軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

267.現れた海竜と野生児

「もうもうっ! どうしてこうなっちゃうかなー!」

【氷海大波】によって『凍結』に追い込まれたローチェは、頬をふくらませながら地団太を踏む。

シオールとリズは退避時に黒馬を凍結させてしまったものの、後方へ下がることで事なきを得た。

なーにゃにいたっては、なんとなく近くの陰に入ったら無事だったという運の良さ。

「これは回復を待つしかありませんなぁ」

こうして大きな後退を余儀なくされた四人は、「ぷんすか」と怒るローチェの回復を待つことになった。

「海竜……やっぱり大きな展開が隠れてたわね」

ヴァイキング船の耐久値が半分ほどまで来たところで現れた、巨大な海竜。

放った氷の大波は港湾部を押し流し、大量の先行プレイヤーたちを後退させたうえに、凍結状態にまで追い込んだ。

状況は一気に、参加者不利へと変わってしまった。

「レンさんの予想通りでしたね」

「さすがレンちゃんっ」

海竜についての情報を副官から得ていたレンは、登場と同時に大技が来ることを予想。

前半戦あまり攻めずにいたのも、進むなら「退路を探した方がいい」と注意していたのも、このためだ。

実際建物の上をはじめとした退避場所も、用意はされている。

「でもこれで『大技』の存在とその『回避』に皆の意識が向いたはずだし……そろそろ私たちも進んでみましょうか」

「のぞむところですわ」

「いきましょう」

「りょうかいですっ!」

メイは肩に担いだイカリを、元気よく掲げる。

「光の使徒っていうより海人ね」

そんなメイを囲んでポーズを決める三人に、思わず笑うレン。

先行組のほとんどは、移動速度低下と被ダメージ増大効果を持つ『凍結』によって動きを停めた。

予想外の事態に、残された後方組は恐る恐る歩を進めていく。

「え、【炎砲射撃】っ!」

建物の陰から弓手が矢を放ち、海竜のHPを薄く削った。

だが当然そんな攻撃を、ヴァイキングは放っておかない。

すぐさま、斧による攻撃を仕掛けに行く。

「う、うおおおおーっ!?」

振り下ろされる斧。

冷静な判断ができずにいる弓手は、いい的だ。

「それーっ!」

迫るヴァイキングを吹き飛ばしたのは、メイのイカリ投擲。

砂煙をあげて転がるヴァイキング・リーダーのもとに、白夜が駆け込んでいく。

「【エーテルライズ】!」

レイピアによる連撃から、地面から突き上がる光の飛沫へとつないで見事打倒。

「ないすーっ!」

拳を突き上げるメイに、レイピアを振り払うポーズで応える白夜。

「あ、ありがとう……」

「いえいえどういたしましてっ!」

後方組はこうして、海竜への距離を慎重に縮めていく。しかし。

「待って! 今度は……氷結ブレスがくるわっ!!」

【浮遊】で高い建物の上に陣取っていたレンが、海竜の口元に現れた白い輝きに気づいて叫んだ。

「た、退避だ! 退避しろ――――ッ!!」

参加者たちは、大慌てで後方へ退避。

ヴァイキングたちも一斉に守りの姿勢に入る。

「ほら見ろ! こんなの近づけねえよ!」

「街にはヴァイキングがウロウロ、そのうえ大ボス級の海竜って難易度高えなぁ!」

「シオールたちが戻ってこないと、全滅だろこれは……」

ヴァイキングに加えて、広範囲攻撃の連発。

その容赦のなさに、嘆息する後方組。

猛烈な勢いで収縮していく白色の煙を前に、必死に距離を取る。

そんな中、さらに悲劇は続く。

「お、おいっ! そんなところで何やってんだ!」

視線の先、まだ港湾部に近いところにひょこっと出てきたのは、12、3歳ほどの兄妹パーティ。

