作品タイトル不明
1389.腹心vs使徒
少女と魔神。
その前にひざまずく腹心は、強化された大猿と山羊。
灰色の身体に黄色の目を持った大猿は、徒手空拳。
腰に巻いた獣の毛皮を地面に擦らせながら、前に出る。
「借りを返させてもらう」
そう言って前に出たのは、黒神リズ・レクイエム。
一歩後ろに鳴花雨涙が続き、背後に闇の使徒たちが控える。
打倒直前での時間切れ。
その始末を、ここで付けるつもりのようだ。
「今度こそ。汚名は返上させていただきます」
続けてこちらに向けて踏み出して来たのは、青い目を持つ山羊の腹心。
白夜を先頭に星野エトワールたち親衛隊が並び、その背後には光の使徒たちが続く。
「この二体が前哨戦。ならばナイトメアたちは温存しておけ」
「その通りですわ」
動かずにいる少女と魔神に対し、控える五月晴れの四人。
戦いは、好戦的な大猿から始まった。
「っ! 来るぞ!」
リズの叫びと共に、大きく身体を後方に倒した大猿。
直後に放った【大閃光砲】は、高火力の光線を放つ大技だ。
まさかの初手に『奥義』の攻撃を見せられ、硬直する闇の使徒たち。
光線はリズと雨涙の真横を通り過ぎ、後方の部下たちに直撃して爆発。
「「「っ!!」」」
初撃で、その半数以上が消し飛んだ。
すると大猿は、駆け出し高く跳躍。
「――【苗木越え】」
その豪快なモーションに思わず息を飲みつつも、雨涙は後方への跳躍で距離を取る。
一方リズは、盾を構えて防御態勢。
直後に掌で地面を叩きつける【爆弾烈掌】が、強烈な破裂音を鳴らして炸裂。
「くっ!」
吹き荒れる衝撃波が瀕死だった多くの闇の使徒たちにトドメを差し、リズの足まで止める。
「――【早駆け】」
一方着地した雨涙は、高速移動で一気に距離を詰めていく。
「――っ!?」
しかし大猿はこれを無視して雨涙とすれ違い、一直線に後方部隊のもとへ。
「来たぞ、守れ!」
闇の使徒の前衛組が、すぐさま対応に入るが突然の急加速。
バチバチと魔力の弾ける剛腕を、ただ力いっぱい振り払うだけの、【払いのけ】で強襲した。
「「「ああああ――っ!?」」」
八人ほどもいた前衛がまとめて弾き飛ばされ、後方の魔導士たちにぶつかり倒れる。
さらに数を減らす闇の使徒。
大猿の驚異的な腕力は、一気に防衛網を崩してみせた。
「「「【フレイムストライク】!」」」
魔導士たちが、一斉に放つ火炎砲弾。
思った以上に敏捷な大猿はこれをかわしつつ、起き上がりの最中にあった前衛剣士に手を伸ばす。
そして二人の闇の使徒を【つかみ上げ】で持ち上げると、なんとそのまま投擲した。
「「「なああああああ――――っ!」」」
飛んできた剣士二人は魔導士部隊を巻き込み、爆発を起こす。
ほんの数手で崩した陣形。
大猿はさらに後方組を狙って、走り出す。
そしてそのまま大きな拳を、魔導士に叩きつけようとしたその瞬間。
「【闇の翼】【暗天の大剣】!」
空から飛び込んで来たリズの豪快な一撃に、派手に地面を転がった。
間一髪のところでの援護。
すぐさま雨涙が横を駆け抜けていき、敵の狙いを自分たちに変えようと攻撃体勢に入る。
「――【流刃】」
通常攻撃の速度と威力を上げるスキルを発動し、二刀流での連続攻撃を叩き込む。
そして大猿が拳を叩き下ろしに来たところで、バックステップ。
「――【風遁・爆進脚】」
回避と同時に超高速接近で、再度敵の懐に入り込む。
「――【火遁・竜鳴砲】!」
突き出す手から放たれた爆炎が、大猿を吹き飛ばした。
すぐさま陣形を立て直す、闇の使徒。
大猿が起き上がるのと同時に、一斉に後衛組が攻撃を開始する。
「【フロストブレイド】!」
「【サンダーボルト!】」
