータルの縁に足を踏み出す。

目的地は──第一層の入口。

意識した瞬間、世界が一瞬だけぐにゃりと歪む感覚に包まれ、次に目を開けた時には──そこに、タケウチとケイゴの姿があった。

「おかえりなさい」

「無事転送できたみたいだな」

二人の言葉に頷き返しつつ、周囲を見回す。

少し離れた場所に、先ほどと同じような光の柱が立っていて、そこから再び光の粒子が溢れ出す。

その中心に、ミツイが転移してきた。

視界が落ち着いてくると、今自分たちが立っている場所が、第一層の入口から少しだけ外れた空間──“セーフエリア”内であることが分かった。

「ここ、前は何もなかったはずですよね」

俺がぼやくと、タケウチが顎に手を添えながら視線を巡らせる。

「やはり、第二層のポータルが開いた影響でしょう。迷宮そのものの構造に変化が起きたのかもしれません」

ケイゴが腕を回しながら、やや気楽そうに言った。

「なんにせよ、無事に戻ってこれたんだ。よし、さっさと識別に行くか。スキル球に武器に、鍵に……今回は収穫が多かったぜ」

「ええ、楽しみですね。特にあの“治癒”スキルは、ぜひ詳細を知っておきたいです」

ミツイが真面目な口調のまま、わずかに表情を綻ばせる。

そして俺も、背負っていたドロップ入りのバッグを一度軽く叩きながら、小さく息をついた。

入る前にはまだ青空だったはずの空は、すでに茜色から夜の帳へと姿を変え始めていた。

肌を撫でる風が少しひんやりしていて、何となく日常の世界へと帰ってきた実感が湧く。

「じゃ、行きますか。お楽しみタイムだ」

誰からともなくそう言いながら、俺たちは迷宮の入り口を後にした。