軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

639.ツバメさん、スティールのお時間です!

「予想通り、この瞬間が来たわね」

脱獄クエストの中に待ち構えていた【スティール】要素。

それは、装備品奪還のためのものだった。

制限時間はここで、残り5分を切る。

装備品回収のためのカギは、【スティール】で盗まなくてはならないようだ。

「じゅじゅ、準備しておいてよかったです……」

ツバメはここでさっそく【幸運】上げ用に持ってきていた【世界樹の実】を、震えながら使用する。

「無理しなくても大丈夫よ」

レンはそう言って、驚くほど硬くなっているツバメの肩をもむ。

「私たちなら、装備がなくてもコンビネーションでどうにだってできる。そもそもメイがいるだけでどんな武器より強力でしょう?」

「おまかせくださいっ!」

「ここで装備を取り戻せなければ終わりという展開でもない。だから無理する必要もないわ」

「そのとおりですっ!」

ツバメの両手を握って、笑いかけるメイ。

「レンさん、メイさん……ありがとうございます」

するとツバメは、白目のままつぶやく。

「実は最近、日ごろの行いに気を付けているのです……」

「日頃の行い?」

「はい。先日は学校への向かう最中にゴミ拾いまでしてしまいました」

「な、なんのために?」

「良いことポイントのためです」

「よいことぽいんと……?」

「…………」

独自のリアルラック向上方法に、絶句するレン。

「こうしてお二人に勇気づけてもらえて、私は幸せ者です」

ずっと白目のままだったツバメの目に、鋭い光が灯る。

「だからこそ挑み、そして成功させます!」

二人に向け、強くうなずいてみせたツバメ。

【世界樹の実】だけでなく、ここでさらに【幸運】上げの果実も使用。

【強奪のグローブ】を取り出し装着すると、レンは熟練のアサシンの様に音もなく結界看守の前に立つ。

ネルとコゼットも見守る中、右手を真っ直ぐ前に伸ばすと――。

「――――【スティール】!」

クールな面持ちで放つ、盗みのスキル。

見事、失敗。

「こ、この流れで外すのですかっ!?」

すごくいい流れから、しっかり失敗する自分に思わずツッコミを入れる。

「大丈夫だよ、ツバメちゃん!」

「ええ、大丈夫よ。気楽にやりましょう!」

メイがツバメの肩を軽くポンポンと叩く。

残り時間はわずか、メイたちは「大丈夫」とうなずいてみせた。

「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」

「がんばれー、ツバメちゃーんっ!」

拳を振り上げ、応援するメイ。

レンも「大丈夫よ、気楽にね」と繰り返す。

「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」

しかし時間は過ぎていく。

ツバメのこれまでの成功率を考えると、そもそも5分程度での成功など不可能と考える方が普通だ。

「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」

残り時間は1分を切り、30秒を切った。

「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」

そして20秒を切り、ついに10秒を切る。

「【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】【スティール】!」

レンは手を組み、目を閉じる。

挑戦回数はあと、数度が限度だろう。

「【スティール】【スティール】【スティール】ッ!!」

メイはヒザを突いて両手を前に伸ばし、ぺこぺこと雨乞いスタイルで祈り出す。

「もう、時間がありません……っ!」

再び白目を発動したツバメは、強くまぶたを閉じる。

そして、祈りと共にその手を高々と掲げた。

「お願いしますっ! 【スティール】――――ッ!!」

発動するスキル。

すると視界に刻まれていた制限時間が停止した。

ツバメは恐る恐る確認する。

残り時間2秒。

その手には、第三倉庫のカギが確かに握られていた。

「せ、成功しました……!」

「やったー! ツバメちゃんすごーい!!」

「やったわね!!」

力加減も忘れて、全力で抱き着きにいくメイとレン。

「制限時間以内に、スティールを成功させられるとは……っ!」

二人に抱きしめられたまま、ツバメも歓喜の声を上げる。

三人の盛り上がり様はもはや、大会で優勝した運動部。

ツバメを真ん中にして、ぎゅうぎゅうと強く抱きしめ合う。

「それではさっそく、装備を回収しましょう!」

ツバメが意気揚々とカギを開き第三倉庫の中に入ると、そこにはズタ袋に詰められた装備品の数々。

「やっぱり、いつもの格好がしっくりくるわね!」

「これもツバメちゃんのおかげだよーっ!」

ここでついに、いつもの装備に戻ったメイたち。

メイが耳と尻尾を震わせながらツバメに飛びつくと、レンも思わず二人を抱きしめる。

「……っ!」

あらためて強く抱きしめられて、ちょっと恥ずかしくなるツバメ。

しみじみとつぶやく。

「……これからも、良いことポイントは溜めていきましょう」

「それはもう、忘れていいんじゃないかしら」

相変わらずなツバメに、笑うレン。

これにてミッションは無事成功だ。そして。

「……どう思う?」

レンの問いに、誰もが気づいていた『それ』に視線が集まる。

「罠でしょうか、それとも……」

「罠……! ドキドキしちゃうね!」

第三倉庫に置かれた、一つのボックス。

開けた瞬間、予期せぬ展開が始まってしまうかもしれない。

だが、中に良いものが入っている可能性もある。

「【罠解除】……では、反応なしですね」

「でも、この流れで開けずに行く冒険者はいないわよね」

「いないと思いますっ!」

メイも緊張に尻尾をブルブル震わせながらも、興味津々。

三人はうなずき合い、不用意と分かりながらボックスを開く。

「…………」

中には、詰め込まれた無数の本。

そこには一冊のスキルブックが紛れ込んでいた。

【スライディング】:すべり込みが可能になる。距離は任意。また移動時に使用した場合は、その際の速度に依存した速さ・距離になる。

「第三倉庫まで来れば、オマケもつけてくれるってわけね!」

「来てよかったです!」

歓喜の声を上げるツバメ。

全ての持ち物を完璧に回収したメイたちは、新たなスキルと共に先を急ぐのだった。