軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

656.看守長ダイン・クルーガー

「うそ……」

思わずつぶやくレン。

「せっかくたどり着いたのに、どうして……」

ネルも呆然としながら、一撃で崩壊した小屋と残る炎を見つめる。

目の前に広がる惨事に、立ち尽くすメイたち。

「くくく、これで忌々しい物証も消えた」

学帽にマント、銀の髪。

胸元に褒章のメダルを付けた灰色のコート。

看守長ダイン・クルーガーは笑う。

「あとはお前らの断末魔をたっぷりと味わうだけだ。ここで『消えた者』はもう誰も探さない。ここはオレの狩り場にして、お前ら薄汚い囚人どもの処刑場となる」

看守長を追い詰めるための証拠が隠されていた小屋は、ドラゴン型のキメラが吐いた炎弾によって燃え落ちていく。

「オレに歯向かったことを、心から後悔させてやらねえとなぁ。キヒヒヒヒ、キヒヒヒヒヒヒ」

「ふざけんじゃねえぞ……!」

笑い続ける看守長に、コゼットは怒りの声を上げる。

「10年間、ただの1日だって忘れたことはなかった。あいつと共に始めた研究は、動物たちを守るためのもの。それを合成獣作りのために寄こせと言ってきたお前の非道。全てを奪い、邪魔な俺たちをアンジェールに投じた日のこと、そして……あいつを牢から連れ出したあの夜のこともだ!」

「くくく、楽しかったぞぉ……あの男を夜の森に放ち、キメラや魔獣に狩りをさせるのはなぁ。お前たちが作り上げた『薬』を使い、できた優良なキメラがそれを作った者を狩る。こんなに楽しいことが他にあるかぁ?」

「……っ」

その言葉に、コゼットは拳を震わせる。

「10年で貴様の態度は変わっていったが……オレは信用などしなかった。やはりそれで正解だったなァ」

コゼットが警戒を解くためにしていた態度の軟化も、疑り深い看守長は信用しなかったようだ。

「錬金術師」

「っ!?」

嫌らしい笑みを浮かべたまま振り返った看守長に、ビクリと身体を震わせるネル。

「だがお前にはまだチャンスがある。お前が手を貸すと誓えば、命だけは助けてやるぞ?」

「……できません! 自白剤なんて、どんな悪用をされるか分かりませんっ!」

「ほう……?」

「それに、私はパトラのもとに帰らなくちゃいけないんです!」

「パトラ? ああ、あの汚ねえ犬のことか。なるほど、それなら選ばせてやろう」

「……選ぶ?」

そう言って看守長は、下卑た笑いをネルへと向けた。

「その汚い犬が、オレのキメラに喰われるのと……」

「っ!」

「キメラになったその犬がお前を食うのと……どっちが好みだァァァァ?」

その言葉に、一瞬で顔を青ざめさせるネル。

「そんなの、絶対に許しませんっ!」

そんな看守長を指さしたのはメイ。

「いいじゃない。ここまで分かりやすい悪者なのは、久しぶりじゃないかしら?」

「はい。今もあの木の下でネルさんの帰りを待つパトラのためにも……絶対に負けられません!」

「お前たちは冒険者だったか? まったくバカだよなぁ、オレの言う事を素直に聞いていれば、死なずに監獄を出られたのによぉ。もう、ただで死ねると思うなよ。冒険者なんかどこでどんな死に方をしたっておかしくねえんだ。野垂れ死んでも誰も疑問に思わねえ……泣いて許しを懇願するまで可愛がってやるよ。もちろん、許す気はねえけどなァ……!」

