軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

236.少女を連れてロッジまで

「ありがとうございます!」

ウェーデンから続く雪の山嶺。

その頂上で一人、降りられなくなっていたのはボアのコートを着たNPC少女。

メイたちと同じくらいの年齢の少女は、【浮遊】を使用したレンに抱えられて、まずは『剣岳』部分から降りてきた。

「よいしょっ」

「ありがとうございます……」

行き同様に帰りも、メイに抱きかかえられて降りてきたツバメは恥ずかしそうに頭を下げる。

「ドキドキだったね!」

「ドキドキでした……」

降りはどうしても足元が見えるため、崖際を降りるのはなかなかのスリルだった。

意味がすれ違っている二人に、レンがほほ笑む。

「それで、あなたはどこに帰るの?」

少女NPCを連れて帰るのがクエスト。

すぐに理解したレンが問いかけた。

「はい、ウェーデンの反対側へ進んだ先のロッジに戻りたいのですが」

今度は突き立った山頂を迂回して、街から離れていくルートを進むことになるようだ。

「レンちゃん、ツバメちゃん」

「まあ当然、邪魔は入るわよね」

山を下っていく途中、その道に現れたのは大きな猫型のモンスター。

その口元には長い牙が二本。

「サーベルタイガーね」

そして少女NPCに現れるHPゲージ。

「ここからは防衛クエストというわけですか」

ツバメがダガーを構える。

サーベルタイガーは少女NPCを狙って動き出す。

立ちふさがったメイに、振り下ろす爪の一撃。

これをかわすと、サーベルタイガーの胸元がわずかにふくらんだ。

「ッ!!」

吹き付けられる強烈な氷風。

それは明らかに少女NPCを狙ったものだ。

凍結時を狙われたら、ひとたまりもない。

『凍結』効果も持つ攻撃は、防衛戦においてはとにかくやっかいだ。

「思ったよりハードなクエストみたいね」

視界を白く埋める氷雪の暴風。

「そうはさせませんっ!」

しかしメイが、まとった【王者のマント】をバサッと振り払うと、巻き起こった風で吹雪が掻き消えた。

舞い散る雪片がキラキラと輝く。

もちろん少女NPCもダメージはなし。

「やっぱりいいアイテムねぇ。少しカッコよすぎるけど」

「はい、格好いいです」

あまりに堂々としたそのポーズ。

振り払うと途端に『野生の王者』感が出ることに、レンはくすくすとほほ笑む。

「せっかくだし、私も試させてもらおうかしら――――高速魔法【フレアアロー】!」

「「ッ!?」」

メイとツバメが同時に驚きの表情を見せる。

ルナイルで手に入れた『魔法速度』の変更スキル。

放った炎の矢は、驚くような速度でサーベルタイガーに直撃。

避ける間も与えずに炸裂し、炎をあげた。

「やっぱり、高速化は【フレアアロー】が一番ね」

楽しそうにしながら、さらにレンは続ける。

「今度は低速で【連続魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」

放たれた四つの炎弾。

その速度は、風に舞う風船ほどだ。

明らかに通常の魔法より遅い。しかし。

その意図をすぐに理解したツバメが動く。

「【加速】【電光石火】」

高速移動からの斬撃。

敵の横をすり抜けたことで、サーベルタイガーが振り返る。

「【加速】」

そして後方へ下がると同時に、ゆっくり飛んできた四つの火炎弾がサーベルタイガーの背に突き刺さった。

「前衛の早い攻撃と、そこに遅れて飛んで来る魔法。対人だとさらに活きそうね」

時間差になる攻撃は、嫌でも両方を意識しなければならない。

【魔砲術】との組み合わせも面白そうだと、レンはワクワクし始める。

「サーベルタイガーは大丈夫そうね。メイはその子を連れて安全圏に退避しておいて」

「りょうかいです! それでは失礼いたしますっ!」

そう応えたメイは、そのままNPC少女を抱きかかえる。

「それでは、いってきますっ!」

そう言ってさっそく『スノーボード』を取り出し、足を乗せた。

「「「……えっ?」」」

意外な展開に驚くレンたちとNPC少女。

「それーっ」

後はそのまま降るのみ。

「少し驚きましたが、今回もNPC防衛は鉄壁のようですね」

メイと一緒にいることが最大の防御。

雪渓の中、メイは並ぶ木々の間を進んで行く。しかし。

「え、ええええ――っ!?」

そこに一斉に顔を出してきたのは、クマのような大きさをした巨大な雪ウサギたち。

少女NPCを狙って、容赦なく飛び掛かってくる。

どうやらレンの言う通り、割とハードなクエストになっているようだ。

「よっと!」

目前に飛び出てきたウサギのラリアットを、しゃがんでかわす。

「それっ! 【アクロバット】!」

飛び掛かってきたウサギは、駒のような横回転ジャンプで回避。

着地と同時に直滑降。そのまま小さな雪の小山を使って跳び上がる。

「失礼いたしますっ!」

新たに出てきたウサギの頭を擦って越える。

こうして見事に巨大雪ウサギの攻勢をかわしたメイ。

「うわあっ、すごーい!」

木々の隙間を抜けた先に待ち受けていたのは、まさかのマンモス。

メイを見つけて、突撃を仕掛けてくる。

その巨体で暴れ来る姿は、迫力十分だ。

しかしメイは速度を上げていき、そのまま真っすぐ滑降。

「いくよーっ! 【ラビットジャンプ】からの【アクロバット】だーっ!」

「わあー!」

少女NPCもさすがに驚きの声をあげる。

メイは暴れマンモスの特攻を、華麗な縦回転ジャンプで飛び越えた。

そのままモンスターたちを置き去りにして、坂の中腹までたどり着く。

振り返るとすでにモンスターたちの姿は小さく、メイを追うのも諦めたようだった。

NPC少女が連れて行かれてしまったことで、途端に一仕事終えた感じで持ち場に戻って行く。

「すごいです! あれだけのモンスターを相手に!」

危機を脱し、歓喜の声をあげるNPC少女。

「ふふ、なんだか別のゲームみたいだったわね」

「さすがメイさん、予想外の攻略法でした」

無事サーベルタイガーを打倒し、レンたちも遅れてやって来た。

本来であれば、少女NPCを守りながら巨大ウサギやマンモス相手に大立ち回りをしなくてはならないクエストなのだろう。

「スノーボードが、さっそく役に立ってくれました!」

メイは原木の一枚板を手に取ると、楽しそうに笑ってみせる。

揺れる毛皮のマント。

その姿は可愛いのにカッコいい。

まさに雪山の野生児と言った感じで、レンは「これ、そのまま広報誌の表紙になりそうね」と笑うのだった。