軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

890.兵器の森

「準備はできましたか?」

「はいっ!」

緊張感のある人魚の問いかけに、風呂上がりのメイたちは楽しそうにうなずく。

「ゲートへ向かうルートはいくつかあるようですが、私が知るのは一つだけ。それでは、道案内をさせていただきます」

そう言って人魚は先行する。

先ほどのイルカとはここで分かれ、紋様の上へ。

すると床の紋様が水に変わり、その下に長い水柱が現れた。

柱を構成する『水』は重たいのか、メイたちが乗ると体が勝手に沈んでいく。

「……わあ、すごーい」

「きれいです……」

広い空間の中央に生まれた水柱の中を、ゆっくりと降りていく。

見えるのは、一面に広がったサンゴと魚の世界。

どちらも色とりどりで、目に鮮やか。

想像の『南国の海中』を、さらに賑やかにしたような感じだ。

「私たちが水の中を降りてきて、魚たちが水のないところを泳いでいるのは不思議な感じね」

内外が逆になった水族館のような状況に、感嘆するレン。

水柱から出て、どこかアクアリウムじみた空間に出る。

「こんな光景が見られるとは思わなかったわ」

「はひっ、きれいです……」

かなりの広さを誇るその空間は、『サンゴの森』とでも呼べそうな雰囲気だ。

その大きさもかなりなもので、高さは地上の『木々』と同じくらいある。

「静かに私の後をついて来てください。くれぐれも道を間違えたりしないよう、お気をつけて」

「ずいぶん厳重ね」

「ここは見た目ほど、良い場所ではないのです」

そう言って泳ぎ出す、人魚に続く。

するとやがて、頭上を一頭のイルカが泳いでくるのが見えた。

イルカはどこかフラフラとした泳ぎをしていたが、人魚の姿に気づくと、こちらにやって来た。

「このイルカちゃん、ケガしてるよー」

「……一見美しく見えるこの空間。構成する魚やサンゴは全て、かつての文明が生み出した兵器なのです。そしてこの海洋兵器たちは、再生や増殖をすることで『侵略』していきます」

そう言って人魚は、そっとイルカを抱きかかえる。

「ここにいる機械のイルカたちは、増殖を抑える仕事をしていました。ですがこの都市から人間たちがいなくなった時、全てを置きざりにしていった。そのため今も、外の世界への流出を防ぐために戦いを続けているのです」

「世界の海を守るために、戦い続けていたイルカたちってことね」

「ひたすらに命令を遂行し続ける機械の、切なさとロマンを感じますね」

人知れず使命を全うし続けているイルカに、ツバメとレンは目を向ける。

「この子はまだ大丈夫のようですが、破壊されてしまった子やもう戦えない子もいます。そして、この子たちがいなくなったら……」

「海洋兵器たちが増殖して、遺跡の外にも広がっていってしまうと」

「水がなくても泳げる魚というのも、対地上用の『兵器』なのかもしれませんね」

レンとツバメの言葉に、人魚はうなずくことで応えた。

「無事と言える個体の数はもう数えるほど。この平和がいつまで続くか……」

外皮に大きな傷を負ったイルカと共に、人魚は再び進む。すると。

突然イルカが何かに反応した。

見れば黄色の魚群が、一頭のイルカを追いかけている。

どうやら兵器魚の群れに後れを取る形になったイルカが、攻撃を受けているようだ。

その数はなんと千匹にも及び、執拗に付きまとうような形で、刃のヒレによる体当たりを仕掛けている。

「レンちゃんっ!」

「いきましょう!」

さっそく動き出そうとするメイたちに、人魚が問いかける。

「戦いを始めれば、他の海洋兵器たちも動き出す可能性が高いです。そうなれば、貴方たちも無事では済まないでしょう」

「でも、戦ってもいいのよね?」

「それは……そうですが」

「がんばれば、イルカちゃんたちは戦わなくて良くなったりするのかな」

「……はい」

「【装備変更】っ!」

メイは返事を聞くや否や、頭装備を【猫耳】から【狼耳】に変更。

「ウォオオオオオオ――――ッ!!」

【遠吠え】で兵器魚たちの群れを引き付ける。

一度大きく膨らむ陣形を取った黄色の魚たちは、一斉にメイ目がけて突撃。

「【バンビステップ】!」

群れが一斉に列をなして迫る状況など、なかなか見ない光景だ。

初見の攻撃の対処は難しいものだが、メイは気づく。

「ヘビの攻撃に近いかも……っ!」

手足となる部分がないため、動きは『線』が中心。

直進してくる魚群をかわし、ターンと共に弧を描いて迫る第二波も横へのステップで回避。

すると魚群は、三つに分かれての攻撃に入る。

第一陣は回り込むような軌道で迫り、第二陣はすくい上げるような起動。

さらにわずかに遅れて、直進で来る第三陣。

群体ゆえに攻撃範囲が広く、隙の少ない連携だ。

「よいしょっ!」

しかしメイはこれを、右左右と三度のローリングでかわす。

【狼耳】による『つなぎモーション』の速さによって、魚たちがかすめることもない。

初見とはいえ、線の攻撃ではメイを捉えることはできないようだ。

「……?」

するとここで魚たちは大きく広がり、メイを取り囲むような形での攻撃を選択。

全方位から次々に魚が突撃してくるという、恐ろしい状況に見舞われる。

前方から来る魚だけでも上方、正面、左右と数が多く、メイはこれをかわしつつ背後にもチラリと視線を向ける。

足を止めたらその瞬間攻撃が当たる可能性があるため、細かいステップと飛び込みを使用。

「よいしょっ!」

そこからローリングにつなぐことで、的を絞らせない。

「す、すごいです……っ」

背中にも目が点いているかのように、全方位からの攻撃をかわすメイに感嘆するまもり。

すると魚群はその戦闘方式をさらに変化させる。

寄り集まって一体の巨大魚を作り、喰らいつきにくる。

「ス、スイミーだあああーっ!」

獰猛な魚たちが集まって一体の巨大な獰猛巨大魚になる様子は、もはや邪悪なスイミー。

驚きの声を上げるメイに、巨大な口を開いて飲み込みにかかる。

まさに多彩な攻撃法を持つ魚たちだが、この攻撃はメイにとっては最高だった。

「がおおおおおお――――っ!!」

一か所に集まっているのなら、【雄たけび】で動きを止められる。

「レンちゃんっ!」

本来敵が群れであることは、かなりやっかいだ。

無数の個体による連続攻撃となる上に、物理攻撃では数を大きく減らすことが難しい。

「メイ! その子をお願いっ!」

「りょうかいですっ! 【ターザンロープ】!」

メイはすぐさま、戦いに向かおうとするイルカを縄で確保。

安全圏に引っぱったところでレンが、【ヘクセンナハト】を掲げる。

「さあいくわよ! 群れになっての攻撃を選んだことがアダになったわね! 【フレアバースト】!」

放たれる爆炎は、その範囲を大きく広げる。

群れでいた海洋兵器魚たちに、もはや逃げ場なし。

大きく舞い上がった炎が、邪悪なスイミーを形成していた魚たちを、まとめて焼き尽くした。

「複数の敵を魔法で一発。やっぱり『まとめてから範囲攻撃』は最高に気持ちいいわね」

イルカを数の優位で襲っていた兵器魚たちを、一撃で消せたことに満足気そうな息をつくレン。

何とも言えない心地よさに笑みがこぼれる。

「お見事です」

「さっすがレンちゃん!」

拍手するツバメとメイ。

「……焼き魚の匂いは、しませんでしたね」

そんな中まもりだけが、真面目な顔でつぶやいていた。