作品タイトル不明
994.強くなった両者
【増幅のルーン】を使ったレンの、四連続【設置魔法】が火を噴いた。
残りHPは8割を切ったところ。
その火力に転がった獣の王は立ち上がり、すぐさま視線をこちらに向けた。
角から中空に描き出される紋様が、輝きを増す。
すると広い石床に、光の紋様が広がっていく。
そして足元から、次々に生え出す光の木々。
【光の密林】は『斬る枝』と『つかむ根』によってプレイヤーを捉え、斬りつける範囲攻撃だ。
「【バンビステップ】!」
「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】!」
メイとツバメは光の根に捕まらないよう、すぐさま走り出す。
「【跳躍】【エアリアル】!」
足元の根につかまれたところを、斬られる形が最悪。
そう考えたツバメは跳び、木々の隙間に着地するような回避を選択。
この際、広がる光の枝への接触には目をつぶる形だ。
「【アクロバット】!」
一方メイは、木々を避けながらの戦いに覚えあり。
移動と宙返りを駆使して、しっかりと回避する。
全力で逃げて根を避けるまもりと、低空飛行でかわすレンも、その目で確認する。
だがやっかいな【光の密林】の本懐は、ここからだ。
獣の王は二度ほど足元を踏み鳴らすと、『突撃』を開始。
足元の根を踏みつけ、広がる光の枝を折り飛ばしながらツバメに向けて特攻。
「ッ!! 【加速】【リブースト】!」
枝の密集地を【跳躍】でかわしたばかりのツバメは即座に回避に入るが、その先から迫るのは根。
「ああああああっ!」
速度を落としたツバメは獣の王の脚部に弾かれ、そのまま光の枝葉の密集に飛び込むと、無数の刃に斬られて転がった。
ここでパーティ人数の少なさが、凶と出る。
獣の王は、ツバメへの追撃を選択。
「【疾風迅雷】!」
気付いたツバメは、即座に逃げようとするが――。
「ッ!!」
獣の王がとったモーションで、かつての戦いを思い出す。
ここでの狙いは再度の突撃ではなく、【大咆哮】で硬直させてからの攻撃だ。
すでに発動している【疾風迅雷】
ここから攻撃や跳躍への変更はできない。
このまま【大咆哮】による硬直を受け、次は『直撃』を受けることになるだろう。
そう、ツバメが覚悟した瞬間。
「【投石】!」
そのモーションに気付いたメイの反応が、早かった。
高速で飛んできた石が獣の王の頭部に当り、【大咆哮】は発動直前に強制停止。
「ありがとうございますっ!」
思わず安堵の息をつくツバメ。
しかし光の枝と根が邪魔して、反撃には至れない。
対して【大咆哮】を止められた獣の王は、使用スキルを変更。
光の枝葉が大きく伸び、生まれる無数の輝き。
やがて枝から飛び立ったのは、光の綿毛。
舞い散る無数の輝きはフワフワと舞い、次々に炸裂していく。
「「「「っ!!」」」」
まばゆい光を、シャッターのように閃かせての爆発。
一つ一つは小さいが、とにかく広い攻撃範囲に、全員が防御で様子をうかがう。
今なお伸び続ける光の木と根から逃げながら、光の綿毛から身を守るのは大変だ。
「結構削られるわね……!」
「はひっ!」
バラけて退避に回る後衛組。
これにはまもりも、我慢することしかできない。
そんな中、獣の王は四本の脚に紋様を輝かせて走りだした。
「くっ!」
明らかに火力をあげた体当たりを喰らわぬよう、ツバメは枝と綿毛によるダメージを覚悟の回避。
メイもツバメに続いて、回避に集中。
真横を猛然と駆け抜けていく獣の王を、ギリギリのところでかわす。
すると駆け抜けた獣の王は身体を反転し、すぐさまターゲットを変更。
怒涛の勢いで、レンのもとへ。
「ここで後衛狙い!? でも、真っ直ぐ来てくれるなら……やりようはあるっ!」
レンは綿毛の少ない箇所に下がり、杖を構える。
「喰らいなさい! 【フレアバースト】!」
特攻に対するカウンターが炸裂。
生まれる隙を突こうと、まもりが駆け出す。しかし。
「止まらない……?」
【不退転特攻】は、攻撃による強制停止ができない『スーパーアーマー』仕様。
「きゃああああ――っ!」
レンはそのまま獣の王に跳ね上げられ、空中を回転しながら落下。
5割のダメージと共に、転がった。
「と、とんでもない攻撃ね……! 間違いなく前回よりも強力。とても少人数で対応できる連携じゃないわ」
「今回はスキルを連続で使用することで隙を作って撃つ形が多いので、厳しいです」
