軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

966.再会即白目

即死罠付き崩落区画を抜けたメイたちは、さらに王都地下を進む。

するとそこに、一人の少女が現れた。

「やあ、帝国以来だね」

「か、かかか怪盗さん……」

「そんなに噛まなくても」

早くも嚙み倒しているツバメに、レンはくすくすと笑う。

怪盗は小さなシルクハットと、長めの外套。

短めの髪で少年っぽい見た目をした、ショートパンツ女子だ。

「ここで会ったということは、世界の危機に向けて動いているんだね。少しあたしに手を貸してくれないかな」

「何かあるならお手伝いしましょう。怪盗さんのアシスタント、させていただきます」

ツバメは怪盗が【スティール】担当になるような言葉を、しれっと入れていく。

「【スティール】をお願いしたいんだ」

「…………」

しかし即反撃され、黙るツバメに集まる視線。

「……ちょっとよく、聞こえませんでした」

ツバメ、もうちょっと頑張ってみる。

「【スティール】をお願いしたいんだ」

「すみません、最近耳が遠くて……」

「【スティール】をお願いしたいんだ」

「【スティール】の補助のようなお仕事はありませんか?」

ツバメ、最後の抵抗。

「【スティール】をお願いしたいんだ」

「こ、これは、会話がループする展開では……」

これ以降は何度聞こえないフリをしても、何を言っても同じ会話が続くだろう。

そう理解したツバメは、白目のまま降参。

「ふふっ、あの帝国での状況を見てまだ私たちに頼むって、怪盗もなかなかイカれてるわね」

帝国では【スティール】待ち用のセリフを全部使いきって、怪盗がすっかり無言になっていた事を思い出すレン。

「この先は防衛システムが効いていて進めないんだ。システムを落とすには宝珠を盗んで、オフにすることが必要になる」

「まずは、移動と回避が必要なのですね」

「シンプルなルートだけど、その分ハードなんだよ。でも君とだったら無理をしなくてもいけそうだね」

どうやらパーティの傾向で、怪盗がどこまで『中心』になるかも変わってくるようだ。

「それじゃ、あたしたちで先行しよう。準備はいいかい?」

「……はい」

「さっそくいくよ! よーい、スタート!」

「【加速】!」

怪盗とツバメが走り出す。

見た目には、石積みの広い道が続くのみ。

しかし数メートル先に崩落してきた天井が、すぐさま小高い石片の山を作る。

「それっ」

先行した怪盗はこれを、余裕の側方宙返りで飛び越えた。

「【跳躍】」

すると遅れて跳んできたツバメの着地際を狙う魔法珠が、炎弾を発射。

「させないよっ!」

怪盗の投じた短剣が炎弾にぶつかり、相殺。

着地際のツバメを、助けてみせた。

「ありがとうございます」

どうやらこのクエストは、こちら側の動きに合わせて怪盗が助けを出してくれるシステムのようだ。

「っ!」

しかし罠は続く。

直線の通路に入ると、そこには平行に並んだ光線の仕掛け。

迫る横シマ型の光線は、触れれば高いダメージを受け弾かれる。

「怪盗さんは、どちらが得意ですか?」

「上段かな」

「分かりました! 【スライディング】!」

そして迫る光線の格子トラップを、怪盗は華麗な跳躍で上部の隙間をすり抜けた。

ツバメは怪盗が不得意だという下段を選んで、すべり込みで抜けていく。

「ここは先行します【壁走り】!」

ツバメはすぐさま、床に並んだ無数の魔法陣を見つけて壁を走る。

足元に陣が出てくるなら、踏まずに駆けるのみ。

「さすがだね【ロングジャンプ】!」

一方怪盗は低く長い跳躍で、連続魔法陣を越えるが――。

「っ!」

天井の低さゆえに跳躍にも高さを出せず、カカトが最後の魔法陣を踏んでしまった。

輝きと共に現れるガーゴイルは、後方から。

怪盗の背中を狙い、魔力のボーガンを放った。

「【投擲】!」

しかしツバメの投じた【ブレード】が直撃して、弾かれた。