「もしかして、道に迷ってたのか……っ」

イベントで訪れた初見の街の中で、迷子になっていたようだ。

「助けには……ダメだ! 今からじゃ間に合わないっ!」

すでに大きく退避したプレイヤーたちが、彼らを連れて戻ることなど不可能だ。

開かれる海竜の口蓋、困惑する兄妹。

これから起こる悲劇に、誰もが目を背ける。

「――――【バンビステップ】」

メイは、一目散に駆け出した。

「お、おいやめろっ! もう無理だ!」

「間に合うわけがない! 吹雪にやられるぞ!」

「無駄死にする気かッ!」

吐き出された、白光の猛吹雪。

それは混じった氷片によって大ダメージまで与えるという、即死級の一撃。

辺り一帯を埋め尽くす白煙が、メイと兄妹をまとめて飲み込んだ。

吹雪に包まれた一帯は即座に氷結し、一瞬にして氷の街となってしまった。

「ああー……」

「やっぱ、シオールたちがいないとダメなのか……」

「こんなの、俺たちだけじゃどうにも……」

最悪の展開に、聞こえてくるため息。

しかし、次の瞬間。

「「「ッ!?」」」

荒れ狂う吹雪が、突然払われた。

氷片がキラキラと降り注ぐ中、バサバサと大きく揺れる毛皮のマント。

「「え……?」」

自身が助かったことに、兄妹は驚きの声を上げる。

目前には仁王立ちのメイ。

そして誰一人、ダメージはなし。

奇跡のような光景に、兄妹はただただ硬直する。

「お、おい! あぶないぞっ!!」

「早く逃げろーっ!!」

聞こえてくる後方組の叫び声。

海竜は、困惑している兄妹に目を付けた。

大きな身体を持ち上げて、港湾部の端に前足を乗りあげる。

そしていまだ動けずにいる兄妹を狙って、猛然と喰らい付きにいく。

「【ラビットジャンプ】」

プレイヤーの後退により、人気のなくなった港湾部。

抱き合い、ただ目前の光景に呆然とする兄妹。

メイは建物の屋根に跳び上がると、そのまま縁を蹴って再跳躍。

空中で一回転し、飛び込んできた海竜の頭部に向けて――。

「ジャンピング……【ソードバッシュ】だああああ――――っ!!」

荒れ狂う猛烈な衝撃波が、今まさに兄妹プレイヤーに喰いつこうとしていた海竜を吹き飛ばす。

港湾部に凄まじい破砕音を響かせながら転がった海竜は、そのまま大きなしぶきを上げて氷海へ逆戻り。

「「…………」」

もはや言葉も出ない兄妹。

するとメイは、笑顔で振り返った。

「ぶじでよかったーっ!」

やったー! とうれしそうに飛び跳ねる。

誰もが、目前の奇跡に目を奪われる状況。

「すげー……」と合唱のようにつぶやく目撃者たち。そんな中で。

「【ソードバッシュ】……?」

基礎スキルの異常威力に気づいたプレイヤーが、疑問の声をあげた。

「ちょっと待て、今【ソードバッシュ】って言ったよな?」

「【ソードバッシュ】があの威力って……」

そして一部の参加者たちが、おかしな威力の基礎技というワードから該当者をはじき出す。

「…………メイちゃん?」

「ギクッ!」と、分かりやすく声が出てしまうメイ。

「これ、メイちゃんだろ!」

「間違いない! あの毛皮の子、メイちゃんだ!」

「メイちゃんだろ!? メイちゃんなんだろっ!?」

「「「メイちゃんなんだよなーっ!?」」」

メイを知るプレイヤーたちの、一斉の問いかけ。

「あ……ええと……はい。メイです」

メイはフードを外し、ぺこりと頭を下げた。

「「「メイちゃんだぁぁぁぁ――――!!」」」

トップが下がり、多くのパーティが凍結で動けない。

そんな最悪の状況下に登場した、肩までの黒髪がよく似合う正統派美少女。

フードと一緒にちゃっかり毛皮のマントごと外して『野性味』を薄めているメイに、ウェーデンイベントは最高の盛り上がりを迎えた。