軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

735.レンとツバメと大図書館

「広いですね」

ツバメは大図書館の天井の高さに、思わずポカンとしてしまう。

「ここはここでまた色んなクエストがあったりするんでしょうね。この中から本一冊を探すのは大変だわ」

歴史を感じさせる図書館は天井も高ければ、書架もまた高い。

木製の移動式ハシゴは消防車の物のように長く、現実ではなかなか見られない光景だ。

そして内部にはやはり、眼鏡をかけた知的な雰囲気のNPCが多い。

「まずは受付に手紙を見せに行きましょう」

「はい」

二人が受付の女性司書に手紙を渡すと、案内されたのは並んだ研究室の一つ。

「失礼します」

ノックしてドアを開くと、中では一人の少女が、大量に本が重ねられた室内で何やら勉強の最中だった。

白く長い髪はくるくるのふわふわ、赤いフチのメガネがよく目立つ。

高校の制服じみた服装に、短いマントを羽織った小柄な少女だ。

胸元の研究者用ネームプレートには『リャオル』と明記されている。

「むむ、キミは……?」

手を止め、余り抑揚のない静かな声で問う。

「植物学者トミーの紹介で来たの。この毒を浄化する方法が欲しくて」

レンがビンに詰めたピンクの毒を取り出すと、赤メガネのリャオルはすぐさまビンを奪い取り、ライトに当てて興味深そうに見つめる。

「ほっほう、これは初めて見た。どこでこの毒素を手に入れた?」

「フローリスにあった変な装置からよ」

「なるほど……装置ね……」

少し考えるようにした後、うなずいた。

「見た限り解毒自体は不可能ではないはずだ。ただ、専用の書から得られる情報が必要になる。そしてその本がある場所には私でも早々入れない。事前に申請し許可を待ち、守衛を連れていかないといけなくてね」

「そんなに待てないんだけど」

「……一応、それ以外の入り方もある。ただ本を探すのは自力になるね。蔵書の量はもちろんだけど、ガーゴイルが守る区域だ。捕まったらしばらく拘束されてしまうだろう」

「時間を奪いにくるわけね」

失敗すれば、老人の死に復興が間に合わない。

もしくはピンクの毒を残したまま、『兵器』を回収に来た者たちとぶつかることになるのだろう。

「急ぎの用事、みたいだね」

リャオルは赤いメガネをクイっとさせた後、静かに告げる。

「地下3階の奥にある『1288』の書架の右端は背面が穴になっていて、実はこっそり潜り込むことができるよ……行くのかい?」

「もちろんです」

「それなら、解毒薬作りの用意だけはしておくよ。この毒素……なかなか恐ろしい感じがするからね」

「よろしくお願いします」

「これを持って行くといい。このパスがあれば、地下三階までは自由に行き来できる」

「ありがとう」

「なくさないでね。それがないと僕みたいな髪ボサ系は、すぐ警備に捕まっちゃうんだ」

目立つ赤いメガネをしているのに、警備に覚えてもらえない。

そんなリャオルにちょっと共感しながら職員用のパスを受け取ったツバメは、レンと共に地下階へと降りる専用階段へ向かう。

「僕はC研究棟で準備をしてる。本が回収できたら来るといい。おそらく『X23AB』を目指せば目的の書に近づくはずだ」

そう言って去っていくリャオル。

厚い扉で区切られた階段の前には、見るからに強そうな警備の剣士。

パスを見せると扉に手を乗せ、魔法陣を発動。

扉を開く。

「でも、この振り分けは正解だったわね」

「はい」

メイは別格として、ツバメの戦闘スタイルは『大型の敵』を出しづらいこの場所によく合う。

また敵の攻撃や移動範囲が制限されるのなら、レンも戦いやすい。

二人はそのまま地下三階へ。

剣士が扉を締めれば、また二人だけだ。

地下三階は薄暗く、どこかひんやりとした空気。

何かの本を探しに来たのであろう研究者たちの目を気にしながら、最奥の1288書架へ。

「一見ただの書架ですね」

大きな書架には大判の書物が並び、一見そこに何かがあるようには見えない。

しかし二人が本を抜いていくと、そこには小さな扉。

壁に作られた小さな扉を開くと、不思議な空間が広がっていた。

「すごい……」

「ドキドキしますね」

とにかく高く広大なその空間。

そこには高さも向きもバラバラの巨大な本棚が、無数に置かれている。

暗く、照明は各所に置かれた篝火のみ。

落ちれば落下ダメージ死もあり得る絶妙な高さだ。

ツバメたちが出た先は、壁際に置かれた高さ10メートルほどの書架の上だった。

「ガーゴイルです」

念のため、その場にしゃがみ込む二人。

その外見は、青銅製で高さ2メートルほど。

翼を有し、手には槍を持っている。

見渡しのきくこの位置から3体ほど確認できるが、中には位置固定で弓を持っているタイプもいる。

「アクションものではよく見る、高所移動プレイヤーを見つけて矢を打ってくるタイプの敵ね」

二人はガーゴイルの視界に入っていないことを確認し、まずは続く書架の上を進む。

ここからは低い書架に降りていっても良し、高い書架に上がっても良しという流れなのだろう。

二人は『見渡し』を考慮して、上のルートへ向かうことにした。

「【跳躍】」

そして先行のツバメが、上部に位置する書架の天板部に着地したところで――。

「ッ!」

間近にガーゴイルを発見。

「驚きましたが、チャンスです……【加速】」

ガーゴイルは運良くこちらに気づいていなかったが、ツバメが駆け出した瞬間こちらに振り返った。

手にした青銅の剣を、高く振り上げる。

「【リブースト】【アサシンピアス】」

しかし認識されことに気づいたツバメは、速度上げて虚を突いた。

見事な一撃がガーゴイルを突き刺し、一撃打倒。

「音にも反応するみたいね」

音にも敏感となれば、そのやっかいさは急上昇。

緊張感は一気に高まる。しかし。

「【隠密】【忍び足】」

ツバメは姿に加えて音も消して、再び先行。

敵の視線と配置を見回しつつ進む。

「【浮遊】」

レンはツバメから少し遅れる形で、足音を消す。

念のため杖を前に向けた状態で進むのは、即座に攻撃を可能にするためだ。

こうなればもう、二人に隙はなし。

跳躍時の音もしなければ、身体の角度を変えない見張りの相手など余裕だ。

新たに見えたガーゴイルは、弓タイプ。

「【アサシンピアス】」

その視線がこちらに向く前に、弓のガーゴイルを粒子に変えた。

二人はうなずき合い、先を急ぐ。

敵に気づかれていない時の火力を上昇させる【致命の葬刃】も、しっかり活きている。

やはりツバメとレンがこのクエストを選んだことは、正解だったようだ。