作品タイトル不明
1479.異世界でもホッとします!
「ただいまーっ!」
空を駆ける荷車に、大量の【御光石】を乗せての帰還。
「おかえりなさーい!」
手を振るシオールに、メイが飛び跳ねながら応える。
「よしよし、石の回収は成功みたいだねっ!」
見回りをしながら街作りの手伝いをしていたローチェも、手をひらひらさせながらレンたちを出迎える。
「これで街づくりが進みますね! 良い石を使うことで、さらに良いものになりそうです!」
荷車の【御光石】は、十二分の量。
これにはマーちゃんも、うれしそうにしている。
「あら、結構進んだわね」
「これはいい感じですね」
「は、はひっ! とても楽しい冒険者酒場になりそうです!」
見ればメイとハウジングプレイヤーの一部が製作を続けていた酒場は、さらに見栄えのするものになっていた。
酒場の壁と床がしっかりして、置かれたバーカウンターやテーブルが良い雰囲気を醸し出している。
「これは凄いね」
「完成したら良いものになりそうですな!」
シオールやなーにゃも、早くも期待でいっぱいといった感じだ。
「荷車、助かったわ」
「ありがとうございました」
「いやいや、構わないよ」
空駆ける馬を貸してくれたハウジング系プレイヤーは、荷車を連れて戻っていく。
肩に乗せた小さな従魔も、元気そうだ。
「初めて見るプレイヤーだけど、面白い馬車を持ってるよなぁ」
そんなことを言いながら、ハウジング勢がその背を見送ると――。
「おい! 水が出たぞー!!」
聞こえてきた、大きな声。
「わあーっ! すごーい!」
振り返ったメイが、思わず声をあげた。
街の真ん中に作る噴水のために穴を掘っていたハウジング勢が、無事水脈を掘り当てたようだ。
勢いよく上がった水が、空に虹をかけている。
「行ってみようよっ!」
「そうしましょう」
「俺たちも行こうぜ!」
こうしてハウジング勢と共に街の中央へ向かうと、そこには早くも池ができ上がっていた。
「水の色も、陽光の当たり方や見る角度でわずかに色味が違うのね」
見慣れた水も、異世界仕様。
角度次第でキラキラと色味を変える水は、何とも美しい。
「そうだ、ここらで一休みしないか?」
「いい調子で来ていますし、そうしましょうか。もちろん作業を進めたい方はどうぞ! 休憩所のように思ってもらって構いませんよ!」
ハウジング組の提案に、マーちゃんが応えた。
どちらにしろ街づくりは日をまたぐことになるため、休憩するのもありだろう。
だが、それだけで終わらないのがマーちゃんたち異世界建築組だ。
「一休みなら、これですね!」
そういってテキパキと、道具を用意する。
「まあ、これは素敵ですね!」
「すごーい!」
シオールが歓声を上げると、メイも一緒になって目を輝かせる。
なんとマーちゃんたちが用意したのは、見事な焚き火台。
火を灯すと網を乗せ、さらに様々な食材までをも取り出した。
「っ!」
その瞬間まもりの目が、煌々と輝き出す。
「こ、こんなこともできるんですかっ?」
「最近はキャンプ系の道具があって、実際に外マップで楽しむこともできるんです。焚き火台はグリルにできるんですよ」
「エクストリームな場所でのキャンプ動画なんていうのを、出してるプレイヤーもいるんだよな」
「ええーっ! 面白そうーっ!」
まだ下草の残る土地で、綺麗な池を眺めながらのアウトドアクッキングは楽しそうだ。
「こういう時のために、お肉と野菜、飲み物はいつでも持ち合わせているんです」
ハウジング勢がさっそく串焼きや、鉄板に乗せたスペアリブなどを焼き始める。
商人固有スキルである【運搬容量増加】を持つマーちゃんが、様々な飲み物の入った瓶を並べれば、それはもう立派なバーベキューだ。
「いただきます」
シオールがスペアリブを取り、ワインと一緒に味わう姿は美しい。
「おいしいわねぇ、こういうのローチェちゃんもだーいすきっ!」
「おおーっ……」
大人のお姉さんぶりを見せつけるシオールとローチェに、思わず感嘆するメイ。
「わたしも、いただきまーす!」
さっそく真似して、スペリアリブとグレープジュースを手に取る。
「どう? レンちゃん?」
「ほぼ同じ内容なのに、メイが持つと原始時代の狩りの後って感じがする……」
「なんでーっ!?」
尻尾をブンブンしながら、頭を抱えるメイ。
「くすくす。やはり耳と尻尾の影響は大きそうですね」
「シオールたちは『陽』、私は『陰』なのですな」
なーにゃは、そんなパーティのお姉さん二人を見ながら笑う。
「だとすると、私と同じですね」
マイペースなツバメとなーにゃは、池に浮かべたヒヨコちゃんを見ながら串焼きを食べる。
どちらも小動物のようで、なかなか可愛らしい。
「盾子ちゃん、これは?」
「い、いただきます」
「盾子ちゃん、これも食べたり――」
「い、ただきます……っ!」
一方まもりは、餌付けされる臆病な野生動物状態。
両手に串で、夢中で食べている。
「それではあらためて、橋の完成に尽力してくれた五月晴れに感謝を! そして新たな街づくりもよろしくお願いします!」
「おまかせくださいっ!」
メイが元気に答えると、ハウジング勢から歓声が上がった。
「このまま行けば、いい街ができそうだな」
「ていうか、ザッハのヤツは? 途中で帰ったの?」
「あいつハウジングプレイヤーの中で結構大事な位置にいるのに、急にいなくなったよな」
「まあ、リアルが忙しかったりするんだろ。その代わりに、掲示板を見て来たプレイヤーがいい助けになってくれてるね」
「資材を建築材にする作業も多いからな。まったくザッハのヤツめ」
「そういう意味では、いきなり空を走る馬が役に立ってくれたな。助かったぜ」
「いえいえ」
荷車と馬を貸してくれたプレイヤーは、軽い笑顔で応える。
「空を走る馬、わたしも乗ってみたいですっ!」
「もちろん、ぜひどうぞ」
そしてメイの言葉にも、穏やかな表情で応えた。
火を囲めば、ハウジングプレイヤーたちとの会話も盛り上がるようだ。
「こんな経験、なかなかないものね」
そんな中レンは、出来かけの街をあらためて眺めてみる。
すでに小さな町くらいの規模になりつつあるため、その光景はなかなか面白い。
異世界でゼロから街を作るという行動は、やはり普段のクエストとはまた違った楽しさがある。
「何もなかった原っぱが街に近づいていく感覚。こうして作り掛けを見るのも楽しいわね」
「本当だねぇ」
「我々も、ちょっとした基地を作っておりますな」
「ローチェちゃんはもっと、オシャレな感じにしたかったんだけどなぁ」
「なーにゃにはドール用の『ハンガー』が必要だからね。作戦拠点みたいな基地も、私は好きだよ」
そう言って笑うシオール。
装備の変更や交換、各自に戦い方のスキルや連携の調整をしたりと、ドールの運用には色々やることがあるようだ。
異世界の小型拠点は、そのためのものだろう。
「……我々も、粛々と準備を進めよう」
そして実は樹氷の魔女たちがしれっと闇教会を作っていることに、レンはまだ気づいていない。