軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

650.北上します!

「目標は森の北にある小屋、看守長の不正の証拠を回収することね」

友の名誉を守るため、ネルを人質に取る形でミッションを提示してきたコゼット。

メイたちは、森を南西に逃げるだけで良いクエストではなく、敵地をさかのぼる事を選んだ。

「いきましょうっ!」

大監獄と月の位置だけで方角を確定するのは、簡単ではない。

そのうえ深い森のどこかにある小屋を見つけるというのは、あまりに難しい。

それだけ接敵も多くなり、長期戦が必至になるだろう。

「北はこっちですっ!」

しかしメイは【帰巣本能】で的確に行き先を指定。さらに。

「この付近に詳しい方、いらっしゃいませんかーっ!?」

【呼び寄せの号令】をかけるとフクロウたちが木にとまり、ヘビが草の隙間から顔を出し、狼が駆け寄ってきた。

「森の北側にある小屋に、心当たりがありますでしょうかっ?」

問いかけると、動物たちは自然と道を開く。

「ありがとーっ!」

うなずき合ったメイたちは、夜の暗い森の中を一直線に駆け出した。

「きたっ!」

そんなメイたちのもとに駆け込んできたのは、猟犬の一団。

「【バンビステップ】」

速いステップから放つ剣撃で、敵をしっかり捉える。

「【電光石火】!」

その隙間を抜けてきた者には、すぐさまツバメが対応。

新装備【致命の葬刃】の火力もあり、一撃で打倒してみせた。

見事な連携で、猟犬を退けたメイたち。

しかしこの戦いは、新たな大物を呼び寄せる。

「――――見つけたのである」

「「「ッ!?」」」

キラリと光る、丸メガネ。

深くかぶったフードマントの側面には、『Ⅵ』の文字が刻印されている。

魔法の研究のためなら、無知な者を悪魔と契約させ贄にすることもいとわない悪の魔導士。

現れた壮年女性の懲役は、980年。

「牢の中でも速さに挑み続け、完成させた我が魔法。ようやく披露の時である」

「速さに挑む?」

あまり聞かない前口上にレンがわずかに首を傾げたところで、『Ⅵ』は右手を掲げた。

「【拡散閃光】」

「「「ッ!!」」」

放たれる全方位への光弾。

その数は多く、大雑把な回避を許さない。

それでもメイは余裕で、ツバメもしっかり回避する。

一方のレンはギリギリ、ネルの腕を引きながらの回避を成功させた。

コゼットの『隠れ』も、ここでは有効だ。

メイとツバメはすぐに反撃に移ろうとするが、再び『Ⅵ』の手が輝く。

「【拡散閃光】」

「早い!」

しかし即座のリキャストで、すぐさま放つ二発目。

レンは再びネルを抱え、どうにかかすめるだけにとどめる。

一方二度の光弾発射も無事にかわしたメイとツバメ。

今度こそはと動き出すが――。

「【逆渦閃光】」

「今度は、軌道が違います……っ!」

外へ広がる渦を描くような軌道で放たれる、大量の光弾。

メイとツバメはこれを必死にかわすが、レンは諦めてネルをかばいつつ防御。

1割弱のダメージを受けた。

「範囲無差別魔法。でもさすがにこれ以上の連射はできないでしょう!?」

「【ラビットジャンプ】!」

レンが問いかけた時、すでにメイは『Ⅵ』の頭上で剣を振り上げていた。

「【フルスイング】だああああーっ!!」

強烈なエフェクトと共に、放たれる振り降ろし。

「【瞬時跳躍】」

「……あれっ?」

しかし『Ⅵ』はこれを、瞬間移動で回避してみせた。

「――――魔導士たる者、地を転がるような無様な回避は許されないのである」

「……言ってくれるじゃない」

転がりながらの回避を見せたレンに、足を一歩も動かすことなく回避を決めた『Ⅵ』

再び瞬間移動で地に戻ると、右手を掲げる。

