軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

932.御所と名人

「まもりさん、寝言でも食べていましたね」

「お、お恥ずかしいです……」

「ふふ。『もう食べられない』なら分かるけど、『まだ食べられます』は初めて聞いたわ」

「あはははっ、本当だねぇ」

まもりの幸せそうな寝顔を思い出して、笑うメイたち。

四人は昨日、大嶽丸を打倒したところでログアウト。

再び京に戻ってくると、そこにはたまちゃんと葛葉が待っていた。

「……長きに渡って葛葉の者たちと京を見守ってきたが、このような事は類を見ぬ。一体誰が、何のために冥界を降ろしたのじゃろうか」

二人は首をかしげている。

「そう言えばアサシン組織の尻尾も見えてこないのよね。大きなクエストが動いてるのは間違いなさそうだけど……」

「冥界とアサシン組織。つながりが見えませんね」

「ぜ、全然違うクエストを追っている可能性もあるのでしょうか……」

残る疑問。

そんな中レンは、犬神が何かをくわえていることに気づいた。

「……あれ、それは?」

「どうやら、大嶽丸との戦いの後に見つけた物のようですな」

葛葉が確認すると、それは一枚のお札だった。

「祈願達成の札。この書式は……蘆屋の使う物ですぞ」

「冥界の門を開き、大嶽丸たちを呼び出した事件に蘆屋が関わっているのか……? だとすれば、目指すは御所じゃな」

「ごしょ?」

「京の北部にある『政』の中心地じゃ。天皇を中心に、大臣たちが職務をこなす都城となっておる。蘆屋を動かし、何かを狙う者がいるとすれば公家である可能性が高い。ついてくるがよい」

そう言って、歩き出すたまちゃん。

やがてたどり着いたのは、堀と瓦屋根のついた高い壁で仕切られた区画。

「造り的には、『鳳』に近い感じでしょうか」

内部には『宮』を含み、ヤマトの中枢と言ってもいい場所になっているようだ。

各所の門には、刀を下げた兵士たちがにらみを利かしている。

「強引に突破だと、さすがに色々揉めそうね」

ステルス系ゲーム特有の、力技で進むとNPCが全員敵として襲い掛かってくるような状況。

下手に突き進めば騒がしくなるだろうと、レンは予想する。

「ここは任せるのじゃ。かつては朝廷の者たちと京の町を守るために戦ったこともあるわらわであれば、この程度は顔ぱすじゃ!」

そう言ってたまちゃんは胸を張り、門番のところへ。

「何者だ! ここは京の都城なるぞ!」

「早々に立ちされ! でなければ斬るぞ!」

「道を開けるがよい。わらわは高名なる稲荷の神――――たまちゃんじゃぞ!」

「「誰だよ」」

「…………」

しょぼんとして帰ってくる、たまちゃん。

「せめて『宇迦之御魂神じゃぞ!』の方が良かったんじゃない……?」

それならまだ威光が示せたのではないかと、レンは苦笑い。

「考えてみれば、朝廷の者たちと共に戦ったのは100年も前の話じゃった。今の関係者が知らぬのも無理はない」

「それでは私が行ってきましょう」

そう言って葛葉が、犬神と共に門番たちのもとへ。

懐から取り出した紋入りの木札を見せると、兵士たちは下がり、道を開けてくれた。

「葛葉は一応、一部の公家とつながりがありましてな」

どうやら紋入りの木札は、通行証のようなものらしい。

「それなら最初から先に行かぬか! 恥をかいてしまったではないか!」

そう言いながら葛葉をポカポカ叩くたまちゃんに、笑うメイたち。

無事に全員で、御所の内部に入り込むことに成功した。

「おおーっ」

壁の内部には、緑の瓦が豪華に使われた木造の建物が並んでいる。

白石の敷き詰められた庭には石畳の道が続き、池にかかる小さな赤い橋は優雅な造りをしている。

「ここからはまた、きっかけ探しになりそうね」

メイたちはなんとなく、目立つ五重塔の方へ足を向ける。

するとその途中で、不意にメイが足を止めた。

「どうしたの?」

「何か聞こえてくる……「誰かおらぬかー」って」

「行ってみましょう」

四人はたまちゃんたちを連れ、声のした方へ。

すると大きな瓦屋根の建物の縁側に当たる部分に、赤の着物に青の烏帽子をかぶった男が座っていた。

「む、そちら何者でおじゃるか?」

「お、おじゃるか……?」

公家らしい言葉遣いに、ちょっと驚くツバメ。

「いや、そのようなことはどうでも良い! そちら、麻呂のカルタの相手をするのじゃ!」

「カルタですか?」

「そうじゃ! 麻呂はカルタが大好きでおじゃる! それゆえに御所の者たちを相手に次々と勝負を仕掛けていたのじゃが……今ではすっかり飽きられてしまったのでおじゃる。なにより一番の遊び相手が、体調を崩してしまっての……」

