作品タイトル不明
240.吹雪の中に生きるもの
「光が見えてきたよ!」
暗闇の洞窟を、三人並んで進んできたメイたち。
迫るモンスターは、【暗視】を持つメイが難なく掃討。
無事、目標の『隠された山間地』にたどり着こうとしていた。
近づいて来る光。
洞窟を抜けると、以前NPC少女を背負って歩いた時に遭遇した吹雪の中だった。
荒れていた風が、穏やかになっていく。
「「……っ」」
レンとツバメは思わず息を飲む。
吹雪の中に見える二つの輝きは、鋭い眼。
にわかに確認できるシルエットは、巨大な四足獣のもの。
「大きな、狼だ」
メイがつぶやく。
吹雪が弱まると、そこには灰色の巨狼がたたずんでいた。
巨狼はメイたちに視線を向けると、大きな遠吠えをあげる。
「狼の荒々しさより、神々しさの演出を優先してるってことは――――」
「かなりの大物ですね」
確認しあったところで、『王雪狼』というネームと共にHPゲージが表示された。
しかし、動かない。
「なるほどね。『お前たちの力を見せてみろ』な感じ、嫌いじゃないわ! 【連続魔法】【ファイアボルト】!」
先手はレン。
小手調べとばかりに放った四つの炎弾が、一直線に王雪狼へと向かう。
これを側転一つでかわしたところに、駆け込むのはツバメ。
「【加速】【リブースト】」
放つ左右のダガーによる二連撃。
これも王雪狼は、両前足を上げることで回避した。
「【ラビットジャンプ】!」
さらにそこへ、メイが高い跳躍で飛びかかる。
「【フルスイング】!」
叩き込みにいく一撃。
王雪狼はなんと、その足下を駆け潜り抜けていく。
「早いわね」
最初の感想は、その体躯に見合わない俊敏性。
着地したメイを狙うのは、振り返り様の爪攻撃だ。
「【バンビステップ】」
これをメイは後方へのステップでかわす。
「っ!」
実際の爪よりも1メートルほど長い『氷の軌跡』が、メイの鼻先を通り過ぎて行った。
これを見てメイは、続く爪撃を15センチほど大きく下がって回避。
すると王雪狼は右前足を高く振り上げて、強く地面に叩きつけた。
メイはこれもかわして踏み出そうとするが、足元の輝きに気づいて停止する。
「うわっとと! 【アクロバット】」
二段階攻撃。
遅れて地面から突き上がった氷槍を、ギリギリのところで回避する。
王雪狼は攻める。
今度は両前足を同時に上げて、地面を踏み付けた。
氷煙が一斉に、足元に広がり出す。
「ッ!! 凍結だわ!」
ダメージがないことに疑問を抱いたレンは、足に張り付く霜のようなものを見て叫び声をあげた。
凍結はその規模によって強弱があるものの、移動を一時的に遅らせつつ、防御も下げるというやっかいな状態異常。
王雪狼はツバメを狙う。
浮かび上がった四つの魔法陣が、同時に青白の氷弾を放つ。
「ッ!! 【跳躍】!」
ツバメはこれを後方への跳躍でかわしにかかるが、凍結による効果でわずかに始動が遅れる。
回避には成功したものの、追撃に来た王雪狼はすでに目前。
その口に現れた氷剣による斬撃が迫る。
「【加速】【リブースト】!」
これを後方への最速移動による回避を狙うが、【凍結】が続けて邪魔をする。
「くうっ!!」
氷剣による一撃が、HPを2割ほど吹き飛ばした。
雪上を転がるツバメ。
追撃に来る王雪狼を狙い、後方に位置取ったレンが杖を掲げる。
「間に合って! 高速【誘導弾】【フレアアロー】!」
魔法や矢による攻撃の際に感じる、早い動きの敵に『合わない』感じがほとんどない。
放たれた炎の矢はレーザーのような速度と軌道で、王雪狼に着弾。
「ありがとうございます……っ」
敵が体勢を崩したところに、復帰したツバメが反撃に向かう。
暖炉に当たってきたことで、凍結の解除は本来よりわずかに早い。
「【加速】【リブースト】【四連剣舞】! 」
ツバメは最速で距離を詰め、四連撃を叩き込んだ。
「【跳躍】! おねがいしますっ!」
