軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

669.運試しです

「レンちゃんすごかったねー」

「はい、お見事でした」

遠距離的当て対決を楽しんだメイたちは、涙目補習のグラムを「回収に向かう」ローランたちと別れて再び会場内を進む。

海側に当たる街の南東部へ進むと、そこには広場がありたくさんの壁が突き立っていた。

高さ約2メートル半、横幅は5メートルほどの白壁が各8枚ずつ縦に並び、その表面には二つの枠が描かれている。

「これは……何でしょうか」

「よくぞ聞いていただきました!」

どうやら今から始まるアトラクションらしく、運営の青年が意気揚々と説明を始める。

「これは8つの壁を破って突き進み、どちらが先にゴールにたどり着けるかという対戦ゲームとなっております! もちろん勝者にはポイントが加算されますよ!」

「またずいぶんとシンプルね」

「ハードル走みたいな感じなのかな?」

「そうではありません。実は壁に描かれた2つの枠、突き破るとその先は『道』か『泥沼』の2択となっております!」

「おおーっ!」

「バラエティ番組で見たことあるやつね」

「8枚の壁を突き破り、先にゴールに着けば勝ち。もちろん泥沼の方は移動速度が大幅に遅くなります。当たりを8回連続で選べば、間違いなく勝利できますよ!」

「全部連続で当たりを引ける確率は1/256ですね」

このゲームは、歴が浅いプレイヤーでも運が良ければ勝てる設定になっているのだろう。

そのうえ『おかしな展開が見られそう』で、早くもプレイヤーたちが集まってくる。

「どうですか、メイさんたち!」

もはや運営にメイたちを知らない者はほとんどいない。

当たり前のように誘いをかけてくる。

「――――私がいきます」

名乗りを上げたのは、ツバメだった。

「……ツバメ、大丈夫?」

流れ的にはどう考えてもツバメだが、運勢的にはどう考えてもツバメじゃない。

そんなことを思いながら、一声かけるレン。

「もちろんです。私はこの『運勢』という壁に挑まなくてはならないのです!」

燃えているが白目という、不思議な状態のツバメに気圧されてゲーム参加を決める。

「ツバメちゃん! がんばってね!」

メイはツバメの手を握って、大きくうなずいてみせる。

「あ、ありがとうございますっ。こんなに良いことがあったのですから、今ならいけるに違いありません! いいことポイントはまだ少ないですが、立ち向かいます!」

「それまだやってるの……?」

レンが驚いていると、運営がやってきた。

「それでは、壁抜けレースを始めます」

並ぶ2つのコース。

その右側を選び、スタートラインにつくツバメ。

対戦相手は、運営の青年だ。

そして目の前には各コース、8枚の壁が待っている。

「よーい……スタート!」

「【加速】!」

いきなり飛び出したツバメ。

目の前の壁にある二つの枠から右側を選び、全身を使って飛び込む。

「いきますっ!」

すると壁が紙のように破け、その先にあったのは深さ30センチほどの泥沼。

バッシャー! と、派手に泥が飛び散った。

「ツバメちゃん!」

「左が正解でしたか! ですが勝負は始まったばかりです【疾風迅雷】!」

早くも泥だらけのツバメ。

一方運営は見事に正解の枠を選び、順調に道を駆け進む。

そしてたどり着く、二つ目の壁。

「もう一度、右でいきますっ!」

バッシャ――ン!! と、再び派手に泥が散る。

「ツバメちゃんっ!」

「またも左が正解でしたか! ですがまだまだっ! 【疾風迅雷】!」

続けざまに正解を選んだ運営に、早くも付けられた差。

ツバメはすぐさま立ち上がり、再び前進。

「ここまで2度連続で『右』に泥沼! 次は左に沼がくるはずなので、もう一度右で間違いありませんっ! はあっ!」

バッシャアアア――――ンッ!!