息も荒く、振り返る獣の王。
「……でも、獣の王の特攻を見ると思い出すわね。あの頃のこと」
「王都攻略は、私の家で合宿中でした」
「メイが大きく取り挙げられたCM、見にいったの楽しかったわね」
「えへへ、ちょっと恥ずかしかったけど……すっごく楽しかった!」
そして再び【不退転特攻】で、立ち上がったばかりのレンにトドメを刺しにくる。
「獣の王も、かなり強化されたみたいだけど……今はこっちも」
駆けるツバメ。
「はい」
疾走するメイ。
「今は、四人だねっ!」
「四人になって、あの時より圧倒的に強くなってるわ!」
再び頭を下げ、紋様を盛大に輝かせての特攻がレンに直撃する。
その瞬間。
「【かばう】」
まもりも走っていた。
巨大な獣が突撃してくる姿はもはや、自然災害のように人間を呆然とさせてしまうほどの迫力がある。
それでもまもりは、その正面に立ち盾を構えた。
「【不動】【地壁の盾】!」
獣の王の前に飛び込んできたまもりは、盾一つで突撃を受け止めた。
ぶつかり合う両者から響き渡る盛大な衝突音が、ビリビリと身体を震わせる。
つい最近まで、飛んで来る仕掛けの矢や罠の炎弾をひたすら防御するという地味が過ぎるクエストを、一人で続けていたまもり。
自然災害のごとき一撃を一人で喰い止める姿に、その迫力に呆然とする観戦者たち。
一瞬、完全な均衡を見せた盾の少女と獣の王。
どんなスキルでも止められない【突撃】と、どんな攻撃でも動かせない【防御】
矛盾する二つのスキルのぶつかり合いは、両者が跳ね返されることで決着となる。
「きゃあっ!」
まもりは尻餅をつき、獣の王は大きくのけ反った。
互いに隙を晒す両者。
優位は、圧倒的に獣の王。
なぜならその巨体に見合わぬ速さによって、確実に先手が取れるからだ。
「……いくわ!」
だがまもりには今、三人の仲間がいる。
「【誘導弾】【フレアバースト】!」
放たれた爆炎が、獣の王に直撃して炎を巻き上げる。
「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】!」
ツバメは走り、一気に獣の王のもとへ。
「【跳躍】【回天】! 【三日月】【旋空】【稲妻】!」
その頭部を斬って着地すると、そのまま斬り下ろしから回転斬り。
そして斬り抜けへとつなぐことで、連携を続けるための楔となる。
「メイ、あれ使ってみましょう!」
レンはメイと、言葉一つで意思疎通。
「りょうかいですっ!」
メイは右手に取りだした【クールタイム減少薬】を使い、【友達バングル】の使用を選択。
右手を高く突き上げる。
「――――誰が来てくれるかなっ!?」
掲げた【友達バングル】
すると空中に現れた魔法陣を突き破る勢いで飛び出してきたのは、雲のひとかけらに乗った一匹の猿。
黄金の毛並みに、浮かべた強気の笑み。
軽鎧に巻いた赤の羽衣と、手にした赤と金の棒が良く決まっている。
「キキッ! お前さんたちに会うのは久しぶりだな! ちょうどいい、ここで一発ぶちかますとすっかァ!」
そのまま筋斗雲で一回転した斉天大聖は、炎に包まれた獣の王に狙いをつける。
「いくぜぇぇぇぇ! 【如意乾坤撃】だぁぁぁぁぁ――――ッ!」
巨大化した【如意棒】の大きさはもはや、ビル一棟を振り降ろすがごとく。
「【ラビットジャンプ】【アクロバット】!」
そしてそんな豪快な一撃を決めた斉天大聖に続くように駆けてきたメイは、大きなジャンプから空中で一回転。
「大きくなーれ! からの【フルスイング】だぁぁぁぁぁぁ――――っ!」
叩きつけた塔のごとき如意棒の上から、クロスするように叩きつける【蒼樹の白剣】
この空間の石床が一段下がったかと思うほどに深く、獣の王を石床にめり込ませた。
脅威の一撃が決まり、親指をビッと立てて帰っていく斉天大聖に、手を振るメイ。
すぐさま三人は、まもりのもとへ駆けつける。
「ありがとう、さすがまもりね」
「お見事です。また、助けていただきました」
「すごかったよ! まもりちゃんっ!」
「い、いえいえっ……お役に立てて良かったです……!」
駆けて来たメイが、手を伸ばす。
まもりはそっと、その手をつかんで立ち上がった。
獣の王のHPは残りわずか。
四人は笑い合うと、構えを取る。
「すごいね、バニー」
「…………うん」
その姿を見ていたアーリィたちは、確信する。
例えどれだけ獣の王が強化されていようと、メイたちが敗れるはずがない。