「【拡散閃光】、【逆渦閃光】」

「織り交ぜてきた……っ!?」

「【拡散閃光】」

どちらを放ってくるのか分からない上に、速いリキャスト。

レンはまたネルを抱えて、飛び込み回避を試みる。

「確かにいいキャスト速度をしてるわ。それに大罪犯の攻撃がネルにも飛んでくるのは、やっぱりキツイわね!」

合間を縫って踏み込んできたツバメも、瞬間移動で余裕の回避。

その隙は短いため、反撃も挟めない。

「やべえぞ!」

そしてこのクエストの難しさは、大罪犯がボス級の強さを持つにもかかわらず『ボスではない』という点だ。

大罪犯との戦いの中に、普通に飛び込んできた一体の猟犬がコゼットを狙う。

「【電光石火】!」

これをツバメが慌ててフォロー。

「【拡散閃光】」

さらに放たれる『Ⅵ』の魔法。

「ッ!! 」

これを避けたところに駆け込んでくるのは、またも猟犬。

その狙いは後衛組だ。

自慢の移動速度で踏み込み、容赦なく警棒を振り上げる。

「おねがいしますっ!」

そんな中、流れの変化はメイの声から。

森の中に出たことで、こちらも戦い方を変えることが可能となっていた。

「くっ!!」

迫る猟犬の脚に、メイが先ほど呼んだ狼が嚙みつく。

「助かるわ! 【フリーズストライク】!」

動きの速い猟犬も、足を止められては単なる防御力の薄い的となる。

レンの速い反応の一撃を回避することができず、吹き飛ばされて倒れた。

「そーれっ!」

メイはここでさらに【豊樹の種】を投じる。

「大きくなーれ!」

「わっ!?」

「なんだこいつは!?」

伸びた【豊樹の種】は、ネルやコゼットを取り囲む厚い壁となる。

そして一時的とはいえネルたちから目を放してよいのであれば、戦況は一変する。

「【フレアバースト】!」

豊樹の壁で身を隠し、光弾が途切れた瞬間に放つ魔法。

これが『Ⅵ』の大きく手前に着弾し、炎を巻き上げた。

こうなっては『Ⅵ』も、『状況を見極める』態勢を取らざるを得ない。

「うぐっ!!」

突如あがった悲鳴。

それはなんと、完全な回避を見せていた『Ⅵ』のものだ。

爆炎で視界を埋めても、近接攻撃では結局逃げられてしまうだろう。

だからといってレンが【フレアバースト】の硬直切れを待って魔法を放ったのでは遅い。

そんな中、炎によって遮られた視界を活用して効果を発揮したのは、ツバメの【不可視】だ。

見えない【雷ブレード】をくらった『Ⅵ』は、大きく姿勢を崩した。

「――――それではどうぞ、お越しくださーい!」

もちろんこの隙を、メイは逃さない。

空中に現れた魔法陣から出て来たのは、一頭の巨大な白象。

着地と共に、思わずメイたちは小さく跳び上がる。

像はその長い鼻を、砲身のように調整。

放たれた水砲は、そのまま空中の『Ⅵ』に直撃。

弾け散る大量の水滴と共に、地を転がる。

暗い森の中、『Ⅵ』が身体を起こすのと同時に見えたのは一本の【ブレード】

「な……にっ!?」

見事に突き刺さり、さらに硬直時間を取られる。

「【バンビステップ】!」

メイは速い走りからの剣撃で、新たにやって来た猟犬たちを払う。

「【ラビットジャンプ】! おねがいしますっ!」

そしてそのまま空中へ。

「【フリーズバースト】!」

メイの退避と同時に放たれた猛烈な氷嵐が、ようやく硬直が解けたばかりの『Ⅵ』を削りHPをさらに2割ほど減少させた。

とっさの連携も見事に決まり、うなずき合う三人。

密集した木々による守りのおかげで、戦況は一転して余裕を感じさせるものになった。しかし。

「グルルルルルル……」

場所が魔の森になったことで、戦況は目まぐるしく変わる。

木々の影から姿を現したのは、獅子をもとにして作り出されたキメラだった。