軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1話「やべーやつがいますわ!」

────せっかく異世界に生まれ変わったというのに、俺は凡人であった。

いや、確かに俺は恵まれている生まれではあった。

何せ俺はこの『サリパ王国』の国王の下に生まれた『第二王女』なのだから。

サリパ王国は平和な小国で、飢饉がおきない限りは食料供給は安定している。

女に生まれたので、後継ぎ争いとかにも関係ない。

つまり俺は民衆から納めた税金で、贅沢放題に食っちゃ寝が出来る立場だ。

……だったら凡人じゃねぇじゃん! と思われる方もいるかもしれない。

だが、俺は声を大にしてその意見に異を唱えよう。

王族だからといって、優秀とは限らない。能力だけ見れば凡人なんて、よくある話だ。

それでは今から、俺がいかに凡人であるかを語っていこう。

「本日は、リシャリ様の魔力を測定いたします」

「おー」

それはちょうど、俺が5歳になった日のこと。

俺は執事の爺やに教会まで連れられて、奥の部屋にある『魔力測定器』とやらに触らされた。

それにより、俺の潜在的な魔力値が分かるのだという。

……この頃には『前世の記憶』を取り戻しており、俺はこのイベントに『来た来た来た来た!』とテンションが上がっていた。

俺の魔力が高すぎて、測定器が壊れるとか。

はたまた少なすぎるとか、不遇属性とかで王宮から追放されるとか。

そんな『お約束』な展開をやまほど思い浮かべ、期待していたのを覚えている。

「よっと」

「これは……!」

しかし俺が『魔力測定器』とやらに触れても、石っぽい部分にじんわりと青い光が灯っただけであった。

何か地味な結果じゃね? と思ってしばらく見ていたら、

「この光り方ですと、Cランクでしょうかね。主属性は水、おめでとうございます」

「おお! 素晴らしい、さすがはリシャリ様!」

「おおお?」

大げさに誉める爺やと、ニコニコした笑みのシスターさんの反応を見て。

俺の魔力の測定結果が、とても『平凡』であったことを悟った。

聞けば魔力Cランクというのは、平均ちょい上くらいの魔力量らしい。

魔力はA~Gランクまで設定されており、その光の強さで分類されるのだとか。

なのでCランクであれば「ふーん、ええやん」くらいに見てもらえる。

ただし、俺のお姉さま(第一王女)は魔力Bランクだったそうだ。

負けてるやん。

「水属性って強いの?」

「便利ですよぉ。私も水属性だったら、と何度も思いました」

「ふーん?」

そんでもって水属性というのも、これまたポピュラーな属性であった。

魔法使いが四人いれば、一人くらいは水属性という割合だそうだ。

しかも、その特性がまたしょうもない。

火属性は戦争に強いし、土属性は土木建築に有効とされている。

その一方で水属性は……。自力で水を調達できるので『旅人』『冒険者』、水を使うことが多い『料理人』や『メイド』などに人気な属性。

つまり、とっても庶民向けな魔法属性だそうだ。

少なくとも、王女の俺には無用の長物っぽい。

ようし、分かった。俺に魔法の才能はないこともないが、無双はできないっぽい。

だったら魔法以外に、別の力を見つければ良い。

この世界にも武術はある。お姫様だからって物理に特化してはいけないなんて法律はない。

王女でありながら、武術を極めてみてもいいかもしれない。

そう思って体を鍛え始めたのだが、肝心の俺の体力はどうなのかというと、

「ぜー、ぜー」

「リシャリ様は、運動がお苦手のようですな」

「無理をなさらないでください、ゆっくりお休みなさいませ」

魔法以上に、からっきしだった。

背が低い母親の遺伝なのか、俺は同年代の子供と比べても体格が小さくて。

足も遅いし、力も弱いし、すぐに息が切れてしまう三重苦。

一日一万回ほど感謝の正拳突きをしようとしたら、五回目で肘が痛くなったので諦めた。

運動能力にランクを付けるとしたら、俺はEとかFランクに相当するようだ。

俺に、運動は向いていないらしい。

だが俺は諦めなかった。

よく考えたら俺はすでに、チートを持っていることに気が付いていたからだ。

それは、現代知識である。

「現在はこのような農具を用いて、穀物を生産をしております」

「なるほど……」

俺が十歳になって、家庭教師から様々な知識を学び始めたころ。

この世界の技術レベルがどうやら、中世止まりであることを知った。

「サリパの牧畜場では上質なミルクが取れることで知られていて……」

「はえー」

