作品タイトル不明
396.真夜中の逃走劇!
「どうしようー?」
魔法獅子との戦いを諦め、退避を狙うメイたち。
しかし旧研究塔の5階には、すでにガーゴイル像が集まって来ていた。
「わたしがガーゴイル像を引き付けます! 【装備変更】っ!」
するとメイの頭装備が【猫耳】から【狼耳】へと変わる。
濃いグレーから白へと変わっていく尾は、長く美しい。
そしてレンとツバメは、すぐにメイの意図を理解した。
「いきますっ! ウォオオオオオオ――――ッ!!」
響き渡るメイの【遠吠え】
このスキルは、広い範囲の『ターゲット』を自分一人に集中させるスキルだ。
フロアにいるガーゴイル像、その全てのターゲットを一人で背負ってメイは走り出す。
「メイっ!」
さっそくメイに集まっていく多量のガーゴイル像に、メルーナは慌てて杖を向ける。
そして何とか助けられないかと、魔法を発動しかけるが――――その動きをピタリ止めた。
「……もしかしてー、私たちが無事逃げ出すことが、今一番メイを助けることになる?」
青バラたちとの勝負で見せた驚異的な移動能力や回避性能を思い出して、ここで考えをあらためる。
「そういうことね!」
そんなメルーナの手をつかみ、大急ぎで駆け出すレン。
ガーゴイル像の狙いはメイだが、目前を通り過ぎる個体の剣をくらってしまえば終わり。
フロアを低空飛行で突き進むガーゴイル像を避けて、三人は逃走を始める。
「【加速】【リブースト】!」
一撃もらえば退学のメルーナをけん引する形で、ツバメが先行。
ガーゴイル像の流れを上手に避けて出口を探す。
「ここに来てですか……っ」
しかしそこにやってきたのは、大量の悪霊たち。
目指しているのはメイだが、触れればダメージとなる以上やっかいなことに変わりはない。
「【紫電】!」
目前に飛んで来た悪霊の一団に放つ雷光で、まとめて動きを止めて駆け抜ける。
「レンさんっ!」
振り返るツバメに、うなずくレン。
目を付けたのは、塔の外周に付けられたテラスだ。
「どうするのー?」
「このまま塔の外へ飛び出すわ!」
「うえっ!?」
ここが山場とばかりに飛んで来る、無数の悪霊たち。
「退きなさい! 【フレアバースト】ーッ!!」
レンは爆炎をぶちかますとメルーナを抱えて炎の中に飛び込み、そのまま塔の外へ飛び出した。
「ひいやぁぁぁぁーっ!! お、落ちるるるーっ!!」
「【浮遊】っ!」
そして塔から距離が取れたのを確認して落下速度を低減し、ふわりと階下へ降りていく。
ツバメも【エアリアル】からの【跳躍】で着地を成功させ、すぐに付近の安全を確認。
一度うなずくことで、レンに合図を送る。
「レン、ツバメ、ありがとー」
着地したメルーナはすぐに塔の方に視線を向けると、目を凝らしてメイの姿を探す。
広く複雑な旧研究塔5階、ガーゴイルや悪霊から無事に逃げ切れるのか。
その目は、これ以上ないほどに真剣だ。
◆
「こっちだよ!」
全てのガーゴイルのターゲットを、一人で奪ったメイは5階フロアを駆ける。
「……これ、面白いかも……っ」
狼装備は、夜になれば大きく【腕力】と【敏捷】を向上してくれる。
何も使わなくとも【鹿角】での【バンビステップ】のような加速感を持ち、それでいて凄まじく小回りが利く。
「うわっと!」
現れたガーゴイルのすくい上げるような剣撃を、低めの跳躍一つでかわす。
これも思った以上に速く、姿勢の制御が楽だ。
やや強引になった跳躍姿勢も、空中で【アクロバット】を使うことなく立て直して着地。
すると曲がり角に差し掛かったところで、後続のガーゴイルが一気に速度を上げてきた。
メイは勢いのままに壁を蹴って曲がると、振り下ろされた剣が壁に突き刺さる。
「すごーいっ!」
壁蹴りのスムーズさは、もはやそれ単体で一つのスキル並み。
着地後の前転による立て直しも、とにかく早い。
さらに常時高速移動は、その都度『移動スキル』を発動する必要がない。
「この感じ、少し違う戦い方もできるようになるかも……っ」
