作品タイトル不明
974.緊張
「ご迷惑をおかけしましたっ! もう痺れは完全に治りました!」
「迷子防止に『麻痺』を利用するって、冷静に考えるととんでもないわよね……」
【麻痺針】の効果が切れた迷子ちゃん。
レンはさすがに驚きの声をあげ、まもりもこくこくとうなずく。
ようやく『荷物』から解放された樹氷の魔女も、肩の荷が下りたようだ。
「とにかく今は進んで、メイたちとの合流を目指しましょうか」
「仰せのままに」
「はいっ」
うれしい内心を隠して、妖しい笑みをがんばって浮かべる樹氷の魔女と、元気に応える迷子ちゃん。
続く道はサンドベージュ色の古い石積みで、植物の浸食は少ない。
その合間に見える紋様に気をつけながら、足を進める。
たどり着いた広い空間には、出入り口が四つ。
中心には、円形の舞台を思わせる舞台。
その周りを取り囲むように立つ、8体のミノタウロスのような機械像。
「絶対に動くわね」
「動きますね!」
「う、動きますっ」
「フフ、これは間違いないでしょうね」
「【フレアストライク】!」
とりあえず一発、『この時点ですでにダメージを与えられる可能性』を期待して放つ魔法。
しかし変化はなし。
「この時点で焼け目もつかないオブジェクト……クク、むしろ怪しさを増していますよ」
円形舞台の中心には紋様。
仕掛けがあるとなれば、踏み込まないわけにはいかない。
四人は並んで進み、舞台の中央へ。
すると予想通り、機械像が動き出す。
まずは第一陣が四体。
「来るわ!」
「我ら闇の使徒に立ち塞がるとは、愚かな」
迫り来る四体の手には、片刃の長斧。
「【三連射】【アイシクルエッジ】」
「【連続魔法】【フリーズボルト】」
先行はレンと樹氷の魔女による、氷弾の七連発。
バラまくように放った魔法が、先頭を駆けてくるミノタウロス型に当たって足を止める。
「【スリップ・フット】!」
そこに飛び込んでいくのは迷子ちゃん。
速いフットワークで一気に距離を詰め、そのままガントレットの拳を叩き込む。
「【ジェット・ナックル】!」
蒸気のようなエフェクトを放ちながら猛進し、叩きつけた一撃が見事に先頭のミノタウロス型を吹き飛ばし瀕死に追い込んだ。
「【氷のイバラ】!」
「【フリーズストライク】!」
続けざまに回り込んできた個体の足を氷刃が止め、即座にレンの氷砲弾で弾く。
この連携に、二体目のミノタウロス型が後方に倒れ込んだ。
二人がかりの攻撃の隙を突くのは、三体目。
投じられた長斧は風切り音を鳴らして接近するが、これをまもりが難なく防御。
「【地壁の盾】!」
ガツンと大きな音と共に宙を舞う。
しかしミノタウロス型は止まらない。
そのまま【タックル】で、魔導士二人を狙う。
「はいそこっ! 発動!」
しかし足元にはすでに、【設置魔法】が張られている。
抜けてきたミノタウロス型はこれを踏み、氷嵐を喰らって倒れ込んだ。
「いい感じ! これなら問題なく――」
そこまで口にして、思わずぎょっとする。
四体目との戦いを始めた迷子ちゃんは、すでにこのフロアの端。
出入り口付近にまで遠ざかっていた。
「ちょ、ちょっと待って! 【低空高速飛行】っ!」
レンはすぐさま、迷子ちゃんの回収に移動。
ここで迷子にしてしまっては、ここまでの皆の苦労が無駄になってしまう。
レンは緊張に身体を震わせる。
「【連続魔法】【誘導弾】【フリーズボルト】!」
氷弾の連射でミノタウロスをけん制し、迷子ちゃんの背後に回り込む。
するとここで第二陣。
さらに四体のミノタウロスが起動し、二体ずつに分かれて駆け出した。
「「っ!!」」
レンの魔法に足止めを喰らった四体目は、長斧を全力で振り下ろす。
石床を刃が叩き割り、巻き上がる大量の石片と砂ぼこり。
これをかわしたレンはすぐさま駆け出し、慌てて砂ぼこりの中で迷子ちゃんを見つけて腕をつかむ。
「つかまえた! こっちよ……ん?」
そして違和感。
華奢な迷子ちゃんの腕にしては、固いし太すぎる。
「このパターンは……やっぱり! これミノタウロスの脚じゃない! 【旋回飛行】!」
マタンゴ戦での経験が、まさかの形で活きる。
