軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32話「頬にキスくらいしてやったら?」

「暇ですわー」

ジャルファ王子が来訪してから、国王や兄たちは忙しそうに会議している。

一方で俺とルゥルゥは、蚊帳の外であった。

「姉上~。私たち、ほったらかされてません?」

「国家の一大事だもの、仕方ないわ」

王女としてのお勉強は、執事さん達が忙しいのですべてキャンセル。

ルゥルゥしか話し相手がいないので、 王女会(プリンセスパーティ) が連日開催され、もう話題が尽きてしまった。

俺の職務は、晩餐会で王子をチヤホヤすることだけであった。

「みんな忙しそうにしてるのに……」

「私たちだけヒマで、悪い気がするわね」

タケルとポーリィさん、ロウガ卿は前線にいて戦ってくれている。

ベルカやルリちゃんはブユルデストだし、ジュウギは 炭鉱街(コールタウン) で研究の真っただ中。

ヒマなのは王女姉妹だけである。

「人生を浪費している気がしますわ」

「全くやることない私よりマシよ。リシャリは、研究の仕事があるじゃない」

「……あんなもの、書類をパコパコ『承認』していくだけですわ~」

実は俺は、ジュウギの研究に関する書類仕事は任されていた。

国家機密に当たるため、文官に仕事を振れないのだ。

だが、その仕事内容は……

「ジュウギさん優秀だから、私のやることがありませんの」

「そうよね、優秀よねあの男」

ジュウギから送られてくる研究予算案に『承認』と署名をするだけのお仕事だった。

送られてくる内容がいちいち完璧すぎて、言うことがないのだ。

最近は内容が難しいのもあって、読まずポンポン承認していたりする。

ジュウギのことだから、ミスなんてないだろ。

「炭鉱開発の人手が足りないって話はどうなったの? 移民は無理だって、ジケイ言ってたけど」

「ああ、それに関しては妙案を思いつきましたわ」

「妙案?」

またジュウギの求める『人手の確保』は、実は俺が解決していた。

無論、いきなり炭鉱に住み込んでくれる移民集団など見つからなかったが……。

『ジュウギさん。試験鉄道を、港町のアナトに繋いで頂けませんか』

『試験鉄道を、ですか』

俺は最寄りの港町まで仮に鉄道を敷くよう、指示を出したのだ。

『アナトまで、距離にして約十二キロメートルほど。 試験(テスト) にはちょうどよい距離かと』

『アナトですか。確かに、理はありますが……』

ジュウギはもともと、首都に線路を伸ばす計画を立てていた。

だが彼は俺の考えを聞いて、アナト方面へ鉄道を敷く案を了承してくれた。

……出来れば俺がいる首都と鉄道を繋ぎたかったそうだが。

「港町に繋いで、人手がどう解決するのよ」

「季節や天候により、水夫が働けない時期があるでしょう? そういう人を炭鉱開発に雇うのですよ」

「……十キロメートルも離れた町の漁師を? 移動だけで時間がかからない?」

「鉄道で迎えに行って、送り返せばよいのですわ」

そう。俺は鉄道を用いて、炭鉱夫を港町から運んでくるという勤務形態を考案した。

この世界で初めての、『通勤電車』を考案したのである。

「汽車で雇った人を運ぶのか。面白いじゃない」

「上手くいけば、人手の問題は解決しますわ」

「雇用も増えて経済も回る。給料次第で、人手は集まりそうね」

港町アナトはデケン帝国との交易で、首都に次いで栄えている都市だ。

鉄道を繋ぐことで、研究に必要な物資が仕入れやすくなるという利点もある。

「この案はジケイ兄上にも了承を貰えて、炭鉱夫を雇う予算も頂きましたわ!」

「私も良い案と思うわ」

この案を話すと、ジュウギから『リシャリ様は本当に頭の良いお方』と絶賛された。

まぁ俺が現代人だったから出てきた発想なのだけど。

「上手くいけば、年内には問題が解決する手筈ですわ」

「なるほどねぇ」

魔法があるからか、この世界の施工速度はバカ早い。

おそらく年内には、完成する見込みらしい。

「ジュウギのお陰で、一気にサリパが発展したわね」

「まだまだこれからですわ、姉上。……もう、いくつかヤバい発明案が届いていて」

「あー……」

ジュウギに会った時、彼は『他に面白そうな発明を用意しました』と大量の計画書を置いて行った。