そう言って看守長は、右手を上げる。

すると背後に控えていた巨竜が、その首をあげた。

「コゼット、お前たちの作った『薬』で生まれたオレの最高傑作だ」

継ぎはぎの黒いドラゴンは、うつろな目に禍々しい赤の輝きを灯す。

「無意味な10年、ご苦労だったなぁ」

そう宣言して、手にした薬を口に放り込む。

すると即座に身体に異変がおとずれ、腕や脚が二回りほど大きく膨らんだ。

「アンジェール大監獄、看守長ダイン・クルーガーが、今から罪人の――――死刑を執行する」

そして煌々と輝き出す、冷酷なブルーの目。

「まずはァァァァ…………お前だァァァァーッ!!」

振り上げた電撃ムチが、突然の伸長。

しかもその狙いはネルだ。

「いきなりネルを狙ってくるの!?」

ボスが防衛対象を直接狙う。

予想外の事態に、慌てて動くツバメ。

そのままネルを抱きかかえて、電撃ムチの一撃を回避する。

続けての狙いはコゼット。

「悪く思わないでよっ!」

防衛対象をいきなり狙うことで、『守りが必要』という意識を植え付けるような攻撃。

レンはほとんど蹴り飛ばすような形で、コゼットを電撃ムチの範囲外へ弾き出す。

「ずいぶんと手荒いこって!」

「【バンビステップ】!」

ツバメとレンが防衛対象コンビを守ったことで、メイが動く。

すると看守長はムチを引き、そのまま大きく一回転。

「【雷迅転回鞭】!」

「【アクロバット】!」

メイの回避は、後衛組への攻撃を止めることに成功。

すると看守長は、小さく左手で合図を送る。

控えていたドラゴンキメラが、その首をわずかに後方にそらした。

「ッ!!」

吐き出される炎弾は、黒い体と対照的な白色。

どうやらその威力は、普通のものよりも上のようだ。

いきなり五連発で放たれた炎弾は一つが直径1メートルほどもあり、さらに炸裂までするという仕様だ。

「とにかく逃げの一手ね!」

「はいっ」

初弾をメイがかわしたことでその仕様を知ったツバメとレンは、ネルとコゼットに注意しつつ回避に専念。

するとここでドラゴンキメラは、大きく息を吸った。

「ブレスが来るよ! 皆わたしの後ろにっ!」

この言葉に、レンとツバメはネルたちを連れてメイの背後に駆け込む。

「いーちゃん、お願いしますっ!」

吐き出された炎は地を駆ける。

しかしメイの肩に現れたいーちゃんが起こす突風が、白のブレスを払ってみせた。

「【フリーズストライク】!」

この隙を突き放つ反撃。

氷砲弾はそのまま、ドラゴンキメラの頭部に一直線で飛んでいく。

「喰らえェェェェ!!」

看守長の叫びに合わせて、開かれる口。

ドラゴンキメラは氷砲弾に喰らいつき、そのまま飲み込んだ。そして。

「……倍で、返すぞ」

吐き出された氷塊弾は元の魔法の『数倍』のサイズ。

「「「ッ!?」」」

まさかの事態に驚くメイたち。

とにかくネルとコゼットを守らなくてはと動き出す。

メイはネルを抱えて地面を転がり、ツバメもコゼットを引きずるような形で【加速】

レンは必死のバックステップから地面に身を投げる。

直後、炸裂する氷の爆発。

えぐられた地面の一部が凍り付き、氷片が舞う。

ひんやりと冷たい空気に、思わず身を震わせるレン。

全員、地を転がることでギリギリの回避に成功した。

「くくくく、どうしたァ? 薄汚い罪人ども」

地に伏せた五人を見下ろして、嫌らしい笑みを浮かべる看守長。

「まだまだ楽しみはこれからだぞ。もっと叫べ、もっと苦しめ、無様な悲鳴でオレを楽しませろ! ヒャーハッハッハ!」

ムチにまばゆいほどの電撃を走らせたまま、笑い狂う。

「……以前見た看守長とは、レベルが違うわ」

「そうですね。しかもその高い攻撃力でネルさんたちを狙ってくる。これは……侮れません」

どうやら看守長ダイン・クルーガーは、この大型クエストの最後に待ち受けるだけの力を持っているようだ。