軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

641.動き出すアンジェール大監獄

アンジェール大監獄に発せられた緊急事態警報。

メイたちの脱獄はすでに、表ざたになってしまっている。

「こうなっちまった以上、とにかく逃げるしかねえ」

『点呼』時間の変化によって、状況は一変。

新たな追手が、監獄内に放たれてしまった。

「先を急ごう」

五人は木箱の裏からそっと出て、そのまま地下を駆ける。

「『猟犬』というのも、犬型の魔獣なのでしょうか」

「猟犬は犬じゃねえ。とにかく機動力の高い看守で、暴れる強力な囚人を迅速に押さえるために作られた部隊らしい……言ってるそばから来やがった!」

廊下の先に見えたのは、四人組の看守たち。

しかしこれまでの看守とは違い、制服の色は薄いグレー。

ブーツも踵のあたりに、魔法珠が埋め込まれている。

「速い!」

魔力光を足元に散らして走る猟犬たちは、番犬よりもさらに機敏だ。

「【連続魔法】【フリーズボルト】!」

放つ四連発の氷弾。

しかし猟犬たちは、これを避けつつ距離を詰めてくる。

「【電光石火】!」

「【躍空】!」

「かわされた!?」

先頭の猟犬は、【電光石火】を跳躍スキルでかわして進行。

続く二人目が、電流をまとった警棒を振り下ろしてくる。

「っ!」

これを回避すると、三人目の猟犬は壁を蹴った。

【壁蹴り】による跳躍から、そのまま警棒を叩きつけにくる。

「全員が高レベルの回避型前衛のようです!」

これをバックステップでかわして、驚きの声を上げるツバメ。

「しかも攻撃より、『硬直』狙いです……っ!」

広がる電流の見た目は【紫電】を思わせる。

どうやら敵は硬直を奪いにくるタイプのようだ。

「【バンビステップ】!」

ツバメをかわした二人の猟犬はそのまま後衛組を狙いにいくが、メイがそれを許さない。

剣の振り上げから振り払い。

一気に廊下を駆け抜けようとした猟犬二人を、無駄のない動きで一撃打倒。

戦況は一転優勢に変わるが――。

「【急速接近】【水平刃】」

四人目のブーツに付けられた魔法珠が輝く。

メイとツバメの間に一瞬で踏み込んできた猟犬は、警棒を手に一回転の振り払い。

「【アクロバット】!」

「【跳躍】!」

広がる雷光の斬撃に、ジャンプで回避を決める二人。

それは見事な回避だが、跳躍から着地までの時間を三人目の猟犬は見逃さない。

「【急速接近】」

一瞬でレンの目前に踏み込むと、警棒を振り下ろす。

「させないわっ」

レンはこれをバックステップで見事にかわした。しかし。

「うそっ!?」

警棒が突然伸びた。

バックステップ中のレンは予想外の攻撃をかわしきれずに感電、硬直を奪われた。

この隙に、四人目の猟犬が踏み込んでくる。

ここでもコゼットは戦わずに道を開けていたため、猟犬は一直線にネルを狙いにいく。

「っ! 【クリエイト・ウォール】!」

「【躍空】」

ネルは錬金術で壁を作り出し身を守る。

しかし猟犬は展開された岩壁を跳び越え、ネルの後方へ着地。

「【拘束糸】!」

その手に生まれた光の糸で、一瞬で身体を縛り上げる。

「きゃあっ!」

「「「ッ!!」」」

すると身動きの取れなくなったネルを抱え上げ、四人目の猟犬が走り出した。

「このまま連行する!」

「マズっ!!」

駆ける猟犬は、ネルを抱えているにも関わらず速い。

そのうえ逃げる先は、看守たちの本営。

近づけば近づくほど看守が増え、取り戻すことが難しくなってしまう。

「おい! 錬金術師を置いて逃げる判断も必要だ! 大罪犯まで俺たちを追ってきてんだぞ!」

諦めろと告げるコゼット。

「そんなことできませんっ!」

「脱獄をはたらいて捕まったなんてことになれば、看守長に死ぬほど叩かれた上に、刑期も増えちまう! 俺たちだけでも逃げりゃいいんだ!」

「それではダメなんですっ!」

「そういうことっ! 【フリーズストライク】!」

ここでレンは武器を【ヘクセンナハト】に換え、氷砲弾を発射。

範囲を広げた氷結弾の回避はさすがに難しく、三人目の猟犬が弾かれ倒れる。

レンが邪魔者を先んじて打倒したところで、舞い散る氷片の中をツバメが走り出す。

「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】っ!」

その速度は速く、足自慢の猟犬ですら逃げ切れない。

「【水平刃】!」

「ッ!?」

突然の振り返りと共に放つ、警棒の一撃。

ネルを抱えたまま攻撃ができるとは思わなかったツバメは、虚を突かれた。

しかもこの廊下で放たれる水平の一撃は、完全な『足止め』のためのスキルだ。しかし。

「【スライディング】ッ!」

ツバメなら、回避しながら距離を詰めることが可能だ。

「すみません! 少し驚かせてしまうかもしれませんが――――【紫電】!」

「「ッ!!」」

駆け抜ける電流によってヒザを突く看守と、滑り落ちるネル。

ネルにまで電撃を浴びさせてしまうのは悩みどころだったが、背に腹は代えられない。

こうしてツバメ、ネル、猟犬の三者が『止まる』状況が生まれた。

だがツバメは確信している。

一度でも敵の動きを止めてしまえば――。

「【裸足の女神】!」

メイが、この状況を打破してくれる。

「ッ!!」

速度重視型の猟犬ですら、その挙動に一瞬判断が遅れた。

猟犬よりも圧倒的に鋭い踏み込みで跳び込んできたメイは、そのまま剣を振り上げる。

「【フルスイング】だああああーっ!」

「ガッ!!」

天井に激しく打ち付けられた猟犬は、さらに床に叩きつけられ倒れ伏す。

「だいじょうぶですかっ?」

「はっ、はい……! ありがとうございます……っ!」

「こ、今回はヒヤッとしたわね……」

「本当ですね……冷や汗ものでした」

苦笑いのレンとツバメ。

戻ってきたメイと、歓喜のハイタッチ。

「……良かったじゃねえか。だが、同じことが続くようなら俺はもう待たねえぞ。猟犬は何十人もいるらしいからな」

コゼットはそう言って「やれやれ」と首を振る。

「とにかく進みましょう。この状況、モタモタしてたら大変なことになるわ」

猟犬はまだまだ数がいる。

さらに大犯罪者も、メイたちを捕らえるために動いている。

強烈な緊張感の中、五人は再び駆け出したのだった。