「助かったよ。さすがあたしの見込んだアサシンだ……!」

二人は見事な連携でガーゴイルを置き去りにして、角を曲がる。

「あいつだ!」

怪盗が指さしたのは、古代剣士のようなガーゴイル。

その胸元には、分かりやすく宝珠が埋め込まれている。

「さあまずは、一つ目の【スティール】といこうか!」

「…………え?」

ツバメは聞こえた言葉に、耳を疑う。

「【スティール】は、二度必要なんだよ」

与えられた、まさかの情報。

これにはもう、愕然とするほかない。

「二度成功させた時には、もう世界が滅んでいると思うのですが……」

地下迷宮から出てきたらとっくに世界が崩壊してる図を想像して、震えるツバメ。

「さあ、いこう!」

止まらない怪盗の言葉に、ツバメは白目のまま【強奪のグローブ】を装備する。

「【トリックスピン】!」

初撃は怪盗の短剣による回転撃、古代剣士ガーゴイルは後方移動でかわす。

「【加速】【リブースト】【反転】!」

そこに駆け込んできたツバメが背後を取り、この隙を突きにいく。

「い、いいいいきますっ! 【スティール】!」

そして見事な流れでの【スティール】を、王者の貫禄で失敗。

「【スティール】【スティール】【スティール】!」

ガーゴイルの攻撃を、踊るような足の運びで避けつつ【スティール】を連発。

しかし、予想通り盗めない。

「【ラピッド・ピアース】」

続く怪盗の一撃が刺さると、ガーゴイルは一転距離を取る。

剣の柄に埋め込まれた魔法石が輝き、放つ魔力光弾。

「攻撃しながら逃げるのですか……!」

宝珠を持った敵が逃げるというのは、かなりやっかいだ。

しかもその足は速く、柄から放つ光弾は数も多いため足止めにも有効。

逃げられた場合は、今度は『探すターン』となってしまうこのクエスト。

「逃げられた敵を再発見してから【スティール】を成功させる。下手をすれば『三度目』の世界が滅びても、まだ盗んでいる可能性があります……っ」

そこでツバメは、勝負をかけにいく。

「【疾風迅雷】【加速】【加速】!」

距離を詰め、ガーゴイルが剣を掲げたところで進路変更。

「【壁走り】【天井走り】」

そのまま壁から天井へと駆け上がり、ガーゴイルを追い越した。

「【反転】【アクアエッジ】【四連剣舞】!」

落下と同時に【反転】し、そのまま空中で振り返り攻撃。

逃げるガーゴイルの足を止めてみせた。

敏捷型の前衛であれば、誰もが呆然としてしまうような身のこなし。

怪盗も「わお」と、感嘆する。

「【スティール】!」

失敗。

「【スティール】!」

失敗。

「【スティール】!」

失敗。

敏捷型の前衛であれば、誰もが唖然としてしまうような【スティール】失敗。

前後を挟まれる形になった古代剣士ガーゴイルは、剣舞で反撃。

ツバメはこれを、【スティール】の千倍華麗な動きで回避する。

「【紫電】!」

そして一瞬の隙を突き、硬直に陥れた。

するとそこに駆け込んできたのは、怪盗。

「【スティール】!」

華麗な流れで、盗みを成功させた。

「……えっ、怪盗さん?」

「どうにか宝珠の奪取に成功できたね」

まさかの事態に、ツバメは再び困惑。

「ありがとう。まさかこんなに助けてもらうなんて……やはり君は、かなり優秀なアサシンのようだ」

本来は怪盗が助けに回ってくれるこのクエストを、逆に助けた場合しか聞けないこのセリフ。

しかしツバメには届いていない。

「もしや……一緒に盗むという形なのですか……っ!?」

見事な流れで難題を突破したツバメは、差し込んできた希望の光に目を輝かせた。

うっかり両手が、バンザイしてしまう。

「今回は二人がかりだったから早かったね。さあ次が勝負だ。【スティール】頼んだよ」

「…………」

どうやら一つ目は協力体制、二つ目はツバメ単体に任せるという形だったようだ。

やはり【スティール】からは、逃げられない。

再び白目をむくツバメ。

その肩に、遅れてやって来たレンとメイがそっと手を乗せた。