作品タイトル不明
176.レンが見たもの
「あのあからさまな三つの結晶は、オトリだったのかしら」
結晶で作られた罠によって、見知らぬ階層に強制転移させられたレン。
たどり着いたのは、地下24階。
岩壁と木々の根、結晶という光景は変わらない。
一人、注意を払いながら付近を探索する。
稀に目にするリザードマンたちをかわしながら、歩みを進めていく。
「……何もない」
しかし、階を移動するための階段や道は見つからない。
「っと」
現れたリザードマンたちに、とっさに息をひそめるレン。
不意に気づく。
「トカゲたち……さっきから同じ方向に向かっているような」
リザードマンたちから逃げるように探索を続けてきたが、何もなし。
ここでレンは逆に、リザードマンたちを尾行することにした。
時に【浮遊】を使うことで音を立てないよう気を付けて、後を追う。
するとそこには、リザードマンの集合場所らしきものがあった。
そこには木の実や卵、生肉といったものが集められてくる。
「宴会って感じでもないみたいだけど……何かしら」
中には宝石のようなものもあり、その意図にレンは首をかしげる。
「あの魔導士みたいなトカゲへの貢物だったりして。ま、なんにしろ……」
その視線の先には、緑の光を放つ結晶塊。
それはダンジョン内転移に使われるものだ。
「見つけられた移動手段はあれだけ。そしてその使用には、トカゲの集会所を突っ切る必要がある」
そう言葉にして、目前の光景にため息を吐く。
そこにはたき火を中心に、いくつものリザードマンの輪ができている。
ざっと見積もっただけでも40体程度。
その個々がスキルを持つ個体だと考えると、さすがに厳しい。
数の差が大きすぎる。
「これ、どう考えても10人くらいのパーティを分けて戦わせる想定よねぇ……普通に立ち向かったんじゃ勝てないわ」
レンは辺りを見回しながら、作戦を立てることにした。
「ダンジョンもいよいよ終盤って雰囲気だし……早くメイたちと合流して一緒に進みたい」
そして一つ流れを計算できたところで、手にした【銀閃の杖】を【ワンド・オブ・ダークシャーマン】に替える。
「……悪いけど、先手必勝でいかせてもらうわ【魔眼開放】!」
圧倒的な数的不利。
レンは初手で一気に数を減らして、そこから攻勢をかける形を取ることにした。
「【コンセントレイト】」
十分に魔力を集中したところで、杖を一番リザードマンの数が多いたき火に向ける。
「さあ全力でいくわよ――――【魔砲術】【フレアバースト】!」
距離があるのをいいことに、全開の爆炎を叩き込むレン。
容赦ない一撃は、見事に集会所に着弾した。
巻き起こった猛烈な爆炎は、リザードマンたちを一発で粒子に変える。
「それでも……残り30を切ったくらいって感じ?」
初手をプレイヤー側が取るのは想定済み。
そんな敵の配置と量に、苦笑いするレン。
敵の攻撃に立ち上がったリザードマンたちは、怒涛の勢いで突撃してくる。
「【連続魔法】【フリーズボルト】!」
レンは即座に攻撃を再開。
だがすでに敵もこちらに気づいている状態だ。
当然回避や防御といった対応をしてくる。
【魔眼開放】による威力向上をもってしても、せいぜい数体の打倒が限度。
そして近接戦闘となれば、メイでもない限り『一対多』で勝ち目などない。
この現状、どう考えても無理筋だ。
「……それでも、一応ヒントは出してくれてたのよね」
レンはそう言って、杖を掲げる。
狙いは迫りくるリザードマンたちの方ではなく、その頭上。
「罠にかけてくれたあの魔導型の戦い方をマネるのは、ちょっとしゃくだけど……【フレアストライク】!」
放つ炎の砲弾は、そのまま天井のヒビに炸裂。
盛大な爆発と共に巻き起こった崩落は、迫り来ていたリザードマンたちを飲み込んだ。
「こんな戦い方も、ありなんでしょう?」
グランダリアの特性を利用した見事な戦闘方法で、数的不利を打開。
レンは杖を下ろして余裕の笑みを見せる。
こうなってしまえば、ここからは残った個体を片付けるのみ。
「【連続魔法】【フリーズボルト】!」
放つ氷の魔法でさらに数を減らし、頃合いを見て走り出す。
目的は当然、転移用の結晶だ。
すでにリザードマンは数体を残すのみ。
それも崩落の影響で倒れ込んでいる個体や、土に身体が埋まっている様な個体だ。
駆け抜けるなら今しかない。
レンは真っすぐに緑の輝きを灯す結晶に向かって突っ走り、そのままその先端に触れようと手を伸ばしたところで――。
「ッ!!」
飛んできた黒い炎に、慌てて身体をひるがえした。
「……そうくると思ったから、急いだんだけどね」
遅れてやって来た大物に、レンは杖を手にしたまま苦笑いを浮かべた。