「ツバメちゃ――ん!」

「まだまだ! 【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】!」

運営の掌でこれでもかというくらい転がされるツバメ。

不屈の闘志で立ち上がる。

「さすがにもう右には来ないでしょう! 4度目の正直! 私は右に飛び込みます!」

バッシャアアアア――――ンッ!!

「ツバメちゃあああ――ん!」

「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】【リブースト】!」

移動速度が大幅に下がる泥沼を、ツバメは『最高速』で必死に駆け抜ける。

「さ、さすがにどう考えても5回連続はあり得ません! 次こそ、次こそ左に泥沼が来るので、私は右を選びますっ!」

「ツバメちゃああああ――ん!」

「【疾風迅雷】! 【加速】【加速】【加速】【リブースト】ぉぉぉぉ!」

それでもツバメは立ち上がる。

「ろ、6回連続……いくらなんでもそんなことが起きるわけがありませんっ! 次こそ、次こそは必ず左に泥沼が来ます! と、見せかけて右ですっ!」

「ツバメちゃああああ――ん!」

「し、【疾風迅雷】! 【加速】【加速】【加速】【リブースト】ぉぉぉぉ!」

もはやほぼ泥のツバメ、それでも駆ける。

「……分かりました。さすがに、いくらなんでも7回連続なんてあるはずがありませんっ! 次こそは絶対必ず左に来ます! だから右……と見せかけて左……からの右です――っ!」

「ツバメちゃあああああ――――んっ!」

「な、何かしらの『操作』をかく乱するための『フェイント』よね……今の」

余りにも不運が続くと『世界に対してフェイントを入れたくなる』という現象に、言葉を失うレン。

「【加速】【リブースト】【跳躍】【エアリアル】!」

だがそれでも、ツバメは決して止まらない。

泥沼を二段ジャンプで跳び越えるという攻略法を考案して、一気に速度を上げる。

「……それなら。それならもう何も言いませんっ! このジグザグ走行で、どちらに入りそうかを混乱させ、私は世界を騙してみせますっ! さらに【分身】で『見た目』でも騙します! 【加速】【リブースト】っ! 決めました! こっちですっ! 世界は私に騙されますっ!」

バッシャアアアアアア――――――ン!!

「ツバメちゃあああああああ――――んっ!!」

「うそでしょ……?」

なんとここでも、分身の飛び込んだ方が正解。

ツバメは今回もしっかり、泥沼に飛び込んだ。

「【加速】【リブースト】【跳躍】【エアリアル】――――ッ!!」

こうしてツバメは、8枚の壁を全て泥沼落ちでクリアした。

「「「あはははははは! あははははははっ!!」」」

一方観客たちはツバメの8連続泥沼落ちという奇跡に、「どうしてそうなるんだよ!」と大笑い。

「逆256分の1だろ!? アサシンちゃん最高かよ!」

「それで勝負には勝つとか、なんだよこの才能! どうなってんだよーっ!」

しかもツバメは【加速】スキルと【跳躍】を見事に織り交ぜることで、運営にタッチの差で勝利していた。

「ま、まさか負けてしまうとは……っ」

それがまた、大きな盛り上がりを呼ぶ。

「ツバメちゃーん! すごーい!」

泥だらけのツバメのもとに、駆けつけてくるレンとメイ。

メイはそのまま、泥だらけのツバメに飛びついた。

「あれで勝つって、本当に面白いわね……」

これまでとは違う、笑いを伴う大きな盛り上がり。

集まったプレイヤー陣は皆、すごく楽しそうだ。

それは前に出るタイプではないが、実は個性を秘めているツバメならではの光景だろう。

「……楽しんでいただけたのなら、悪くないかもしれません」

「あんまり目立たないけど、ツバメって面白いものね」

「うんうんっ」

この盛り上がりの主役になっていたことは恥ずかしいが、ちょっとだけうれしくもある。

ツバメは泥だらけの顔を赤くしながら、かすかに口元を緩めたのだった。