軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

733.岐路

「【劇毒】を起こす三種の毒液は、すでに対応する薬剤を冒険者殿が持って来てくれた。街の掃除はかなり楽になるはずじゃ」

「腐食などによって壊れた建物も、前回ほど多くない。毒素を片付けた後ならすぐに改修できるだろう」

再び毒に覆われた街。

それでもビルダ老人とエンリケは、現状は前回ほど悪くないと気合を入れ直す。

「問題は鈍いピンクの毒じゃな。まずはあれを避けつつ他の劇毒を消してしまおう。そしてピンクの毒液を調べ、対応する薬剤を手に入れるという感じでどうじゃろうか」

「また植物型のモンスターが出てきてるし、戦いながらの作業になるわね」

「黒づくめたちとの戦闘がもう一度あると考えても、【劇毒】を引き起こす毒液は邪魔になりますね」

「そうだね! そういうことなら遠くは任せて!」

ここではメイは、自らの機動力でテントから離れた場所の毒素浄化を買って出た。

耳と尻尾の張り具合からも、やる気が伝わってくる。

「それではいきましょう!」

「「おおーっ!」」

「お、おおーっ」

ちょっと遅れて続くまもりにほほ笑んで、メイは走り出す。

「【装備変更】【バンビステップ】! いってきます!」

頭装備を【鹿角】に変えて機動性を向上。

足元に広がる毒液を、軽い身のこなしでこえていく。

「いただきますっ!」

取り出した【原始肉】を力強くかじれば、敵が使う【状態異常攻撃】など取るに足らない目くらましにしかならない。

目前に現れた小型樹木の花が放つ毒液噴射に飛び込み、そのまま突き抜ける。

「【フルスイング】!」

そのまま豪快な振り上げで斬り飛ばす。

すると新たに、メイを囲む形で現れた根の集合体たち。

毒液の滴る根の先で、一斉に刺突を放つ。

「【バンビステップ】!」

しかしほぼ360度から放たれる根の攻撃を、メイは【鹿角】による華麗なステップでかわす。

その足が毒液を踏んでも問題ないのであれば、これくらいは問題なしだ。

毒飛沫を巻き上げながら踏み込む足。

【蒼樹の白剣】を構え、【密林の巫女】を使用する。

「おおきくなーれ! からの【フルスイング】だああああ――――っ!!」

伸びた剣による振り払いは、ド派手なエフェクトと共に根の塊たちを消し飛ばした。

「あれは!」

見えたのは、身体を植物に乗っ取られた狼型のモンスター。

その数は完全にパーティで対応するべき数だ。しかし。

「【装備変更】っ!」

メイは頭装備を【狼耳】に変えて大きく息を吸う。

「ウォオオオオオオ――――ッ!!」

メイの【遠吠え】が、敵の狼型の植物モンスターをまとめて引き寄せる。

敵が一斉に駆けてくるこの状況は、格好の的。

「【ソードバッシュ】だああああ――――っ!!」

見事な引き寄せで一網打尽。

打倒時に炸裂する毒液も、今は関係なし。

濡れた犬のようにブルブル身体を振るうと、すっかり元通りだ。

「いい感じ!」

そして、その存在に気づいて尻尾をピンと立てる。

現れたのは、見たことのない大型の植物モンスター。

一際高く伸びた茎が塔のように集まり、花が咲く。

そして開いた花が、大量の毒花粉を解き放とうとしたその瞬間。

「【ゴリラアーム】! とんでけーっ!」

メイが投じた【王樹のブーメラン】が轟音を鳴らして飛び、塔型の植物モンスターの花を斬り飛ばす。

するとその直後、まるで計ったかのように残った茎部分を爆炎が焼き尽くした。

「レンちゃんだ!」

離れていてもなお見事な連携を決めて笑う二人を前に、塔型のモンスターは焼かれて消えた。

解毒アイテムを使えば、そこはもう毒素を失った安全な土壌。

メイはドンドン【劇毒】を浄化して回る。

「あの塔型、打倒が遅れるとドンドン毒花粉をまき散らすんでしょうね。嫌な敵だわ」

一方、メイと共に塔型植物を焼き尽くしたレンも、テント前に迫る敵に向き合っていた。

「【クイックガード】【地壁の盾】! 盾、盾、盾っ!」

伸び来る無数の根による攻撃を、ひとつ残らず盾で弾く。

ある程度知った攻撃となればもう、まもりの盾が後れを取ることはない。

ビルダ老人たちを狙い、回り込むように飛び込んできた植物狼たちには――。

「【スライディング】!」

根を防いでいるまもりの足元から、ツバメが滑り出してきた。

「【加速】【リブースト】!」

そして一瞬で敵の隙間を駆け抜ける。

「【反転】【瞬剣殺】!」

放つ空刃で植物狼たちを背後から斬り飛ばすと、【低空高速飛行】に【旋回飛行】を組み合わせたレンが軸をズラし、ツバメを避ける形で敵を射線に収める。