サリパ王国の民は、主に農耕と牧畜、狩猟などで食料を自給しているらしい。

とくに牧畜技術は進んでいるようだが、農耕に関してはまだまだ発展途上のようだ。

────いける。この世界なら、俺は発明王になれる。

そう考えた俺は、勉学に打ち込み始めた。

俺が新しい農具を発明して、技術革命を起こしてやろうじゃないか。

そしたらきっと、皆が俺を崇める筈だ。

「……たしか、こんな感じで」

そう考えた俺は、夜に個室で『 千歯扱(せんばこ) き』の設計図を描こうとした。

千歯扱きは脱穀に革命を起こした農具で、脱穀の手間が一気に解消されたせいで、雇用が減って『後家倒し』と呼ばれた大発明である。

これを発明出来れば、きっと凄いことになるだろう。

「……うーん。これ、どうやってコくんだ?」

だが、非常に残念なことに。

前世であまり勉強してこなかった俺に、千歯扱きの設計図など書ける筈がなかった。

そもそも千歯扱きってなんだ。

千歯扱きというからには千の歯でコくんだとは思うけど……。

「コきかたが分かりませんわー!!!」

前世の俺はやる気なし、勉強嫌いの怠け者であった。

そのせいで一般教養すら、怪しい部分が多い。

そんな俺が発明王だなんて、どだい無理な話であった。

現代知識を持っていても、それを生かせるだけの頭脳がなければ意味がない。

つまりは、宝の持ち腐れであった。

俺は『異世界に転生する』なら、特別な能力を得られるものだと思っていた。

無限の魔力とか、めっちゃ強い戦闘力だとか、不老不死みたいな特殊能力とか。

せめて知識で無双したりとか、そういうのは出来ると思っていた。

しかし、怠け者の凡人が異世界に転生しても意味はない。

凡人は、どこまでいっても凡人なのだ。

転生してから十数年経って、俺はそれを思い知らされていた。

そして俺が、十五歳になったころ。

既に、俺はいろいろと諦めていた。

この世界において俺は、特別な存在なんかじゃない。

王族ではあるが、俺にそれ以上の価値はないのだ。

「我がサリパ王国は、鉱石資源に乏しい。なのでその大半を、デケン帝国との交易で賄っています」

「はえー」

「おっほん。王宮では、ちゃんとふさわしい言葉をお使いください。リシャリ様」

「はえーですわ」

そもそも『サリパ王国』は、とても弱い国であった。

サリパ王国のすぐ隣に『デケン帝国』という国があるのだが……。

「デケン帝国はとても先進的で、貴族は一夫多妻が当たり前です」

「おおーですわ」

「嫁入りの際には、宝石を持っていくのが一般的で……」

この国がまたクソでかい。具体的にいうと、デケンの国土は20サリパくらいあるという。

まともに戦争したら勝ち目がない圧倒的な大国。だが幸いにして、デケンとサリパの関係は良好だ。

我らが父上サリパ王は、毎年のようにデケンに貢物を送り、平身低頭してデケン帝国を称えてきたからである。

その殊勝な態度に免じてかデケン皇帝は父サリパ王に、『貴殿にサリパ近隣を治める権利をやる』と書状を送っていた。

────はい、その通り。サリパ王国は、デケン帝国の属国です。

『立場をわきまえるなら好きにしていいよ』と見逃してもらっている立場です。

まぁ、そうなると俺の運命も何となく察せられるわけで。

第一王女で魔力Bランクのお姉さまは国内に残されるだろうけど、第二王女で魔力Cランクの俺はデケンの貴族と政略結婚させられるのだろう。

「リシャリ様は飲み込みもよく、学習意欲も優秀ですね」

「将来は結婚相手に困らないでしょう」

「光栄ですわ」

きっと、デケン帝国の文化とかも勉強させられているのはそう言うことだ。

つまり王族と言っても、決して良いことばかりではなく。

自分の生き方も自分で選べない、窮屈な人生であることが確定してしまっている。

昔は異世界に転生して、無双するなんて夢を描いていたけれど。

結局、都合の良い世界は物語の中にしかなかったという話だ。

俺はこのまま、政略結婚でデケン貴族に嫁がされて。

脚光を浴びる事もなく、凡人として生涯を終えるのだろう。

それはとても、切ないことだけど。

前世で努力してこなかった俺に、相応しい結果なのだ。

かくして俺は凡人として、生きていく決意を終えて。

せめて今世は後悔しないよう、王女としての勉学に励んでいた。

「リシャリ様。来週の講義ですが、お休みといたしましょう」

「え、よろしいのですか?」

「来週は『王宮騎士団』の、入団試験の日になっております。私どもも試験監督として駆り出されますので、リシャリ様にお教えする時間が取れないのです」

「まぁ、そうだったんですの」

