軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

04 お礼

喚び出されてから四ヶ月。

薬用植物研究所が拡張された。

あの日、研究所からのポーションで多くの第三騎士団の人間が助かったと言うことで、王宮より特別報酬が出たらしい。

特に、私が上級HPポーションを飲ませたのは第三騎士団の団長で、 辺境伯家(いいとこ) の 三男(ぼんぼん) だったらしく、辺境伯からも特別にお礼が届いた。

その他にも、性能のせいで商店に卸すに卸せなかった私作のポーションを第三騎士団で買い取ってもらえることになった。

お蔭様で、この所の研究所の予算は潤沢です。

何か欲しい物はあるかと所長が聞いてきたので、冗談半分でお風呂と台所と答えたら、本当に研究所内にお風呂と台所ができた。

台所は大き目の厨房と言っても良い様な物で、隣には研究員全員が使える程の食堂まであった。

しかも料理人付き。

要は研究所専用の食堂ができたのだけど、これは皆に好評だった。

これまでは王宮の従業員専用の食堂に食べに行ってたのだけど、王宮までは遠いからね。

引き篭もりの 研究員達(やろうども) は大喜びだったよ。

もっとも、私が台所をリクエストした理由は他にある。

何と言っても、この世界の料理レベルは低い。

何ていうか、素材の味そのままな料理が多い。

塩やお酢で味がつけてあることもあるのだが、口に合わない。

王宮の従業員用の食堂に食べに行っていたけど、本当にひどい物だったわ。

あまりの不味さに、予期せずダイエットできたくらいにね。

今まで気にしたことはなかったけど、この世界に喚び出されてから、自分が食べ物に煩い日本人であることを強く認識したよ。

そういう訳で、それほど料理が得意な訳でもなかったけど、自分が作った方がきっとマシだろうと言う考えのもと、台所を希望した。

せっかく料理人まで付けてもらったのだけど、忙しくない時間帯に自分の分を作らせてもらった。

幸いな事に、この料理人さんが優しい人で、嫌な顔もせずに、台所の一区画を使わせてくれたのよ。

ただ、作ってる最中、物凄くガン見されるのよね。

どうやら、とても向上心の高い人だったみたい。

味見させて欲しいと言うので、どうぞどうぞと言ったところ、結局一人前を平らげられた。

一口食べて呆けた後は、ずっと無言で食べ続けていたからね。

是非教えて欲しいというので、それ以来、新しい料理を作る度にレシピを教えてあげた。

その甲斐あって、王宮の従業員食堂なんて目じゃないほど研究所の食堂は美味しく成長したわ。

ここまで美味しくなったのなら、自分で作らなくてもいいんだけど、新しいレシピを教えてくださいって料理人さんが頭を下げるので、最近は一週間に一回は自炊して料理人さんにも振舞うことにしている。

「セイ」

そんな感じで、本日も新しいレシピを教えるべく台所で料理人さんとサンドイッチを作っていると、ジュードがやって来た。

「どしたの?」

「所長から伝言があって、この書類を第三騎士団の隊舎に届けて欲しいって」

「今、手が離せないからジュードが行ってくれない?」

「いや、なんかセイに届けて欲しいって言われたんだけど……」

「何でかしら?今すぐ?後少しで作り終わるから、それからでもいいかしら?」

「少しならいいんじゃない?」

「わかったわ。第三騎士団の隊舎に行けばいいのね」

「ああ、団長の執務室に持って来てくれってさ」

「りょーかい」

第三騎士団の団長執務室に到着し、扉横に立っていた隊員さんに取次ぎをお願いすると、すぐに中に通された。

どうやら所長から話が通っていたらしい。

中に入ると立派な立派な執務机の前に、応接セットがあり、そこに所長ともう一人が座っていた。

団長さんだろうか?

「すみません、お待たせしました」

「いや、助かった。ありがとう」

「それでは、私は戻りますね」

「ちょっと待て」

所長に書類を渡すと、にこやかにお礼を言われた。

用は済んだので退室するかと振り返ろうとしたところで、所長に止められた。

何だろうと思い所長を見ると、隣に座るように促された。

何故に?