「【フリーズブラスト】!」

【ヘクセンナハト】で放つ一撃は、植物狼たちを見事に氷嵐に巻き込んだ。

こうしてテントの周りも、【劇毒】の消去に成功。

「これで後はピンクの毒素だけ。本当に今回は早いわね」

「は、はひっ」

これにはまもりも、ブンブンと大きく首肯する。

「メイもお疲れ様」

「お疲れさまです」

「お、おつかれさまでした」

テント前に戻り、合流したメイと自然にハイタッチ。

「まもりちゃん!」

「は、はひっ」

そして手を上げるか下げたままでいるか迷わせていたまもりにも、メイが呼びかけハイタッチ。

「さすが冒険者殿じゃ! この街を最初に作った時も、上手くいかないことが多くてなぁ……皆で力を合わせて乗り切ったものじゃ!」

ビルダ老人はかつてのフローリスを思い出し、うれしそうに笑う。

「さて、次はピンクの毒を浄化に移ろうかの」

「ああ、そうだな」

やはり気味の悪い【劇毒】の溜まりがなくなるだけで、光景はずいぶんと良くなる。

後はピンクの毒の対処を終えれば、また一気に復興を進めることができるだろう。

こうして六人が、テントへと踏み込んだところで――。

「ビルダじいさん?」

エンリケが、困惑の声をあげた。

その声色に、振り返る四人。

ビルダ老人は踏み出した右足から崩れ落ち、そのまま地面に倒れ伏した。

「ちょっと! どうしたの!?」

「ビルダさんっ!」

「……ッ!?」

慌てて駆け寄る四人。

エンリケが伏したビルダ老人を仰向けにすると、その顔は青白くなっていた。

噴き出す汗からも、その状態が異常なことが分かる。

「そうか、フローリスが毒に覆われてからずっと動き続けだった……毒が体内に蓄積していたんだろう」

エンリケは「どうして俺は気づいてやれなかったんだ」と、悲痛な面持ちで言う。

「よ、よし、今すぐ街へ運んで医者に――」

「……ワシは良い」

「おい、何を言うんだ!?」

「街を、フローリスを頼む」

「毒消しではダメなのですか?」

「ここは様々な未知の毒素が入り混じる状態だったからな……そんな中で毎日暮らしていたとなれば……今から毒消しでどうにかなるとは……」

エンリケは毒消し剤を飲ませるが、やはり状態は変わらない。

ビルダ老人は身体を引きずるようにして、持ち込んでいた深いイスに腰を下ろす。

「エンリケ。せめて最後はここで、フローリスを見せてくれ。それで十分じゃ」

「……おい、ウソだろ」

すでに体力も怪しいのか、そう言って眠ってしまうビルダ老人を前に、エンリケはヒザを突く。

「……こうなったら少しでも早くピンクの毒を消化して、直っていく街を見せてやりたい。だが……」

「だが、なに?」

「毒素による病を救う方法も、薄い情報だが心当たりはあるんだ……しかしこの病状ではおそらく長くはもたない。そんな可能性の低いものに時間をかけるわけには……」

頭を抱え、悩むように言うエンリケ。

「待って……もしかして、命がかかるタイプのミッションがつくの!?」

「しかも、時間制限が付きそうです」

「どういうことー?」

「街を直すためにピンクの毒を消すクエストとは別に、ビルダ老人を助けるためのクエストがミッションである形なのよ。しかも同時で。毒を消さないと、この後来るであろう敵襲の時に酷い不利を負うことになる。でも毒の消去だけでいくと、ビルダ老人は最高でも、直りゆく街を見ながら息を引き取るっていう形になる」

「え、ええええええ――――っ!!」

「…………」

驚きの声を上げるメイと、驚愕に声を失うまもり。

レンの予想は正解だ。

ピンクの毒は【劇毒】だけでなく、他の状態異常と共に【複合毒】となってしまう。

取り去らずに敵の襲来を待つのは、絶対に避けたいところだ。

しかしビルダ老人を救うのであれば、専用のミッションをこなさなくてはならない。

「ビルダ老人を助けて、なおかつ街の復活も果たすなら、チーム分けをしないといけないのね……」

普通であれば大きなパーティでこのクエストに参加し、ここまで来るのだろう。

しかしメイたちは四人だ。

少人数パーティを、さらに二つに分けることになる。

「でもっ……!」

「はい、やらないわけにはいきません」

間違いなく、四人での攻略など想定されていないクエストとミッションの同時発生。

それでも、狙うのはもちろん両取りだ。

「こっちにはメイがいるんだもの、不可能くらいは可能になるわ。それに今回は、まもりもいるからね」

「は、ははははひっ! ががががんばります!」

今回ばかりは、引くわけにはいかない。

クエストとミッションの同時攻略。

おとずれた危機に、まもりもレンの声に必死に応えたのだった。