そしてそのまま即座に後方へ跳躍。
「おまかせくださいっ! 大きくなーれ! からの【フルスイング】!」
続けざまに放たれたのは、成長した【蒼樹の白剣】による薙ぎ払いだ。
直撃。
見事な連携に弾き飛ばされた王雪狼は、2割ほどHPを失った。
「続けていきますっ!」
「続きます!」
雪を舞いあげながら地をバウンドした王雪狼に、追撃を仕掛けるメイとツバメ。
前衛二人は、敵が四足獣なら攻撃のパターンをある程度予想できる。
そのまま真っすぐに王雪狼のもとに駆けつけ、攻撃に入るが――。
「ウォオオオオオオオオ――――ッ!!」
ビリビリと駆け抜けていく、強烈な【咆哮】
「「ッ!!」」
目前での範囲攻撃に、二人そろって強制硬直。
まさかの事態。
レンも上級魔法による攻撃準備に入っていたため、フォローが間に合わない。
王雪狼は地を駆け、一直線にツバメのもとに。
「ううっ!!」
軌跡を描く爪による一撃に弾き飛ばされ、さらに2割強のダメージを受けた。
王雪狼はさらに追撃に向かう。
「【フレアバースト】!」
ツバメを助けるため、レンが爆炎を放つ。
しかし王雪狼はこれを跳躍一つで回避し、頭を高く上げた。
その口元に閃く、強烈な白の輝き。
風が一点に集まり出していく。
「どう考えても、必殺の吹雪が来ますって流れね……っ!」
慌てて魔法を発動させるレン。
しかし間に合う状況ではない。
放たれた氷雪の嵐は渦を巻き、起き上がり最中のツバメのもとに。
仮にこの一撃から生き残ったとしても、全身の凍結は免れない。
動けなくなったところにとどめの一撃というコンビネーションでくるだろう。
絶体絶命だ。
「ここまで……ですかっ」
目前に迫る氷嵐はもはや、防御でどうにかできる類ではないと、その猛烈なエフェクトが物語る。
早い段階での離脱を覚悟し、ツバメが天を仰ぐ。
「【裸足の女神】っ!!」
聞こえてきた声。
次の瞬間もう一つの風が巻き起こり、迫る氷嵐を吹き飛ばした。
「……っ」
バサバサと、大きく揺れる毛皮のマント。
吹く風に舞い散る雪。
ツバメが目にしたのは、仁王立ち状態のメイの背中だった。
高い威力と凍結という状態異常まで引き起こす氷雪攻撃だが、【王者のマント】にとっては好機以外の何物でもない。
「――――ツバメちゃんは、わたしが守りますっ!」
「メイさん……っ」
「ツバメ! 今よっ!」
完全に呆気に取られていたツバメが、レンの言葉で我に返る。
「ありがとうございます! 【加速】【紫電】!」
直線の高速移動から、即座に王雪狼の動きを止め返す。
「高速【魔砲術】【フレアアロー】!」
レーザーのような速さで飛来した高速の炎矢が突き刺さり炸裂。
さらにそこへ飛び込んで行くのはメイ。
「よっ、はっ、それ!」
剣による三連撃を叩き込んだところで、右手を高く掲げる。
「――――それでは、よろしくお願いいたしますっ!」
雪上に描かれた魔法陣。
そこから昇って来たのは、ボアジャケットを着こんだ巨大クマ。
巨大クマがジャンプすると、御者に扮した子グマがソリに乗って飛び込んでくる。
滑り来るソリに飛び乗った巨大クマは、そのまま真っすぐ王雪狼に特攻。
雪山用のピッケルを手に取って、豪快に飛び上がった。
鈍い輝きを放つピッケル。
放り出して必殺のグレイト・ベアクローを叩き込む。
「ありがとうございましたっ!」
王雪狼の半身が、雪に埋まるほどの一撃。
そのままソリに乗って帰って行く親子クマに、手を振るメイ。
王雪狼の残りHPは、半分に迫るところまできた。
「ウォオオオオオオオオ――――ッ!!」
起き上がった王雪狼は、身体を痺れさせるほどの咆哮をあげる。
すると付近を白く煙らせていた吹雪が、一発で消し飛んだ。
「わあ……」
「きれいです……」
いつの間にか、空は夜。
無数の星と共に輝く満月。
王雪狼の灰色の毛並みが、煌々と白く輝きだした。