軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

722.勝負をかけます!

「これが【ディスターアックス】……」

マーちゃんはその造りの異質さに、思わず見とれてしまう。

刃物の武器は基本、金属光沢や使用感の入り方などに夢中になる者が多いが、この武器はどこか工業製品のような趣をしている。

黒のマットな質感に、いくつか空いた真円の穴。

獅子を模した白の紋章だけが飾りだ。

刃の部分だけが銀に輝く外観は、なかなか面白い。

「【ディスターアックス】のランクは【C】ランクですが、コレクション価格は【B】に届きます。ここからはこの斧を元手に上のランクのものをどう得るかになりますね」

マーちゃんはそう言って、いくつかの案を出す。

「足りない分のお金を稼いで上乗せする。また別のCランク級アイテムを二つくらい得て、セットで【A】ランクとの交換を持ち掛ける。もしくはこの【ディスターアックス】を高く売る」

「一番早いのはどれなのでしょうか」

「どの方法もそれなりに時間がかかりますね。確実なのはメイさんに果実を作ってもらって売り続けるというのを繰り返す形ですが……【A】ランクに届かせる金額となると時間もかかる、手持ちのお金を元手にまた掘り出し物を探す方が早いかもしれません。この辺りはもう運の要素ですね」

「なるほど……」

運と聞いて、白目になりながらうなずくツバメ。

「どちらにしろ、そう簡単にはいかない感じですね。やはり【A】ランクは特別なので……」

どうやらこのクエスト、ある程度知識などがないと腰を据えて挑むことになるもののようだ。

フローリス復興クエストは、意外な角度からその難易度の高さを見せつける。

「とりあえず売りには出してみましょうか。価格は『交渉』や『入札』という形式も取れるのが星屑のマーケット、何か起きるかもしれません」

マーちゃんはそう言って歩き出すと、自身の露店へと向かい【ディスターアックス】を『交渉品』として陳列する。

「お店に商品を置くのって、なんだかドキドキするね」

「本当ですね」

露店から少し離れたところで、成り行きを見守るメイたち。

まもりも真剣な面持ちで状況を見守っている。

するとやがて、一人の男が店先で足を止めた。

見た目は魔導士のようだが、装備品がまとまっていて妙にカッコいい。

「それ、『ディスターズ』だね?」

「はい。スキル二つ付きの【ディスターアックス】です」

にこやかに応えるマーちゃん。

男は商品をしっかり確かめ、【真眼】のスキルを発動。

これはバイセルでは割と有名な『化かし武器大量販売事件』以降、偽物を見抜く行為として一つの『当然』となった行為だ。

「……いいね。7000万で買おう」

「良い価格ですが……スキル二つ持ちの商品ですよ」

対してマーちゃんは、笑顔で商人ぶりを発揮する。

「7800ならどうかな?」

「もう一声欲しいところです」

「……そうか」

男は悩む。

そして覚悟を決めるように息をついた。

「分かった。8500出そう」

こうして価格は、本来の【ディスターアックス】からは十分に『おいしい』価格となった。

まだ【A】ランクの【浄化剤】との交換には1500万ほどの開きがあるが、見事な交渉と言えるだろう。

早々簡単に購入者が現れない価格帯の商品。

ここで売れ残ってしまうと、後悔が残りそうな状況でもあるのが難しい。

「それ、ディスターズね」

悩むマーちゃん。

そんな中、まるで『他人かのように』問いかけたのはレン。

マーちゃんはすぐ、その意図に気づく。

これは『ライバル登場』の演出だ。

「少し見せてもらえる?」

「どうぞ」

「ふーん。スキルは【海王斬り】【大地裂衝】の二つ。水場で使える上に、【大地裂衝】は高速突撃からの振り降ろしだから移動にも使える。さらに15の【腕力】上げまで。一度斧の使い手が買ったら、もうメイン武器として使い続けられてしまうでしょうね」

他に所持者がいない【ヘクセンナハト】を、レンはこれ見よがしに男の視界に入れながら勝負をかけにいく。

「そうなったらもう、市場には出てこない可能性が高い。9000万でどう?」

「待ってくれ!」

レンが仕掛けた勝負に、男が動く。

「……1億だ! それなら文句ないだろう!」

「もちろんです! 商談成立!」

男は【ディスターアックス】を手に取ると、安堵の息をつく。

その顔は「使い込んでしまった」と「手に入れた!」の二つの表情が入り混じっている。

「レンさん、よく攻めましたね」

男が立ち去った後、マーちゃんが感嘆の声をあげた。

「前に言ってたでしょう? 欲しいものに糸目はつけない者もいるって。魔導士だから分かるんだけど、今のお客さんは魔導士としての装備品がどれも超がつくほど高級だった。とても斧を使うタイプじゃないのよ」

「なるほど! 使用武器として買うつもりなのではなく、『ディスターズ』のコレクターだと踏んだのですね!」

「……すごい」

これにはじっと様子をうかがっていたまもりも、思わずつぶやく。

「三回目のつり上げだし、「それなら要らない」って言われそうで怖かったけどね」

「ですがやはり、コレクターはこういう展開にどうしても弱い……お見事でした!」

「さあこれで目標には到達したわ。【浄化剤】と交換しに行きましょう!」

五人はさっそく豪商トレーダのもとに向かう。

「素人に【A】ランクは難しいだろうけど、つまらない交渉には応じないよ」

メイたちに気づき、そう言って余裕の笑みを見せるトレーダ。

しかしレンはそのまま目前に踏み出し、トレーダの前に立つ。

「1億持ってきたわ。これで買い取らせてくれるんでしょう?」

「へえ……これは驚いた」

支払いを受けて、トレーダは感嘆の息をつく。

「いいだろう。【浄化剤】は君たちに譲ろう」

指を鳴らすと、部下の商人が【浄化剤】の入った宝箱を持ってやってきた。さらに。

「実は今、少しだが【女神の涙】の価格が下がったところでね。オマケと言ってはなんだが、これを付けさせてもらうよ」

【可変の鍵】:自由自在に形を変えて、錠を開く不思議な鍵。消耗品。

差額分という体で手に入れたのは、なかなか高額であろうアイテム。

「なるほどね、前のクエストと続きものになっているのかしら」

ドワーフにもらった空かない箱も、レンはこの鍵があれば開くと予想する。

「でも、まずは先に王都に戻りましょうか」

無事入手した【浄化剤】

あとは植物学者に増産を任せるだけでいい。

「マーちゃんさん! ありがとうございましたっ!」

「あ、ああありがとうございますっ」

メイが元気に頭を下げると、まもりも続けて頭を下げる。

「この街にいてくれて良かったわ」

「助けていただきました」

「いえいえ、今回もまたすごい展開を見せてもらいました! こんな早さで【A】ランク商品を手に入れる。やはりメイさんたちはとても面白いです! 今後ともごひいきに!」

そう言って、メイたちとフリーマーケットを駆け回る中で見つけた好商品の買い付けに向かうマーちゃんと、手を振り合って別れる。

新たな解毒用アイテムを手に入れた四人は、そのまま王都ロマリアへ戻ることにした。