そこには魔道具を使用した蒸気自動車、蒸気船などの次世代の乗り物に加え、蒸気機関によるベルトコンベアも考案されていた。

一人でどれだけ時代を進める気だアイツ。

「ジュウギさん、予算が下りて水を得た魚のようですわ」

「彼が出ていったかもしれないと思うと、肝が冷えるわ」

この世界では魔法で鉄を加工できるため、開発ペースは早い。

国中の土魔導師を動員すれば、十年以内に鉄道網を張り巡らせることもできるだろう。

……となると環境問題の対策も必要だな。早めに手を打つ必要がありそうだ。

「後はヤイバンさえ何とかなれば、この国は安泰ですわね」

「デケン帝国が動いてくれるかどうか、ねぇ」

国内の研究や産業は、未来が明るい。

残る問題は、目下最大の敵であるヤイバンである。

「戦争の勝利条件って何なのでしょうか、姉上」

「デケンが動くことよ。それ以外の条件はないわ」

「タケルがいても、サリパだけでは勝てないってことですか?」

「勝てても統治できない、が正しいわね」

戦争に勝つということは、戦火で荒廃した土地を治めるということ。

だがサリパの国力はドラズネストを占領しただけでキャパを大きく越えている。

例え勝利しても、ヤイバンの占領など現実的ではないのだ。

「さて、統治者のいない荒れた土地の住民は、どうするでしょうか」

「……周囲を略奪する賊になっちゃいますね」

占領できなかった場合、ヤイバンは無政府状態になる。

そうなれば飢えた賊がサリパに流れ込んできて、略奪を繰り返す未来が容易に想像できる。

だからデケン帝国に侵攻して頂き、統治して貰うしかないのだ。

「どうしてヤイバンは、ウチへ侵攻してくるのでしょうか」

「ヤイバンからしたら、憎きデケンの属国ですもの」

サリパ王国がヤイバンに戦争を仕掛けたことはない。いつも攻められるだけだ。

その理由は、デケン帝国の属国だからである。

デケン帝国は侵略国家で、ヤイバンに侵攻を開始したのもデケン帝国からである。

国王(ちちうえ) は攻められる前に、属国にしてもらった形だ。

つまりヤイバンからすればサリパは、『ムカツく奴に媚びてるコバンザメ』。

そりゃついでに攻められるわ。

「かといってヤイバンと停戦すればデケンに怒られますしねぇ」

「弱小国の悲哀、ってヤツよ」

ただデケンは、サリパに停戦なんて許してくれない。共同戦線で戦え、と命令してきている。

両国の戦争に、なるべく巻き込まれたくないのだが……。

サリパはデケンの顔色を窺って立ち回るしかないのだ。

「姉上は、ヤイバン軍がサリパに主力軍を向けると思いますか?」

「あり得ると思うわ。ドラズネスト併合のせいで」

「うっ」

姉上が言うには、ドラズネストがサリパに併合された件で反感が高まっているらしい。

このままだと主力軍を動員した、全面戦争は避けられない空気だとか。

「ドラズネスト併合に噛んだ身として、勘弁してほしいですわ」

「主力がこっちに来てくれるなら、デケン帝国が侵攻してくれて勝ちじゃない」

「守り切れるとは限らないじゃないですか」

「そこはタケル君を信頼してあげなさいよ」

デケン帝国が重い腰を上げてくれれば、ヤイバンを滅ぼすチャンスでもあるのだ。

ヤイバンさえ併合されてしまえば、俺たちの周囲に脅威はなくなる。

「ロウガも防衛戦は上手いし、何とかなるでしょ」

「たしかにタケルは強いですけど、パウリックは『意外と勝てる』と言うのですわ」

「……ふーん?」

実はジャルファ王子を迎えに行った際、パウリックから見てタケルはどんな強さなのか聞いていたのだ。

すると驚いたことに、彼は『次にやれば勝てる』と豪語した。

俺はてっきり、強がっているのかと思ったが……。

『タケルは孵化していない、金の卵でございます』

『それはどういうことですか、パウリック』

『まだ付け入る隙がたくさん残っておるのですよ』

タケルは正攻法だとめっぽう強い反面、弱点も多いらしい。

特に『毒』を使った搦め手が致命的だそうだ。

『タケルという少年は、頑丈であるがゆえに被弾が多い。防御が甘いのです』

『ふむ』

『特に、拳を構えた瞬間に隙が多い。打撃を出すのに集中しすぎて、周囲への警戒がおろそかになっているのです。現に訓練では、そのタイミングでポーリィの攻撃を貰っていました』

