軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

870.イカダのフルコース

「あっ! ツバメさん、何か流れてきます!」

「これは新たなガレキ地帯の可能性……! 風も止まっていますし、オールで行きましょう!」

「はいっ!」

「「「いち、に、いち、に!」」」

海賊ザメの襲撃を乗り越えたツバメと迷子ちゃんは、海を行く。

「やはりこの一帯、難破船のガレキがたまっていますね」

「カバンです! 中身は何でしょう……! あ、包丁セットですよ!」

「一応短剣としても装備できるのですね……これは大きなプラスになりそうです」

「ロープと木材もあります。これはさらにイカダを拡張するのでしょうか」

「こっちにはフックがありました。ロープと組み合わせておきましょう。イスもありますね。イカダを広げれば優雅に座ることができそうです」

「これはお宝海域ですね!」

沈没したのであろう船のガレキをひろい、イカダを豪華にしながら進む二人。

「サングラスもありました」

「急にバカンス風に……!」

とりあえずかけてみるツバメに、笑ってしまう迷子ちゃん。

ガレキ地帯の発見で、ツバメたちはさらに漂流生活を充実させた。

「そう言えば、メイさんたちとは一緒ではないんですか?」

「船が崩壊して、バラバラになってしまいました」

「あ、皆さん一緒に漂流しているんですね」

「一度現実で会議をして、合流を目指すことになっています」

「今回はどんな大物を狙っているんですか?」

「ターゲットの話は出ませんでしたね」

「そうなんですか?」

「はい、一応海のゲートを目指しているのですが、会議の時には『どうやって集まるか』以外は一言も……目標を決めた後はマップを見ながら「この辺ではないか」みたいな会話をしただけです」