ちらりと部屋の主であろうもう一人を見ると、彼からも座るよう促された。

仕方なく所長の横に座ると、所長が彼に話しかけた。

「彼女がセイだ」

「そうか、君が。私は第三騎士団の団長をやっているアルベルト・ホークだ」

「はじめまして、セイです」

苗字は言わない。

この世界で苗字を持つのは貴族だけで、私は貴族ではないからね。

研究所に配属されて、最初に所長に名乗ったときに教えてもらった。

この国では馴染みの無い苗字で、下手に名乗ると周りに詮索されて面倒なことになるらしいので、それ以来、名乗らないことにしている。

そして、もう一人はやはり団長さんだった。

彼の斜め前に座り、改めて見る。

少し癖のある金髪にブルーグレーの瞳の冷たい感じがする 男性(イケメン) だ。

年は所長と同じくらいだろうか?

騎士だけあって、所長より体格がいい。

いや、所長も十分でかいんだけどね。

何ていうか、筋肉の厚みが違う。

この国に来てから会った中では一番好みのタイプかもしれない。

「この間の第三騎士団の遠征の件、覚えてるか?」

「遠征?」

「ほら、サラマンダーの」

「あぁ」

所長に遠征の件と言われて、何のことか分からなかったが、サラマンダーと言われれば分かる。

「あの時、お前が上級HPポーション飲ませた奴がいただろう」

「えぇ」

「そいつだ」

あの時、私が上級HPポーションを飲ませたのは、一番重傷だった人、ただ一人。

火傷が酷くて、直視するのがきつかったため、あまり見ないようにしていたからか人相は覚えていないが、確か側にいた騎士が団長と呼んでいたのは覚えている。

そうか、この人があの時死に掛けてた人か。

ポーションを飲ませた後、黒焦げだった皮膚が剥がれていたが、今では火傷など無かった様に綺麗に治っていた。

ここまで綺麗に治るなんて、異世界のポーションは本当に優秀だと思う。

この様子であれば、火傷以外の傷なども綺麗に治っているかもしれない。

ポーションの性能を見たいが、流石に服を脱いで見せてくれって言うのは無理よね。

「ありがとう、君のおかげで助かった」

「いえ……」

しまった。

経過を見たくて、顔をじっと見つめていたせいか、団長さんは薄っすらと頬を染めている。

イケメンの照れる姿とは、こうも破壊力が強いものかとドキドキしながら、当たり障りのない返答を返すと、隣からぷっと吹き出す音が聞こえた。

何かと思い横を向くと、口元に手を当てて笑いをこらえていた。

「所長?」

「いや、何でもない。そうそう、お前、上級HPポーションの材料欲しがってただろう?」

「えぇ。でもあれって森に行かないと採れないんですよね?」

薬草園でささやかに栽培されていた上級HPポーション用の薬草は、この所の乱獲により大分数を減らしていた。

私としては製薬スキルのレベル上げのため、どんどんポーションを作りたいのだが、生憎この薬草は栽培が難しく、所長からこれ以上使うことを禁じられている。

王宮の外にある森などに自生しているらしいので、そちらの採集に行けば良いのだが、森には魔物がおり、研究員だけで採集に行くのは困難だった。

「そうだ。この辺りだと南の森に生えているんだが、お前ちょっと取りに行ってこないか?」

「所長、魔物に襲われるのは勘弁なんですが」

「そこは、第三騎士団の連中が守ってくれるらしいぞ」

「え?」

「この間のポーションのお礼だそうだ」

ポーションのお礼に、薬草摘みの護衛をしてくれるということだろうか?

しかし……。

「お礼なら既にいただいていますけど……」

王宮からは特別報酬、辺境伯家からもお礼をいただいている。

この上更にとなると、貰い過ぎな気がするのだけど。

「団長殿が個人的に渡したいそうだ」

「おい!」

ニヤニヤとしながら所長が言うと、団長さんが慌てた様に止めた。

遅かった訳だが。

しかし、個人的なお礼で騎士団を動かしてもいいのだろうか?

団長さんにちらりと視線を投げると、意図を汲んでくれたのか、咳払いをして気まずそうに説明してくれた。

「元々、南の森に討伐に行く予定があったんだ。それでついでにどうかと話をしたんだ」

「そうだったんですか」

元々予定に入ってたのね。

それなら問題ないのかな?

上級HPポーション用の薬草が欲しいのは確かだし。

「ご迷惑でないのであれば、お願いいたします」

私が頭を下げると、問題ないというように団長さんは頷いた。

それからは、いつ遠征に行くのかなどの実務的な話が続き、気付けば夕方となっていた。