すぐに意識を変更。
振り下ろされる長斧をかわし、急いで砂煙を抜ける。
するとそこには、こちらへ迫る新たな二体の前に立つ、迷子ちゃんの姿があった。
「【スリップフット】!」
振り下ろされる斧をかわし、続くタックルも回避する。
「【ロックアーム】!」
金属製のガントレットをつけた岩の腕が地面から大きく伸び、叩きつけ反撃。
敵二体は大きく下がったところで、同時に『地形スキル』を発動。
全力で振り上げた斧から走るエフェクトに、天井の岩が落下。
「っ!?」
生まれた石山に急停止したレンは、再び迷子ちゃんの姿を見失った。
「【フレアバースト】!」
再び消えた迷子ちゃんに、焦燥と不安でドキドキしながら握る杖。
レンはすぐさま振り返り、追ってきた四体目のミノタウロス型を爆炎で吹き飛ばす。
「どこ!? どこにいるの!? 【浮遊】!」
そしてすぐさま迷子ちゃんを捜し、石山の上へ。
「…………いない」
そこに、迷子ちゃんはいなかった。
愕然としながら、レンは必死に付近を見回す。
「【ジェット・ナックル】!」
迷子ちゃんは、ちょうど二体のミノタウロスの陰にいた。
叩き込んだ豪快な拳で一体を吹き飛ばし、二体目の振り降ろしをバックステップで回避。
「もう一発! ジェット――!」
「ゴアアアアアア――――ッ!!」
そして両者が真正面からぶつかり合おうとした、その瞬間。
「はああああーっ! 解放っ!」
そこに飛び込んできたのはレン。
【魔剣の御柄】に込めた【フリーズブラスト】で斬り、そのまま魔法を解放。
すぐさま装備を【ヘクセンナハト】に変更し構える。
「【フレアバースト】!」
攻撃範囲を広げた爆炎で、そのままトドメを刺した。
「ありがとうございますっ!」
そう言って、笑顔で駆け寄ってくる迷子ちゃん。
「……もう、どこにも行かせないわっ!」
「ひゃああっ!? レ、レレレレンさんっ!?」
戦いよりも強烈な緊張感。
レンはその存在を確かめるように強く抱きしめ、迷子ちゃんは急な強い抱擁に硬直してしまうのだった。
「ククク【クイックガード】【地壁の盾】っ!」
まもりは樹氷の魔女を背後に、必死の防御を続ける。
四体が連続攻撃することで、反撃の隙はなし。
完全なまでの防戦一方だ。
「こ、ここは流れを変えなくては……っ! 【溜め防御】!」
スキルを発動し、再びミノタウロスたちの連携を盾で受け続ける。
「…………」
一方樹氷の魔女は反撃の隙をうかがいながらも、まもりの背後という場所の異常な安定感に感嘆してしまう。
敵は四体、巨大なミノタウロス。
しかし四体程度での連携では、崩れるきっかけすらない。
なによりこの連携への防御を、全て右手の盾一つでこなしている。
やはりメイのパーティの『一角』になるプレイヤーは、何かが『非常識』だ。
そして四体目の【豪連突き】を四発ほど受けたところで、ついに左手の盾を突き出す。
「【シールドバッシュ】!」
「ッ!?」
盾が生み出す衝撃波は、あまりに強烈。
三体のミノタウロスの体勢を、いっぺんに崩してみせた。
「お、おおおお願ひしますっ!」
圧倒的な防御から続く強烈なカウンター……から続く人見知り全開の嚙み方。
樹氷の魔女は、その温度差に驚きながら手にした杖を構える。
「顕現せよ、冷徹なる零度の白牢――――【臨界氷樹】!」
渦巻く冷気が敵の足元に集まり、急速に降りる霜が一気に氷の大樹を生み出す。
そしてそのまま、ミノタウロスたちの脚部を凍結させた。
続けて巻き起こる、氷の爆発。
容赦ない白刃の乱舞に飲み込まれたミノタウロスたちは倒れ込み、その動きを止めた。
そして大きく舞い散った吹雪が、ゆっくりと消えていく。
「……使徒長?」
その先から、歩いてやってきたのはレン。
勝利直後だというのは、なぜかその目は真剣そのものだ。
「視界を塞ぐタイプの魔法はやめて……お願いだからっ!」
レンは叫んで、あらためて迷子ちゃんをしっかりと抱きしめる。
すると樹氷の魔女も、急に真剣な顔をした。
「迷子になりかければ、使徒長の抱擁が……?」
そんな二人の言動に、まもりは首をかしげるしかないのだった。