最近は、王女としての振る舞いは十分にできるようになった。

社交界デビューも果たして、いよいよ結婚相手探しという段階に来ている。

第一王女である姉は、国内の貴族と婚姻が進められているらしい。

姉が国内の結束を固め、 妹(おれ) が国外と縁戚を繋ぐ。

そしてサリパ国は、父が死んだら長兄がいい感じに継ぐのだろう。

「王宮騎士団の試験会場は、王宮の隣の訓練場です。ご興味があれば、見学されますか」

「いえ、大丈夫」

我が国の未来は明るい。俺は国外に嫁がされるが、まぁ仕方ない。

お姫様にとって、婚約は公務なのだ。

幼いころから税金で贅沢三昧しておいて、政略結婚から逃げ出すのは公務放棄である。

「私は、王宮内を散策いたしますわ」

「くれぐれも、外に出られませんよう」

「分かっていますとも」

万が一があってはいけないので、俺は王宮の外に出るのは許されていない。

俺がチンピラに襲われただけで、今まで巨額をかけて育成してきたことがパァになるのだ。

それは多額の税を納めてくれた、国民への裏切り。

だから俺が街を歩けるのは、護衛に囲まれている場合のみなのである。

「……ふー、休日は久しぶりだなぁ」

しかし、王宮の中であれば俺は自由に出歩くことが出来た。

何故なら、王宮へ立ち入りを許されているのは王族と、許可を受けた貴族と、『王宮騎士団』のみだからだ。

王宮騎士団とはつまり、王宮の警備員である。

能力がとても高く、魔力もAランクとかBランクが当たり前らしい。

……つまり俺では逆立ちしても勝てないやべー連中だ。

もし俺が王宮内で「キャー」と叫び声をあげたら、そんなヤベー連中がすぐに駆けつけてくれる。

「久々にアレやるかぁ」

王族の警護は手厚い。

だから王宮内にいれば、安心・安全なのである。

「……よっしゃ、ヤベー虫を捕まえたぜ!」

そんな模範的で従順な王女様である俺の趣味は、中庭での虫採りであった。

異世界の昆虫は、前世と結構違っていて面白いのだ。

「これはケツキリムシの幼虫だな。色合い的に、アカケツキリムシか」

例えば、今捕まえたケツキリムシは、動物の糞便を餌にしている昆虫なのだが。

コイツはなんと、動物の肛門から腸内に寄生しようとする習性がある。

ウンコを食って育つ虫なので、ウンコを作ってる場所に寄生しようという進化をしたらしい。

「ひえー、おっかねぇ。幼虫なのに歯が鋭い」

なので森で野糞をしていたら、ケツキリムシが肛門へ飛び込んできて噛みつかれることもあるらしい。

もし寄生を免れても、切れ痔になる人が後を絶たないのだそうだ。

想像するだけでヤベー虫である。

「悪いけどお前は魚の餌にするからなー」

そんなヤベー虫なので、害虫として見つけたら駆除せねばならない。

畜産業にも多大な被害が出る為、動物の肛門周囲に虫よけの薬を塗っているのだとか。

異世界で謎の進化を遂げた、かなりヤベー虫なのだ。

「お? 今、俺のケツに何かあたったな」

そんな虫もいるので、いつもの王女様っぽいドレスで虫取りをしたりはできない。

俺は今、農作業用の布の厚いズボンを履いて、麦わら帽子にどてらを装備して虫取りに臨んでいる。

「成虫のアカケツキリムシだな。ようし、覚悟しろ」

王女様としてアウトよりの姿だが、「王宮内にいてくれるだけ 第一王女(あねうえ) よりマシ」と許された。

……おそらく姉上は、ちょくちょく脱走を試みていたのだろう。

王宮の外に興味を持たれるより、王宮内で虫取りしている方が扱いやすいと思われているようだ。

それに王宮から出ない限り、どんな格好をしようと身内以外にバレないからな。

「害虫駆除じゃー」

そんなこんなで、虫取りは俺の数少ない心の癒しだった。

なので休日は、こうして農夫服に着替えて虫取りをするのがルーチンであった。

王宮内は安全。王宮騎士団が守ってくれる、セーフゾーン。

そしてケツキリムシを駆除することで、俺は間接的に誰かの肛門を守っている────

「あのー、すみません」

「ん?」

と、まぁ。そんな感じに虫取りに夢中になっていたら、

「道に迷ってしまって……。騎士団の試験会場はどこか、教えていただけませんか」

「んんん?」

気付けば背後から、見たことのない 異性(おとこ) が。

困り顔で、俺に話しかけてきたのだった。

……思考がフリーズした。

ここは王宮である。

一部の貴族と、王宮騎士団しか入ることを許されない『王族の聖域』だ。

見知らぬ人間がいるはずがないのである。

「え、えっと。王宮の庭師さん、ですよね?」

「あー……」

