軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

186.メイとフラグ

『――――ここはわたしに任せて先に行って』

崩れ落ちるグランダリア地下30階に、一人残ったメイ。

追って来たリザードドラゴンを見事に倒し、先行させたレンとツバメのための時間稼ぎにも成功した。

だがこの位置から生きて帰れる段階は、すでに終わっている。

もはや足場らしい足場のない無残な光景を目の当たりにしながら、しかしメイは――。

「みんなのところに帰りましょうっ!」

強い覚悟で「よーし!」と意気込んで、クラウチングスタートの構えを取る。

「…………【野生回帰】!」

そのスキルは防具を全て外してインナー装備になることで、ステータス値を15%向上させる。

腹部の開いたタンクトップとショートパンツに、アクセサリー装備の【鹿角】だけという格好になったメイ。

「よーい……ドン!」

衝撃波を生むほどの勢いで走り出す。

次々に落下してくる石塊を見事にかわし、崩れた岩場を蹴る。

すでに足場の形状をなしていない岩から岩へ、速い足の運びで跳んでいく。

すると目の前に現れたのは、すでに崩れ落ち出している岩たち。

「【バンビステップ】!」

落ち切る前に踏み切って、次々に新たな岩へと跳躍するメイ。

だが足の置ける場所はドンドンなくなっていく。

「ッ!?」

ついに飛び乗った岩が崩れ、落下を開始した。

「【モンキークライム】!」

メイはすでに落ちだしている岩を蹴って次の岩へと進む。

「ッ!」

目前に結晶塊と岩の落下。

落ちてきた結晶塊を受け止めると、続けざまに降ってきた岩を――。

「【フルスイング】からの【フルスイング】ッ!!」

オブジェクト振り回しで打ち飛ばした。

そしてわずかに遅れた分を取り戻すかのように、最後のスキルを発動する。

「いっくよー! 【四足歩行】だぁぁぁぁーッ!!」

その速度はさらに上がる。

落ち出している岩、崩れ出している岩を蹴り、普通に考えれば足場にはなりえない部分を踏み切り、猛烈な崩落の中を駆けていく。

そしてその目に、転移用大型結晶を捉えたところで――。

「せーのっ! 【ラビットジャーンプ】ッ!!」

足元に大穴が開く直前の大跳躍。

着地と同時に受け身の前転を決め、大型の転移結晶にタッチ。

輝く緑の光。

メイは最後の崩落を駆け抜け、見事グランダリア大洞窟30階からの脱出を果たした。

「レンちゃん! ツバメちゃん!」

大型の転移結晶でたどり着いた先は、グランダリアの入り口から数十メートル先の空き地。

メイはさっそく、先行したレンたちの姿を探す。

「レンちゃん! ツバメちゃーん!」

二人を呼びながら、辺りを駆け回る。

「レンちゃーん! ツバメちゃーん!」

しかし返事はなく、姿も見当たらない。

「まさか……」

嫌な予感に、足が止まるメイ。

「メイッ!」

「メイさん!」

呼ばれて即座に振り返る。

そこには、見慣れた仲間の姿。

「レンちゃん! ツバメちゃーんっ!」

メイは大喜びで駆け出して、二人に勢いよく飛びついた。

「よかったー! 全員無事に出られたんだね!」

「ありがとうメイ! これで三人そろってグランダリア踏破よ!」

「合宿、最高の形で終われます!」

抱き合ったまま喜びあう三人。

全員そのまま、ぴょんぴょんと足を跳ねさせる。

「いた、メイちゃんだ!」

「今グランダリア踏破って言ってたぞ」

「マジかよすげえ……っ!」

その姿を見つけて、グランダリアに来ていた掲示板組が集まりだす。

「よかったよかった! みんなぶじでよかったよー! 探してたんだけど、なかなか見つからなかったから!」

「…………探した?」

笑い合う三人。

盛り上がっていく空気の中、不意にレンがピタリと動きを止めた。

「私たち、今戻ってきたばかりなんだけど……ね、ねえ、メイは『ここはわたしに任せて先に行け』って言って、崩落の中ドラゴンに立ち向かったのよね?」

「うん」

「そのうえで、ドラゴンを倒した」

「うん」

「それなのに……私たちより先に帰ってきてない?」

「え? そんなことあるんですか?」

ツバメも驚きの声をあげる。

「ドラゴンと戦ってたメイの方が、逃がしてもらった私たちより先に帰って来てるって何よ!?」

ありえない事態に、思わずツッコミを入れるレン。

「……?」

しかしお約束事を知らないメイは、不思議そうに首をかしげた。

「ということは、どこかでメイさんに追い抜かれていたんですね……」

「そうなるわね。『メイの覚悟に応えるため、ここを生き抜くことが使命よ!』とか言ってた私たちは、途中でメイに追い抜かれてたのよっ!」

あまりにシュールな状況を想像して、唖然とするツバメ。

「す、すげー! やっぱメイちゃん半端ねえ!」

「なんだそれ……そんなの初めて聞いたぞ!」

「仲間を逃がして死ぬわけでも、ギリギリで生きて帰ってきたわけでもなく、先に帰って来るってヤバすぎだろ……ッ!」

死亡フラグをまさかの形で追い抜いてきたメイに、驚きが止まらない掲示板組。

その騒ぎを聞きつけて集まって来てるプレイヤーたちの中には、メイたちに助けられたモンスターハウスの二人組や、一緒に隠し通路を進んだ商人、金羊みたいなテイマー少女の姿もあった。

「さすがメイさんです! おめでとうございます!」

「やったな嬢ちゃん!」

「グランダリア踏破なんてすごいです!」

「てへへ、ありがとうございますっ」

皆に祝福されて、少し照れるメイ。

「さすが最強の野生児だ! モンスターハウスを切り抜け、新鉱石を見つけ、『住人』を助け、そのうえ死亡フラグを追い抜いての最短踏破! こりゃやっぱ銅像が必要だな! この姿、しっかり後世に残しておかねえと!」

「え、ええーっ!? 待ってください、誤解です! 普段はもっと普通の女の子なんですーっ!」

メイは慌てて否定するが、そのインナー装備姿に自然と視線が集まる。

「あっ、あの! これは偶然帰り際にこうなっただけで、その、違うんですっ!」

「普段は眼鏡姿で、コーヒー片手にパソコンをしてるのよね?」

クスクスと笑いながらフォローを入れるレン。

ツバメも微笑ましそうに見守っている。

「そ、そうなんですっ! 普段はもっと普通の……ん?」

言葉を続けようとしたメイの目の前に降りて来た、一羽の巨鳥。

うれしそうに翼を広げ、顔をメイに擦り寄せてくる。

「ああ、『卵』を無事に持ち帰ってきたからかしら」

その身体は、とにかくカラフル。

獣耳に尻尾、インナー装備に加えて南国鳥のお出迎え。

「もう、どこからどう見ても完全な野生児です……」

「眼鏡にノートパソコンのお姉さんは、ちょっと無理っぽいわねぇ……」

「そんなー!」

またしても『星屑』開始以来の伝説を作り出したメイたち。

どうやらその姿は、最強の野生少女として語り継がれることになりそうだ。