軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31番目の妃②

ガタゴトガタゴト

……ある晴れた昼下がり、王都へ向かう道。牛車がガタゴト、フェリアを乗せていく。嫁ぎ遅れのフェリア、お妃様になるの。ふてくされてお外を見ているの……

フェリアはブツブツと言っている。

「フェリア、もうすぐ城門だ」

リカッロの声だ。フェリアは特大なため息を吐き出した。前方に視線を移すとそびえ立つ城門が見える。その奥には城だ。あの門をくぐれば、最低三ヶ月は出てこれない。フェリアはまたはぁとため息をつく。

「止まれ!」

城門兵が牛車を止めた。

「何者だ?」

「31番目のお妃様を連れて来ました」

リカッロらしからぬ言葉遣いにフェリアはぶっと笑いをもらす。リカッロがギロリと睨んだが知らん顔だ。

「……お妃様?」

城門兵は訝しげに、じろじろと牛車やフェリアを見る。どうみても、怪しんでるという顔つきだ。フェリアは嫌な気分になり口を開いた。

「リカッロ兄さん、入れてくれないんじゃ帰るしかないじゃない。もう、さっさと帰ろうよ」

こんな所おさらばしたいと、フェリアはつんけんどんに言い放つ。リカッロも、城門兵の態度に顔をしかめていた。フェリアの言葉でそれもそうだなと思い、牛車を回転させる。

「王都見学して帰ろうぜ。あーあ、せっかく名のりをあげたってのに、これじゃ可愛い妹を任せらんねえ」

城門兵の待てとの言葉も華麗にスルーして、リカッロとフェリア、つまり牛車一行は城下町に戻っていった。

フェリアの安堵の時間はほんの一瞬であった。町でクルクルスティックパンをかぷりと食んだ瞬間までで、王城より汗だくになって現れた騎士らが、リカッロとフェリアを取り囲みそれは終わりを告げる。モグモグや、ゴックンする間もなくあれよあれよと担がれて、城門に後戻りした。

「じゃあ、フェリア……元気でな」

リカッロはたくさんのお土産を牛車の荷台に積み上げて、満面の笑みで去っていく。フェリアは、モグモグをやっとしながらリカッロを見送った。もちろん、心の中では罵詈雑言を積み重ねて。

「フェリア様、大変失礼しました」

フェリアはゴックンして、騎士に頭を下げる。

「いいえ、こちらこそ」

この騎士が悪いわけではないのだ。フェリアはちらりと城門兵を見る。脂汗をだらだら出して目をさ迷わせていた。

「こちらへ」

騎士の先導でフェリアは王城に入った。見上げる城は絶壁のカロディア領よりは低い。フェリアは思わず鼻で笑ってしまう。フェリアの感想は『簡単に登れそう』であった。すぐに視線は別に移る。しかし、先導の騎士はそんなこととは露知らず言った。

「圧巻過ぎてびっくりしましたか?」

一般的なお妃様らであるならば、王城に目を輝かせても不思議ではないが、フェリアは孤島の天空領から来たふてくされた田舎娘である。城よりも、土壌の方に興味がある。

「ええ、良い土ですね」

フェリアの返答に騎士は振り向きしばし固まった。フェリアが見ているのが、城でなく土であることに気づくと、アハハッと笑い出す。フェリアは呆気に取られた。取られたが、自分を笑っていることは雰囲気でわかっている。目一杯しかめっ面をして騎士の前へ歩き出す。

「お待ちを。失礼しました。全く予想しなかった返答に、思わず笑ってしまいました。悪気はありません。お許しを」

騎士は軽やかにフェリアの前に進む。

「こちらです。ここの門が後宮の入口になります。最低三ヶ月はここからは出られません。と言っても、31番目のお妃様が決まっていなかったものですから、30番目のお妃様まですでに二ヶ月ほど待機されています」

そんなどうでもいい情報なんて聞きたくもないフェリアは、騎士の説明を耳から耳に流していく。えらく遠く歩かされ、やっとたどり着いた頃には夕陽が門扉を照らしている時間になっていた。

「31番目のお妃様の邸宅になります」

ガチャンと門扉が開く。

「素敵」

邸はこじんまりしたものであったが、広がる庭園は背たけほどまで伸びた元気のよい雑草が、夕陽に照らされて黄金色に輝いていた。

「……素敵ですか?」

手入れもされていない庭園や邸宅は、他のお妃様なら失神するほどの荒廃ぶりである。しかし、フェリアはスキップでもしそうな勢いで土壌を確認している。騎士は、しばしフェリアを見つめていた。声をかけるタイミングを失うほどの熱心さなのだ。

「失礼します。あの方が31番目のお妃様でしょうか?」

騎士の背後に現れたのは女官長である。騎士は肩を竦め、『そうです』と答える。女官長の片眉がぴくりと持ち上がった。

「31番目のお妃様、少々よろしいでしょうか?」

騎士とは違い、女官長は躊躇せずフェリアに声をかけた。フェリアはいつしか現れた女官の存在にびっくりしている。

「何でしょう?」

フェリアにとってはよろしくはないが、声をかけられたので答えてみる。

「私、女官長をしております者にございます。侍女はいつ頃いらっしゃいますでしょうか?」

「……」

「31番目のお妃様?」

「……侍女はいませんし、いりません」

フェリアはうんざりしていた。僻地中の僻地の田舎娘に、侍女なんて者は仕えてなどいようものか。フェリアは何でも自分のことは自分でできていたし、侍女が必要とも思わない。今、フェリアに必要だと思われた物は、侍女なんて者でなく、この庭園を畑に変える農機具たちだ。

それに何よりも、この女官長はフェリアのことを『31番目のお妃様』と呼んでいる。騎士でさえ名前を知っているなら、この女官長が知らぬわけがないのにだ。

「……そうでございますか。では侍女はつけません。31番目のお妃様につきたいという宮殿の侍女も居りませんでしたので、実にありがたいことでございます」

騎士の眉が上がる。眉間のしわが険しい。

「でしょうね。私だって、ここに来たくて来たわけではありませんし。最下位のお妃様でしょ。月に31日がある日にしか王様のお越しがない、貧乏くじのお妃様。私にとっては好都合ですわね」

フェリアはわざとこの女官長に反抗している。女官長と敵対すれば、この邸に王を来させないように画策すると思っているからだ。フェリアはここでのんびり三ヶ月過ごしたいだけだ。さっさとおさらばしたいのだ。

「では、31日までどうぞご自由に」

女官長はフンッと鼻でも鳴らすようにそっぽを向いて去っていった。残された騎士は申し訳なさそうな顔つきでフェリアに頭を下げる。

「侍女の代わりと言ってはなんですが、私が早朝ご用聞きを致しましょう」

「では、早速。農機具一式がほしいです!」

フェリアの王城生活のはじまりである。