「僕は、王宮騎士団の入団試験を受けに来た人間で、タケルというのですけど……」

侵入者かと疑い大声を出そうとしたが、男は困り顔で自己紹介を始めてしまった。

しかもどうやら、向こうは俺を庭師と勘違いしている様子である。

「……」

「あのー?」

そういえば、今日は王宮騎士団の入団試験をすると言っていた。

場所は、王宮の隣の訓練所だったはず。

おそらくうっかり迷い込んでしまった、受験生なのだろう。

「タケルさん、と言いましたか」

「は、はい」

「王宮の隣の訓練所が、試験会場と聞いておりますが。ここは王宮の庭ですよ」

「えっ」

ただ時刻的に、試験はもうとっくに始まっているころである。

恐らく今から行っても、不合格にされるだろう。

まったく。試験の場所と日時くらい、しっかり確認をしろ。

「……試験会場が変更になって、この時間に王宮の庭に集合せよと言われたのですが」

「試験は、もうとっくに始まっています。誰から聞いたのですか、そんな話」

「えっ」

「そもそも王宮内に、受験生が立ち入れるわけないでしょう。今のあなた、侵入者としてとっ捕まっても仕方ない状況ですよ」

「えええ!?」

呆れた声でそう伝えると、受験生の男はひどく狼狽し。

その後、絶望しきった顔でその場に尻もちをついた。

「ち、違うんです。本当に、僕は、そう聞いて」

「誰から聞いたんです、そんなこと」

「試験監督の、貴族様からじきじきに。確かに、僕は、そう……」

貴族様、という物言いに引っかかって。

俺は改めて、その受験生の身なりを確認した。

「もしかして貴方、平民なのですか」

「は、はい」

基本的に、王宮騎士団に入れるのは貴族だけだ。

身元がしっかりしていない人間を、王宮に入れるわけにはいかないからである。

「こないだの武術大会で優勝して、その報酬で騎士団へ受験資格を頂いたんです」

「……」

しかし、武術大会の優勝者は特例として騎士団への受験を許可されている。

そして騎士団に合格すれば、貴族に近い立場になれるのだ。

それはサリパ王国の平民が夢見る、最高のシンデレラストーリー。

なので武芸に自信のある平民は、年に一度開かれる武芸大会に全力で挑むのだ。

「だから今日のために。家族や、友人が、最高の防具を用意してくれて」

「……」

「母は、祖父母の形見の宝石を売ってまで、資金を作ってくれたのに」

その男の身なりは薄汚く、剣も防具もボロボロだった。

平民に購入できる、せいいっぱいの装備という感じだ。

しかし貧弱な装備とは正反対に、男の体躯は立派であった。

その筋骨は隆々で、体軸はピクリとも揺るがない。

「ちょっと失礼」

「へ?」

俺は興味本位で、男の手を握ってみた。

人間は手から、うっすらと魔力が流れ出ているらしい。

こうすることで、大まかな『魔力』を測ることができるのだ。

「……っ!!?」

────深淵。

そこでようやく、俺は男の『ヤバさ』を理解した。

この男は、化け物だ。CとかBとか、そんなちゃちな魔力ランクじゃ測れない。

淀む気配すらない莫大な魔力が、王宮そのものを包み込んでいた。

……人間か、こいつ。

「あ、あの。庭師さん?」

「……ふぅ、なるほど」

そういえば、平民を見下す貴族は多いという。

彼のように貧乏そうな平民は、嫌がらせを受けても仕方がない。

その貴族からすれば、ちょっとした悪戯のつもりで間違った試験日時を伝えたのだろう。

「だいたい状況は分かりました。タケル、と言いましたね」

「は、はい」

そして俺が大声を上げれば、タケル青年は騎士団にとっ捕まって最悪処刑されるだろう。

タケルがどんなに喚いても、平民の言うことなど信用しない。

底意地の悪い貴族がいたせいで、こんなに優秀な戦士が騎士団に入らないなんて……。

勿体、なさ過ぎるわ!!

「とりあえず私が、試験会場まで案内して差し上げますよ」

「あ、ありがとうございます、庭師さん」

「いえいえ」

俺はタケルの手を取って、試験会場へと急いだ。

この男は、俺が諦めた『力』を持っている。

「その代わり、もし上手く行ったら。後で、私のワガママを一つ聞いてもらえませんか」

「え? 僕で良ければ喜んで」

「よろしい」

俺自身が、凡人であるというのなら。

王女という立場を活かし、 化け物(チート) を味方にすればいい。

決めた、この化け物を俺の護衛にする。

そうすれば、大抵の襲撃者は撃退できる筈だ。

「約束ですよ」

俺は凡人だが、家柄と見てくれだけは自信がある。

クスリと笑いかけてやると、タケルの頬に朱が差した気がした。