異常なまでの小回りのきき方と、姿勢制御のしやすさからくる四足獣のような動きに、メイは予感を覚える。
そして【遠吠え】の効果で、一気に集まってきた悪霊たちには――。
「がおおおおおお―――――っ!!」
【狼耳】状態での【雄たけび】は、効果に変化あり。
プレイヤーなら、範囲内の全員が『一斉にそちらを向いてしまう』ような形。
それが広い範囲に放たれ、5階フロアのガーゴイルや悪霊たちが一斉に意識を取られた。
メイはこの隙を突き、悪霊たちの間を駆け抜けていく。
「あれ……?」
しかしここで、一つの問題に突き当たる。
「どっちに行けばいいんだろう……」
迷路のような旧研究塔5階。
似たような道の連続に迷ってしまう状況だけは、どうしようもない。
「そうだっ!」
だがメイは、すぐに一つの案を思いついた。
「どなたかいらっしゃいませんかーっ!?」
発動する【呼び寄せの号令】
それは付近にいる動物や魔獣が助けに来てくれるスキル。
夜の魔法学校、旧研究塔の5階。
メイの後方から飛んで来た一羽のフクロウが、そのまま先行して案内役となる。
外へと向かう通路には、切れた魔法灯が暗闇を作り出していた。
あまりに嫌らしい仕掛けだが、メイとフクロウの【夜目】コンビには関係なし。
「それそれそれーっ!」
集まってきたガーゴイルの剣を低空ジャンプで飛び越え、迫る悪霊たちの間をターンですり抜けて、そのままテラスへと駆け込んでいく。
「このまま行きますっ! 【ラビットジャンプ】!」
三体のガーゴイルの攻撃を跳び込み前転でかわし、悪霊の突撃を側方宙返りで回避してテラスへ。
強い踏み切りで、塔の外へと大跳躍。
「ありがとーっ!」
月の浮かぶ夜空。
先行してくれたフクロウに手を振って、帰っていく後ろ姿を見送る。
「よいしょっと!」
そして旧研究塔の一階広場に、見事な着地を決めた。
「てへへ」
完璧な回避で、パーティを助けてみせたメイ。
最後にちょっと落下ダメージを取られて、恥ずかしそうに笑う。
「メイーっ!」
「メルーナちゃん、無事だったんだね!」
「ありがとうー! おかげで無事に出られたー!」
抱き合って歓喜する二人。
メルーナはもう、両足をメイの腰に絡ませて抱き着いている。
「でもビックリしちゃったねぇ。全然ダメージを与えられなかったよ」
ボスとの戦いを思い出し、「どういうことなんだろう」と考えるメイ。
しかし、やって来たレンは笑う。
「でも、おそらく退避で正解よ。教授は『どうしても勝てない化物』って言ってたし」
「どーいうこと?」
「あの部屋にギミックは見つからなかったし、与ダメージ、滞在時間での変化もなかった。だから『順当に戦うと』どうしても勝てない化物ってことなんだと思うわ。意地になって戦闘を続けてたら、大量のガーゴイルに強制帰還させられて、しばらく夜の旧研究塔には進入できなくなってたはず」
「何か別の戦い方があるということでしょうか」
「そういうことね。でないと退却時を狙った敵の配置に意味がないもの」
「そう考えると、これが最高の形ですね」
どんな魔物がいるのか、どんな場所で戦うのかも分かり、今のままではダメージ奪えないということも分かった。
そして何より、全員無事。
「猪突猛進だけじゃなく、一度状況を見極めて引くことで仕切り直すのが正解のクエスト。【知力】重視の魔法学校らしいわ」
ただ戦えばいいだけではない。
どうやらあの化物は、そういうクエストボスのようだ。
「色々と新しい要素も出てきたし、また明日からボス戦の対応を考えていきましょうか」
「りょうかいですっ!」
「はいっ!」
「把握っ!」
魔法学校の夜。
高くそびえる旧研究塔を見上げながら、笑い合う四人。
「メイ、レン、ツバメ……ありがとうー。今、すごく楽しいー!」
「こちらこそですっ!」
「ふふ、メルーナの情報から始まった冒険よ」
「魔法学校、本当に楽しいです」
最後の逃走劇で最高に盛り上がったメイたちは、新たな展開にワクワクしながらログアウト。
この夜メルーナは、興奮でなかなか寝付けなかった。