軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

539.闇との再会

「それじゃいきましょうか」

土壁を水に変えたことで現れた、新たな道。

錬金術師の研究所を進もうとすると、そこに覚えのある声が聞こえてきた。

「ナイトメアか?」

「違います」

もう反射的に首を振ってしまうレン。

振り返ると、仕掛けの廊下にやって来たのはリズと雨涙の二人だった。

「やはりナイトメアだ」

「……二人はどうしてここに?」

「我々は聖女からの依頼で、錬金術師の研究成果を持ち帰るよう言われている」

「――それが悪魔の復活を阻止することになるとのことです」

「私たちも同じよ。ただクエストの依頼は神官からだけど」

「目的を同じくしているということか。さすがナイトメア、違う切り口から見事にアルティシア救済につなげてきたな」

「切り口を見つけたのは、いつも通りメイなんだけどね」

合流した五人は土壁だった部分をくぐり、続く道へと進む。

「――うっ」

そんな中、雨涙だけがゴン! と、壁の上部に笠ごと頭をぶつけて若干の衝突ダメージを受ける。

「大丈夫ですか?」

「――問題ない」

そう言いながら、抜ける床に足を突っ込み転倒。

立ち上がった際に発動させた罠から飛来した矢が、肩に突き刺さった。

「だ、大丈夫ですか?」

「――問題ない。これで危険な罠を三つ解除した」

「と、とても前向きです……っ」

「頭をぶつけた壁は罠じゃないわよ」

それでもクールな表情を崩さない雨涙と共に進み、短い隠し廊下を抜けてたどり着いたのは、大きな魔法陣の描かれた部屋。

暗く薄汚れた部屋にかすれた赤い魔法陣という状況は、なかなかに恐ろしい。

「リズ、大丈夫?」

「このような仕掛けに恐怖を覚えたりはしない。そのような感情、とうに失っている」

レンの問いに、これまたクールに応える黒神リズ・レクイエム。

「ふーん」

「おおーっ、かっこいい……!」

メイがそう言って尻尾をブンブンさせると、魔法陣が鈍い光を放ち出した。

「ッ!!」

そしてリズがしっかりとレンの背後に隠れたところで、足元から一斉に霊の手が伸び出してくる。

つかまれると、どんどん陣の中に引きずり込まれていく。

「気を付けて! このまま引き込まれると多分死に戻りになるわ!」

「ええっ!?」

その言葉を聞いて、慌てて駆け出すメイたち。

しかし霊の手は力強く、なかなか前に進めない。

「【加速】! 移動スキルもほとんど作用しません! 急ぎましょう……っ!」

「そういうことなら、これでどうっ!?」

レンが取り出した聖水を振りまくと、予想通り霊の手が離れる。

しかし乾く速度は『水濡れ』と同じ。

あっという間に効果を失っていく。さらに。

「なにっ!?」

次の廊下へと続く扉が開き、『ゴースト』たちが流れ込んできた。

「めめめ目覚めろ【暗夜剣】っ!! く、くるなっ! 悪霊どもォォォォ――っ!!」

レクイエムは慌てて取り出した剣を、ゴースト目がけてブンブン振り回す。

「メイ、ツバメ! 聖水で一時的に悪霊を払えるから使ってみて! 雨涙たちは持ってきてないの!?」

「――聖女ルートでは、まだ出てきていない」

雨涙、床に沈みながらもクール。

「そういうことならっ! 【ファイアウォール】!」

物理無効のゴースト相手に、ひたすら剣を振り回すレクイエム。

レンは二人の間近に【ファイアウォール】を設置した。

「ダメージ覚悟で【ファイアウォール】に突っ込んで! 後はそのまま駆け抜けるだけでいいわ!」

「【バンビステップ】!」

「【加速】【リブースト】!」

メイとツバメは【聖水】で作った隙間に高速移動を使用し、一気に駆け抜ける。

「ゆ、ゆくぞ雨涙! 【暗衝】!」

「――承知しました【早駆け】」

レクイエムと雨涙は炎の壁に突っ込み、悪霊の手とゴーストを振り払う。

「「くっ!」」

炎によってHPを削る形になったが、そのまま続く廊下へ転がり出ることに成功した。

すぐさまツバメがドアを閉め、悪霊の部屋を脱出。

大の字になって転がっていた黒の鎧騎士は、ゆっくりと立ち上がる。

「……こ、この程度の試練、問題ではない」

「変わってないわねぇ……」

そんなレクイエムの姿に、苦笑いのレン。

廊下の先にあったのは、またもドアだった。

「それじゃ進みましょうか」

「レンちゃんっ!」

「レンさん!」

「…………」

いつも通り、メイとツバメがレンの腕を取る。

「ちょっと待って、リズは前に出なさいよ。HPが高いうえに防御型の前衛なんだから」

「…………」

「なんか言いなさいよ」

レンの後ろから一歩たりとも動かないリズに、さすがに笑ってしまう。

「一応二人も【聖水】を持っておいて」

そう言って手持ちの【聖水】を分けてから、レンは先頭に立ってドアを開ける。

出た先は、特に異変のない石作りの広間。

しかし五人がその中心まで進んだところで、突然全てのドアが閉じられた。

「「「ッ!?」」」

直後、部屋を埋め尽くすほどのゾンビたちが一斉に地面から這い上がる。

「――――ッ!!」

声にならない声をあげながら、【暗夜剣】をブンブン振り回し出すレクイエム。

「この罠のパターンは、もう知っています【加速】」

ツバメは壁に描かれた魔法陣に駆けつけ【聖水】を振りかける。

「ッ!?」

消滅する魔法陣。

すると他の陣が一斉に反応し、さらにゾンビの数が増えた。

それを見てレクイエムは、いよいよバーサーカーのように剣を振り回し出す。

「【魔力剣】! 向こうも仕掛けを『知られている』ことを踏まえた上で、罠を仕掛けてきたってことね!」

「――レクイエム、今助けます」

暴れるレクイエムを落ち着かせるため、雨涙は【聖水】をゾンビたちに振りまきにいき――。

「――あ」

間違えてレクイエム本人にぶっかける。

「レンちゃん、天井にも鈍く光ってる魔法陣があるよ!」

「それだわ! メイ、聖水を陣に投げてみて!」

「りょうかいですっ! それーっ!」

メイの高い【技量】なら、単純な放り投げも的を外さない。

聖水は天井の魔法陣にぶつかり粉砕。

飛沫をあげて魔法陣をかき消した。

するとそれに合わせて、ゾンビたちも崩れて消えていく。

「お見事でした。メイさんの注意力とレンさんの判断はここでも有効ですね」

「リズたちは大丈夫?」

「当然だ……まったく準備運動にも、にゃ、ならなかったな」

「噛んでるわよ」

「――問題ありません」

「噛まれてるわよ」

雨涙に噛みついているゾンビを杖で叩き飛ばし、今度こそレンは息をつく。

厳つい黒の鎧を全身にまとった黒騎士が、ドキドキしながらレンの背中で縮こまっている状況はやはり面白い。

「無事にトラップを切り抜けることができました」

ゾンビ部屋を後にする五人。

先を行くレンの背中に飛びついてきたメイが問いかける。

「レンちゃんには怖いものってあるの?」

するとレンはほとんど考えることもなく、笑顔でメイの方に振り返った。

「――――もちろん過去よ」

不意に以前の事を思い出して「……っ!」となる瞬間だけは、今もどうにもならないようだ。