軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編・ヴァル視点SS

魔法が使えず秘匿され続けていた私はあの日、運命に出会った。鬱々としていたあの頃、気分転換にと連れ出された湖には私より年下であろう少女が魔法を使い湖面を歩いていた。もう嫉妬もしなかった。何も感じなかった。

けれど、目の前でその少女が湖に沈んでいくのは駄目なことだと、強く思ったのだ。

「えへへぇ、びっくりした。お兄さん、ありがと」

いきなり湖に沈み込んだ少女は私の腕の中で朗らかに笑い、頬にキスをくれた。当時は無我夢中で何をしたのか自分でも理解していなかったが護衛の一人が興奮しながら、しかし小声で「ヴァル様が、魔法ですくいあげたのですよ!」と教えてくれた。

呆然としている間に少女は帰ってしまったが、彼女のことはすぐに調べさせた。だって、彼女は私の運命なのだから。そもそもお礼をするから連絡をくれとテゾーロ侯爵家の者が所在を教えてくれていたので何のこともなかった。

「父上、私はエマ・ファルファラ嬢と結婚がしたいです」

魔法が不自由なく使えるようになり、私は公爵家本邸に戻された。そして挨拶もそこそこに、本題に入る。さすがに性急すぎたかと思わないでもなかったが、ことは一刻を争うので仕方がなかった。

父は一瞬だけ目を見開き、しかしすぐにいつもの様子に戻った。

「……お前の魔法を引き出す為に一役を買ってくれたことは事実なのだろう。しかしファルファラ家は子爵位しか持たない。そんな家の娘を公爵家に無理に嫁がせれば、苦労をするのはお前ではなく彼女なんだぞ」

「では、彼女が高位貴族となればいいのですね?」

言質を取ったので、次は行動に移した。やることは多くあったので、ここに列挙するのは控えよう。

「あの子、昔の貴方そっくり。欲しいものは必ず手に入れると豪語していた情熱溢れる頃の」

「……」

「ほほ、血は争えないものですわ」

「私の情熱は未だ衰えていないが?」

「あら」

両親のそんな会話が漏れ聞こえてきた時には、ああこれは父の血かと納得をしたものだった。

「エマ・ファルファラ嬢が、突然膨大な魔力に目覚めたらしいね」

それを私に伝えてきたのは、我が国の皇太子殿下であった。運命と共に生きるには権力はあるだけあればいいと励んだ結果、私は今や彼の側近の一人だ。

「そのようですな」

「……ヴァル、まさかとは思うが」

「殿下、私に人知を超える力はございません」

「ああ、さすがにそうだよね」

「ですが」

「うん?」

「この好機を逃すつもりもございません」

「ずうっと根回しと準備していたものね。ふふ、まあじゃあ、微力ながら協力するよ」

「有難く存じます」

殿下の協力も得、私は運命を手に入れた。我々は運命なのだから、手に入れたという表現は相応しくないのかもしれない。そう、あるべきところに収まっただけなのだ。

「どうなることかなと思ったけれど」

「はい」

「すごく順調そうだね、ヴァル?」

「ええ、おかげさまで」

「地方下級貴族の出身とは思えない程の優雅な所作、知識も申し分なく健康でおおらかでほがらか。ボードゲーム発案者であるからか、彼女との会話も楽しいと評判だ。抜けているところがあるのも愛嬌として受け入れられているのは人徳だな。あれであの魔力を自在に使うことができれば向かうところ敵なしだったろうに」

「彼女はあのくらいで丁度よいのです」

「ライバルが増えるものね?」

「全く以て煩わしい限りですが」

「その顔、彼女の前でしてはいけないよ」

「はは、あり得ないことですな」

「うわあ……」

年相応に顔を歪める殿下は、通常よりも随分と幼く見える。しかしこれでも主君としての才覚を感じさせてくれるのだ。これが皇帝の血筋であるのだろうか、それとも彼自身の力なのか。まあ、それはこれから見極めていけばいい。どちらにしろ、私と私の運命の幸福の為にもこの国には平和に続いてもらわねばならないのだ。利害の一致とは、素晴らしいものである。

結婚をしてからは、仕事を終え家に帰れば私の幸いが迎えてくれる。ここが楽園だ。

「ヴァル様、おかえりなさい」

「ただいま、エマ。今日は何をしていたんだ?」

「お義母様とお茶をして作法と勉強を見てもらいました。あとはルービックキューブの試作品も試したんです。いい出来ですよ。あとで貸してあげますね。それから人狼ゲームというものを作ろうと思っていて、ルールはもうあるんですけど」

「……穏やかじゃない名前のゲームだな」

「そうなんです。だから何かいい名前はないかしらって……」

「まあ、それはあとにしてくれ。君の夫が帰ってきたんだぞ?」

「……おかえりのキスって毎日ですか?」

「毎日だ」

「う、ま、まあ、新婚ですものね」

顔を赤くしながらそっと体を寄せてくる運命を抱き寄せながら私は、新婚でなくなっても必ず毎日やらせようと強く心に誓った。