「ミニゲーム要素のあるクエストってところかしら」

「そこでじゃ! 初めて見るそちらとぜひ、手合わせしたいのじゃ!」

「なんだか楽しそうだねっ」

「……では、私がお相手いたしましょう」

そう言ってツバメが、縁側に上がる。

「まろは坂下村田麻呂じゃ! 京一番のカルタ名人でおじゃる!」

そう言って村田麻呂がふすまを開くと、そこは畳敷きの広い広い部屋。

おかれた金屏風が雅な雰囲気。

そして部屋の中心には、21枚のカルタが散らばっている。

どうやら一回の対戦を短くするため、枚数は少なめになっているようだ。

「ルールは簡単でおじゃる。読み上げられた文言の札をいち早く取る。そしてどちらかが過半数を取った時点で勝負ありじゃ。お手付きは一回休みじゃぞ!」

「了解しました」

広げられた絵札を眺めつつ、ツバメがうなづく。

『それでは始めます』

突然入ってきた女中が、読み札を手に取る。

ツバメと村田麻呂は畳にヒザを突き、勝負が始まる。

『――――桜雨、宵の光に』

「はい!」

ツバメ、夜桜の絵札をすぐさま払う。

するとツバメの視界の端に、『1』と数値が表示された。

「ほっほ、なかなかやるの。じゃが勝負はここからじゃ」

『――――ススキの穂』

「はい!」

ツバメ、金色に輝くススキの絵札をすぐさま払う。

「速ーい!」

「す、すごいですっ」

その速さに、思わず歓声を上げるメイたち。

『――――雪化粧』

「はいっ!」

続けてツバメ、一面白く染まった森の絵札を払う。

「本当に速いわね……!」

ツバメは素晴らしい速度で絵札を払い、立て続けに6枚を取った。

すると村田麻呂の目つきが、鋭く細められた。

『――――波の』

「そこじゃっ!」

「「「「ッ!?」」」」

ツバメも虚を突かれるほどの速度で伸ばされた手が、海の絵札を弾いた。

「ふぉっふぉっふぉ、少し速すぎたかの?」

村田麻呂は楽しそうに笑う。

「ここからは麻呂の一人舞台になってしまうかもしれぬが、勘弁してほしいでおじゃる」

そして余裕を見せつけるかのように、取り出した扇子でひと扇ぎ。

「なるほど、お見事です」

するとツバメは「なるほど」と、一つ息をついた。

「ではこちらも――――ギアを上げましょう」

「……ほ?」

ツバメのそんな宣言の直後、始まる読み上げ。

『――――花』

「はいっ!」

『――――菫』

「そこですっ!」

「「「ッ!?」」」

単語一つ。

村田麻呂が動き出す瞬間、すでにツバメの払ったカルタは畳上から消えている。

これには皆、驚きの息をつく。

「も、もしやツバメさん経験が……?」

「確かにツバメは百人一首とか、競技カルタをやってそうな雰囲気があるわね」

まもりとレンの言葉に、ツバメはこくりとうなずく。

「はい。札の読み始めから2秒で『相手に取られた』ことになる、百人一首を遊んでいました……一人で」

「一人で……しかも百人一首を」

その強さの哀しい秘訣に、レンがゴクリと息を飲む。

「百人一首と違い、下の句を思い出す必要のないシンプルなカルタであれば……」

『――――あ』

スパ――ンッ!!

『――――や』

スパ――――ンッ!!

「……話をしながらでも、問題ありません」

そこからは、ツバメが一方的に札を払うだけの時間。

なんとそのまま、11対1という大差で札を取って勝利した。

「きょ、京一番のカルタ名人である麻呂が、ここまで無惨に負けるとは……っ」

これには村田麻呂も感嘆する。

しかし勝利は、次の勝負のきっかけとなる。

「……見事じゃ。では次はもっと、大きな勝負といこうかの」

村田麻呂はそう言って、その目をギラリと輝かせた。