「本当に攻略がメインではないんですね……」

掲示板民の言う『メイちゃんたちは攻略より遊び重視。結果として最先端にいる』という説が当たっていて、あらためて感嘆する迷子ちゃん。

「楽しさ優先なのはいいですね。私も掲示板の民さんと駆け回るのは、とても楽しいです! 皆さん少しどうかしていますが」

「どうかしているのですね……」

「はいっ」

一瞬の迷いもなく応える迷子ちゃんに、ツバメも笑みをこぼす。

掲示板組には「いやいや、迷子ちゃんはその中でもトップクラスにヤバいだろ」と言われるに違いない。

「メイさんのおかげで、ジャングルでのイベントからずっと楽しくて仕方がありません」

「メイさん、可愛くて元気で最高ですよねぇ」

「間違いありません! しかもいざという時にはカッコいいのです! 敵の恐ろしい攻撃を完全回避した後に見せる笑みは、至高です……!」

「本当に素敵ですね! あの華麗な回避から、その可愛さに見合わぬ豪快なアクション! 腕力! 野性味!」

「やはりメイさんは、どこにいっても愛されていますね」

そのまま二人は、メイの話で盛り上がる。

「あ! また何か流れてきましたよ!」

そんな中、迷子ちゃんが見つけた小箱。

勢いよく開けると――。

「中身は宝珠です」

「……属性ですか?」

「……はい」

「見なかったことに、できないでしょうか」

『火・氷・雷・風』四種の宝珠は、『何かに攻撃しろ』というメッセージにしか見えない。

気付かなかったことにして、そっと海に返せないかと目論む二人。

しかしこの海は、そう甘くなかった。

「天候が荒れ出しました……!」

すぐさま雲が空を覆い、雨が降り出した。

それに合わせて波も高くなる。

ツバメと迷子ちゃんはうなずき合い、手持ちの合成アイテムたちで準備を開始。

嵐が過ぎるのを待つことにした。しかし。

ここでイカダにゲージが再登場。

その事に気づいた直後、波間に見えたのは自分たちを囲む海獣たちの影。

「この数と大きさ、戦ってどうにかという形ではなさそうです! 襲い掛かってきた敵だけ叩いてやり過ごしましょう!」

「はいっ!」

確認し合った直後、イカダを攻撃してきたのはマーマン。

「【バスターゲイザー】!」

ド派手なエフェクトのアッパーで打ち上げ、マーマンを海に追い返す。

すると続けざまに乗り上げてきたのは、大きなクラゲ。

続けざまに拳打を放ちに向かうが、クラゲは【放電】で全身に電気を走らせ対抗。

「電気を止めます! 【投擲】!」

それを見たつばめが余りの包丁を投じ、【放電】を強制停止。

「【ジェット・ナックル】!」

即座に迷子ちゃんが拳を叩き込んで海へ。

見事な連携に、うなずき合う二人。

「「ッ!!」」

かかる影に思わず顔を上げる。

そこには通常の数十倍はあろうかという、巨大なウミガメ。

とても普通の攻撃でなんとかできる状況ではないが、【圧し掛かり】が決まればイカダが崩れてしまいそうだ。

「それならっ!」

すぐさま判断をくだす。

ツバメは見つけたばかりの【炎の宝珠】を投げつける。

すると爆炎と共に、ウミガメが弾き飛ばされた。

「あれは……!」

続けて海中に見えた影は、巨大シャチのもの。

迫る【喰らいつき】は、ワインボトルや【手作りの槍】の投擲では止まらない。

迷子ちゃんは慌てて【氷の宝珠】を投擲。

その口内を氷でいっぱいにした【ギャングシャチ】は、進路を急変更して逃げ去っていく。

ここで迷子ちゃんがシャチを追い返したことが、転機となる。

ツバメが早い段階で、荒れる波の背後にいた巨大なウミヘビに気づくことができた。

まだ距離はあるが、その長い尾はすでに高く持ち上げられている。

「尾撃……!」

これまでの戦いの中で感じるようになった、『尾』による攻撃の気配。

予想通り、イカダを狙った縦の尾撃が迫り来る。

「【投擲】!」

ここまで使用した宝珠の順は、完璧。

投じた【雷の宝珠】は感電によってウミヘビを硬直させ、尾撃は海面を叩く。

思わず安堵の息をつくツバメ。

海上漂流で起こりそうな問題のフルコースを見事に回避してきた二人だが、一直線に突撃してくる化物の姿に思わず目を見開く。

見えたのは、この荒天にまるで見合わない赤色の熱帯魚クマノミ。

その圧倒的な巨体は、荒れる海を一切気にすることなく一直線に特攻してくる。

間違いなく、あれを喰らえばイカダはひとたまりもないだろう。

そして残った宝珠は【風の宝珠】だけ。

「……これで、止められるでしょうか」

これまでの宝珠の威力を見るに、桁違いのサイズを誇るクマノミを止められる気がしない。

だが巨大熱帯魚は、容赦なく特攻してくる。

このまま動かずにいることだけは、絶対にしてはならない。

【風の宝珠】を手に、悩む二人。

迷子ちゃんは、不安そうに足元を見つめる。

「そういうことですかっ!」

その視線の先にあったものが、ツバメを閃かせる。

やはりこの敵数と嵐は、プレイヤー判断を試すものだ。

「帆を立てましょう!」

「ここで帆を……!?」

迷子ちゃんは不思議そうにしながらも、ツバメと共にイカダの帆を立てる。

「いきます!」

そして無理やり立てた帆に向けて、風の宝珠を発動する。

「「っ!!」」

巻き起こった突風を帆に受け、吹き飛ばされるイカダ。

荒れる波の上を水切り石のように跳ね飛び、クマノミの突撃を置き去りにする。

それでもイカダは止まらない。

ツバメと迷子ちゃんは、荒れる海域をそのまま離脱。

すると嘘のように雲が割れ、太陽が見え始める。

天候も穏やかになり、怪物たちも居なくなった。

「やりましたね……」

そう言って振り返るツバメ。

しかしイカダには、自分しかいない。

「まさか、風の衝撃で!? 迷子ちゃんさん! 迷子ちゃんさんっ!」

ツバメは慌てて辺りを確認。

しかし迷子ちゃんの姿はどこにも見当たらない。

あの嵐の中に置き去りにしたのであれば、最悪だ。

「今行きます! 待っていてください――――迷子ちゃんさん!」

「はいっ」

ツバメが今まさに海に飛び込もうとしたところで、突然迷子ちゃんが海面に顔を出した。

「迷子ちゃんさん……っ!? 無事だったのですか!?」

「ロープフックのおかげで助かりました」

「そういうことですか……」

事前に付けていたロープフックで、再遭難とはならなかったようだ。

今度こそ、ツバメは大きく息をつく。

するとイカダに上がった迷子ちゃんは振り返り、いまだ嵐の続く海域を見た後――。

「あ、あのっ」

両手を出した。

「よくメイさんたちがやっているのを見て、やってみたかったんです。おねがいします……っ!」

「はい!」

そのままハイタッチ。

二人はあらためて安堵の息をつく。

そして、これ見よがしに流れてきたズタ袋を発見。

「この袋……装備品ですよ!」

袋を開くと、そこには二人の装備品が入っていた。さらに。

「何か、みえてきました……!」

遠く見える影。

どうやら二人は、一つのクエストを無事乗り越えたようだ。