「【ウィンドクロー】!」
大猿はその敏捷性と大きすぎない身体を活かして、回避しながらの接近を計る。
だが牽制による進みの遅さは、使徒側に攻撃の猶予を作り出した。
「【闇十字】!」
リズの放つ剣撃が飛来し、これを大猿が防御で対応する。
反撃は【咆哮波】
口から吐き出した大きな衝撃弾が、猛烈な速度で飛来してリズを狙う。
「【絶掌】!」
これをリズは、掌を突き出し微風に変えた。
「【封魔手裏剣】!」
この隙を突き、突き刺さる雨涙の大型手裏剣。
敵が大きくたたらを踏んだところで、魔導士隊の攻撃で魔法が直撃。
大きな爆発を巻き起こした。
どうにか本来の狙いである、リズと雨涙を使徒たちが援護する形の戦いに持ち込んだ、闇の使徒たち。
転倒を取ったところで、前進して優勢を続けようと狙う。
すると起き上がった大猿は、地に着いた手に力を入れると――。
「「「っ!?」」」
そのまま地面を強引に『掻き上げ』た。
土と石礫が、凄まじい勢いで飛んでくる。
【土塊】は範囲が広く、体勢を崩し軽くだがダメージもあり。
そんな厄介スキルだ。
大猿はここで、しつこく後方組を狙って走り出す。
「させるか! 【暗衝】!」
何とか部下たちを守りたいリズは、強引に立ち塞がる。
「くっ!」
しかし【払いのけ】による一撃に弾かれて、転倒した。
「【封魔手裏剣】!」
リズの意を察知し、続けた投擲も跳躍一つでかわして、大猿は後方組の前へ。
「【紅蓮槍撃】!」
「【旋空剣】!」
武器による攻撃を狙う後方組前衛を跳び越え、敵陣のど真ん中に【爆弾烈掌】を叩きつける。
とっさの防御態勢に入る使徒たちだが、よほどの【耐久】か特殊なスキルがなければ態勢を維持できない。
「「「うああああっ!」」」
吹き荒れる衝撃波に、転がる闇の使徒たち。
「【暗衝】!」
「【早駆け】!」
すぐさまリズと雨涙が駆けつけるが、大猿は【つかみ上げ】で付近にいた闇の使徒を三人ほど掌握。
「なにっ!?」
そのまま投じてリズに直撃させ、爆発に雨涙ごと巻き込んだ。
大きなクエストの、最後のボスでもおかしくないほどの強さを持つ大猿が、ひたすらに後衛を狙う。
後方組を守りながら戦うのは、正直難しい状況だ。
そして光の使徒の前で敗れるような真似は、絶対に防ぎたい。
もし敗れた後に、腹心大猿が光の使徒側を攻撃し始めでもすれば赤面ものだ。
正直この敵に限って言えば、雨涙と二人だけでならもう少し上手に戦える。
「……だが」
これ以上の犠牲は防ぎたい。
レンほどとは言わないが、せめてもう一手を上手に撃ってくれる魔導士でも生き残っていれば。
迫る大猿を前に、そう思いながら剣を握り直した、その時。
「【悪鬼羅刹斬】」
後方組にいた一人の魔法剣士が、突然大型の斬撃を放った。
これを大猿は機敏な跳躍でかわすが、このスキルは時間差で二発目を放つことが可能。
空中で隙を晒したところに、再び数メートル級の斬撃を放って斬り裂いた。
そして地面に落下したところで、後方組の中で上手に危機を回避していた一人の魔導士が、漆黒の長杖を大猿に向ける。
「喰らいつけ、【万魔の眼光】」
放った十字光は、一直線に飛んで炸裂。
散弾銃のような細かな十字光が、容赦なく大猿を削ってみせた。
不意を突いたとはいえ、たった二人で大猿からダウンを奪った能力に、思わず闇の使徒たちが息を飲む。
「――あれは」
他の者は、あまり気付いていないようだ。
いつの間にか潜り込んでいた二人に気づいた雨涙は、変わらぬクールさでつぶやく。
「――間違いない。闇をつなぐ者」
「継ぐ者だ」
そして今も変わらぬうっかり癖に、リズがいつものように訂正を入れた。