『おぉ……』

聞けばタケルが正拳突きを繰り出すには、かなり集中を要するそうだ。

なぜならそのスピードゆえに、何かにぶつかると大怪我を負うかららしい。

タケルは頑丈だが、龍ほどの装甲はない。『タケルがタケルに殴られれば』、致命傷になりうるのだ。

『なので、タケルが攻撃を繰り出す際に一瞬だけ静止します。そこを狙えば、ポーリィでも剣を当てられる』

『なるほど。それは確かに明確な弱点ですわね』

『攻撃を貰うということは、それが致命の一撃であれば死ぬと言うこと。それすなわち』

『……毒ですか』

さらにタケルは毒に耐性がない。

タケルの『隙』に気付いている、毒武器をもった兵士に囲まれたらかなりヤバいのだ。

『まぁ、そういうわけで。毒剣を用意して頂けるなら、タケルすら仕留めて見せますぞ』

『仕留められては困りますわ!』

『冗談にございます。安心してください、ヤツが帰ってきたら改めて鍛えますので』

その隙に気づいたパウリックは、タケルに防御の基礎を叩きこんでいたらしい。

自分より強いタケルの弱点を見抜き、対策できるパウリックは本当に優秀である。

『タケルはそもそも、龍に負けておりますからな。無敵ではございませぬ』

────ただ、なんで比較対象が龍やねん。

「そんな風にタケルは、弱点もあるらしいのですわ」

「タケル君、まだ若いもんね」

そう、普通に考えてタケルが負けることなどあり得ないのだが……。

パウリッククラスの騎士がなりふりを構わなければ、仕留めることは不可能じゃないという。

「聞けばヤイバン軍の将レヴィグダードは、パウリックも苦戦するほどの将だそうです。……それを聞いて少し、不安になってしまって」

「心配し過ぎよ。それに前線について、アンタが出来る事なんてないわ」

「ですが……」

そしてルゥルゥの言う通り、俺は軍に対して何の権力も持っていない。

……だから、俺がしてやれることなど何もない。

「そんなことで悩むより、タケル君が戻ってきたらどんなご褒美あげるか考えておく方が建設的よ」

「ご褒美、ですか」

「そうね、頬にキスくらいしてやったら?」

「えー、嫌がられません?」

王女のキスか。褒美の鉄板みたいな雰囲気あるけど……。

あの初心でシャイなタケルが、俺なんぞにキスされて喜ぶだろうか?

むしろ、反応に困って固まりそうな気がする。それよりも……

「私の手作り料理、ケツキリムシの佃煮を振る舞うとかどうでしょうか」

「命懸けで戦った報酬がそれとか泣くから、やめてあげてね」

「頬にキスよりは、まだマシでは?」

「あんた本気で言ってる?」

頬にキスされても、俺の唾液がちょっとつくだけだ。

それより俺が丹精を込めた手料理を振る舞った方が……。

「絶対にキスよ! ロマンチックな雰囲気で、こう、ブチュッと!」

「タケルはそんなに女好きではないですわ。むしろ苦手にしてますの」

「だからアンタが、凍った心を解かしてやるんじゃない」

と、まぁこんな感じに。

ルゥルゥ姉上と俺の 王女会(プリンセスパーティー) は、虫と恋バナが飛び交う展開になった。

「男の子はみんな虫が好きなのですわ! だからきっと喜んでくれますわ!」

「食うのを好きなヤツは少ないわよ!」

俺もルゥルゥも、暇で仕方ないのだ。

……だから、このしょーもないやり取りは日が暮れるまで続いたのだった。

「じゃあタケルにやってみて、嬉しかった方を確認しましょ」

「わかりました。勝負ですわ姉上!!」

「勝負は見えてるだろうけど」

なお、どっちもやってみるという結論に落ち着いた。

きっとタケルは、ケツキリムシの佃煮を喜んでくれるはずだ。