軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31番目の妃⑨

フェリアは熟睡一夜で元気を取り戻す。勢いよくドアを開けると、心配気な騎士ら三人が目の下にうっすらと隈を作って立っていた。

「あれ?」

「フェリア様、良かったです。昨日の夕刻から出てこないものですから、心配いたしました。お腹すいておりませんか? 腕は悪いですが、作ってあるので食べてください」

フェリアは目を見開いた。こんな風に心配されて、瞳がうるうると揺れだした。あたたかい気持ちになると、涙が出るのはなぜだろう。フェリアは、ありがとうと潤んだ声で答える。騎士らが嬉しそうに笑顔になった。

「フェリア様は、今日はのんびりしてください。たまにはいいではないですか。ね」

ゾッドの提案にフェリアは口を尖らせながら頷いた。邸から椅子を引っ張りだして座る。朝陽がやわらかくフェリア邸を包んだ。

騎士らが作った朝食を食べていると、いつもの朝食を食べに来る騎士たちがフェリア邸に訪れた。

「お見舞いです」

手に持っているのは花だ。フェリアは目をパチパチさせた。お見舞いなんてもらった覚えがないのだ。騎士が差し出した花を、受け取る。黄色のガーベラだ。フェリアの好きな元気な色の黄色である。お日様色の黄色である。

「ありがとう! お見舞いははじめてなの。嬉しいわ」

その言葉に花を贈った騎士らが驚き慌てる。はじめての存在が自分たちでいいのかとの焦りだ。本来ならお妃様へのお見舞いは王様が贈るものだろう。しかし、王様のお越しはこの31番目のお妃邸にはまだない。仕方のないことだ。さらに、侍女もいなければ妃の不調が王に届くわけもない。騎士らは眉を下げた。不遇のフェリアをおもんぱかって。

そんなことなど思ってもいないフェリアは、嬉しそうにガーベラを眺めているのだった。

***

二ヶ月が過ぎた。最後の一ヶ月が始まる。マクロンは、フッと息を吐き出して15番目の妃邸へ赴いた。やはり、予想通りであったが、いざこざを起こした妃らは内密の通知を承知せず、王との最後の交流を望んだ。よって、マクロンは赴く。

「おはよう、ミミリー嬢」

マクロンは名を口にした。ビンズの忠告を受けての行動である。ミミリー侯爵令嬢は、瞳にいっぱいの涙をためてマクロンに頭を下げた。

「先日の御無礼お許しくださいませ」

頬に伝う涙をマクロンは見つめる。気にするなとも許すとも答えられないのは、妃候補に求めるものが、それを許容できないからだ。

「マクロン様、王様……私が間違っておりました。どうか、お許しを」

そう言って、ミミリーは膝を崩した。マクロンはこの芝居がかった侯爵令嬢の行動に、ため息しか出ない。許しを得ることしか頭にないようだ。謝ること、間違っていたことを認識すること、どうすべきであったかを見つけること、対処すること、それをマクロンに報告することによって、はじめて許しの言葉が紡がれるべきなのだ。

「妃としてこの邸にいる立場のそなたである。妃に求めるものをそなたが持ち合わせていないのは、明らかである。……そなたは、我に許しを乞う以外に何をした? 失敗の対処もできていない。件のあれは、我に対する無礼でない。

誰に謝り、(20番目の妃に)

自身の間違いを気づき、(しきたりを軽んじた行いを)

どうすべきであったかを見つけ、(自我を抑えること)

妃候補のそなたがどう対処するか(責任をとる行いを自ら言えるか)

自分に妃としての資質がないことを気づき得るか……そなたが自身を叱責し身を引く姿勢を見せたなら、我はそなたを許したであろう」

マクロンはそこで一息ついた。侯爵令嬢は顔を真っ赤にさせ、ぷるぷると体を震わせている。頬に伝っていた涙は消えている。怒りや悲しみ、悔しさなどがごちゃ混ぜになったような瞳でマクロンを見ていた。そこに一瞬、すがるような色の見え隠れしている。

「我は、そなたミミリー侯爵令嬢に妃辞退を求む。我は今日をもってこの邸に来ることはない」

侯爵令嬢は首を横に振った。いいえ、いいえと小さな声で呟いている。いいえ、いいえ、私が選ばれぬわけはないわ……マクロンにはそう侯爵令嬢の心の内が聞こえる。

「三ヶ月の……交流……、妃の意向の確認……、辞退しなければ、ここに居れますよね。妃選び三ヶ月後は、妃の意向が通るしきたりですもの!」

侯爵令嬢は足掻く。なりふり構わず足掻く。件の令嬢と取っ組みあいの乱闘をした如く。つまり、マクロンの言葉は侯爵令嬢の心には届かなかったということだ。

「浅ましいな」

マクロンは足掻く侯爵令嬢に冷たく言い放った。

「再度告げる。我は今日をもってこの邸に来ることはない。そなたの意向が通ろうが、我はここには来ない。残りの九ヶ月、日にちこそ指定されるが、我の意思で妃と交流することがしきたりだ」

マクロンの意志、つまり、ここ15番目の妃邸には来ないと言うことだ。侯爵令嬢は青ざめ、いいえ、いいえ、と首を横に振る。マクロンはきびすを返した。

「お待ちを! マクロン様!」

マクロンは振り向くことなく邸を後にした。

今夜にでも、警護騎士からの報告が来るだろう。15番目の妃はきっと辞退しない。そうマクロンは予想した。今夜は当たり散らすか……それとも、侯爵に伝を出し圧力をかけてくるか。マクロンはすでにこの令嬢の名を使わない。ビンズには悪いが、それがマクロンの妃たちへの線引きである。

未だマクロンが心を込めて呼ぶ名はいない。