軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

61.メイと宝珠

「宝珠見ませんでしたかー?」

べったりと地面に伏している犬に、メイは爽やかな笑顔で問いかけた。

すると犬は尻尾で「あっち」と方向を示す。

「ありがとー」

笑顔で手を振るメイに、犬も普通に尻尾を振って応える。

「レンちゃんたちに負けないよう、がんばろう!」

まずは仲間内での競争。

気合いっぱいで駆け出すメイ。

すると視線の先の地面に、これ見よがしに斧が刺さっていた。

「斧……なんだろう?」

傾げる首と一緒に、尻尾も傾げる。

さらに進んで行くとそこには、一本の樹。

「宝珠だー!」

街の裏手にある樹の幹。そこに宝珠がのみ込まれかけている。

「んー、さすがに取れないなぁ」

その半分以上を埋め込まれているため、つかみ取ることはできない。

「あっ、もしかして……」

少し戻ると、そこには斧。

そっと手に取ってみる。

【両刃の斧】:アイテムスキル【大木断】を使える斧。使い捨て。

「やっぱり……」

メイは青々とした葉を付けた樹に視線を向ける。

「レンちゃんツバメちゃんが三つ集められなかった時のために、宝珠は多い方がいいんだろうけど……樹を伐っちゃうのはなしだよぉ……」

見れば樹の表皮には、数本の傷がある。

子供たちがここで身長を計っているのだろう。

「うん?」

ととと、とメイの足元に駆けて来たのはリス。

リスは木を駆け上がり、うろに作った家の中へ。

そしてさらに、枝の上には鳥の巣と雛たち。

三匹の雛が「……ぴよ」と鳴き始める。

「こ、こんなのもう絶対伐れないよー!」

そう言って頭を抱える。

「でも、このまま置いて行っても誰かに伐られちゃったりするよね……」

メイが見逃しても、結局伐られてしまうのでは意味がない。

「でもでも、ここで樹を守ってたら今度は宝珠が探せないし、皆との約束が守れない。それにレンちゃんとかツバメちゃんの宝珠がちょうど一個だけ足りないなんてこともあるかもしれない……っ」

頭を振りながら「それでもやっぱり伐れないよー!」と叫ぶメイ。

その視線が、とまる。

そこには「こちらもどうぞ」とばかりに起こされているたき火。

「伐れないなら焼けってことー!?」

子供たちの成長の記録を消し、リスから家を奪い、鳥の雛を焼かなければ取れない宝珠。

まさに、怒涛の精神攻撃。

「やめておきますっ!」

メイは持っていた斧を近くの茂みに隠し、炎も土をかけて消火。

「これでよしっ!」

全てを、なかったことにした。

「それにレンちゃんツバメちゃんなら、きっと普通に三つ集めちゃうよね! もし足りなくたって一緒に探せばいいんだからっ!」

こぶしを握って、気合を入れ直すメイ。

するとそんなメイを見ていたリスが、巣から何かを放り出した。

「ん?」

思わず受け取めるメイ。その手に落ちて来たのは――。

「……赤の宝珠だ」

メイは尻尾をブルブルと震わせる。

しかもあらためて確認してみると、木に埋まってるのは宝珠ではなくガラス玉。

「い、いじわるー!」

とんでもない苦悩のクエストに、思わず一人抗議する。

「でも、無事に済んでよかった。皆またねー」

メイは木の幹にぽんぽんと手で振れると、リスや雛たちにも手を振り歩き出した。

「もし樹を伐ってたら、宝珠ももらえてなかったのかな……」

そんなの立ち直れないよぉ……と、恐ろしい想像に身を震わせながら歩くメイ。

「ようやく、故郷に帰って来られた……」

そこに現れたのは、ボロボロの探検家NPC。

「結局、長い冒険生活で手に入れられた宝はこれだけか……」

そう言って、胸元から取り出したのが――宝珠。

「わあ! 見えてない見えてない! 何にも見えていませーん!」

今度は『あの冒険家から宝珠を取り上げるか否か』を迫られるに違いない。

そう予想して、慌てて逃げ出すメイ。

「うわああああーっ!」

「……こ、今度はなんだろう」

【聴覚向上】が捉えたのは、悲鳴。

「どうか、普通のクエストでお願いします……っ」

メイはそう祈りながら、音のした方へ恐る恐る足を伸ばす。

そこには重装備の甲冑NPCによって、倒されたプレイヤーたちの姿。

そして甲冑は、首から黄色の宝珠を提げていた。

分かりやすい、戦闘系のクエストだ。

「ま、待ってました! こういうのだったら負けないよー!」

メイは弾けるような笑顔で駆け出していく。

「……おいおい、大丈夫かあの子」

「いやぁ、知らないんだろうな。あの甲冑の強さ」

倒れ伏しているプレイヤーたちを傍観していた二人の剣士が、「かわいそうに」と息をつく。

甲冑の放つ振り下ろし。

「よっと!」

そんな甲冑の早い一撃を、メイは足を引くだけでかわす。

地面に走る亀裂。

どうやら、当たれば即死級の威力を持っているようだ。

その高すぎる攻撃力から、すぐに『回避力』を試すクエストNPCなのだと判断できる。

しかしメイは、そんな常識など知らない。

大きく剣を振り上げた甲冑に、なんと真正面から飛び込んで行ってしまう。

甲冑が、ライトエフェクトを閃かせる。

「あーあ、終わりだな」

「どう考えても回避クエだろ……」

半ば呆れながらメイの敗戦を確信する二人。しかし。

「【装備変更】!」

その黒い猫耳が、雷光宿る【鹿角】へと変わる。

「とつげきー!」

メイは真正面からぶつかりに行く。

その一撃がどれだけ強力でも、タイミングをしっかり合わせた『突撃パリィ』の前には意味がない。

「な、なんだあれ。攻撃を弾いたぞ!?」

共にダメージなしで弾かれ合う両者。

だが立ち直りはもちろん、メイの方が早い。

「もう一回っ! とつげきだあー!」

甲冑は大きく弾き飛ばされ、倒れ込んだ。

「【バンビステップ】!」

さらにメイは【鹿角・尻尾】装備によって強化された足の運びで、一気に距離をつめると――。

「【ラビットジャンプ】!」

大きな跳躍で舞い上がった。

「すげえ、なんだこのスキル……っ」

見たこともないスキルの数々に、思わず夢中になってしまう二人。

「いくよー! 最後は必殺の――っ!」

「ひ、必殺のなんだ……っ?」

「ジャンピング――――!」

「ジャンピングぅぅぅぅ!?」

「【ソードバッシュ】だー!」

「「【ソードバッシュ】かよ!」」

まさかの基礎技に思わず叫んだ二人はしかし、その爆弾のような威力に再び唖然とする。

消し飛んだ甲冑はバラバラになり、宝珠を残して消えた。

「やったあ!」

余裕の勝利。

早くも二つ目の宝珠を手にしたメイはしかし、急に真剣な面持ちで振り返った。

「あ、あのっ」

「……はい?」

「この宝珠、今の甲冑が大切に守り続けてきたお宝とかじゃないですよねっ?」

「違うと……思う」

「よかったぁ」

なぜか心の底から安堵するメイに、今度は困惑させられるプレイヤーたちだった。