作品タイトル不明
1386.黒ローブ少女と腹心と
現れた黒ローブ少女の襲撃。
八人いた光の使徒は、瀕死の三人が残るのみ。
星野エトワールもすでに、7割のHPを失っている。
「すでに長い時間が経っている。ここで腹心の移動を止めなくては……! 【シャイニング・ステップ】!」
すぐさま、黒ローブ目がけて駆け出すエトワール。
「【シャインセイヴァー】!」
光の剣による振り降ろしを、かわさせたところで――。
「【チェンジアームズ】!」
剣を鎌に変えて放つ、広範囲の払い。
突然の変化に虚を突かれた黒ローブだが、回避に問題はなし。
またも突然の消滅。
「エトワールさん、後ろです!」
「っ!!」
使徒の声に慌てて振り返ると、斜め後方に立つ黒ローブが魔法を放つ。
「【火祭】」
八発同時の炎弾には、緩い誘導。
「【シャイニングステップ】!」
エトワールはこれを必死にかわし、どうにか腕にかすめるにとどめた。
即座の接近でそのまま光の鎌を振ると、黒ローブは身を低くすることで回避。
「【チェンジアームズ】!」
一気に接近し、光の槍で刺突を狙いに行くが――。
「【エンチャント・エーテル】」
閉じた日傘に灯る魔力の輝き。
「っ!?」
黒ローブ少女は日傘を剣に変え、払いの一撃を仕掛けてきた。
「くっ!」
この一撃をかわすと、続けざまに振り降ろし、そのまま振り上げにつなげた。
胸元をかすめた光の剣撃が、ダメージを残していく。
ショートソードほどの長さの武器は取り回しが良く、攻撃速度も高いため侮れない。
予想以上の大胆な攻めに、エトワールは防戦一方だ。
それでも一歩大きく下がって、反撃を狙うと――。
黒ローブ少女は、空いた手を大きく払う。
「【焔薙ぎ】」
半円を描く形で、弾ける赤紫の爆炎。
「くっ!!」
防御にこそ成功するも、大きく弾かれ下がる。
黒ローブ少女の強さは、かなりのものだ。
「ドールはどうにか、私たちで!」
残った光の使徒で、唯一の前衛である武闘家はドールのもとへ。
すでに宝珠を点灯させている状況で、事態は切迫している。
「【ジャッジライト】!」
「【セイントアロー】!」
後衛二人の攻撃で体勢を崩し、どうにか刀のドールのもとへの道を作る。
「【聖光烈拳】!」
渾身の一発は、やはり崩しが弱く当たらない。
反撃は大きな払いから、即座に返す刃を放つ【死地往来】
「くっ、すまない……」
やはり瀕死の三人で、ドールを止めるのは難しい。
また一人前衛が倒れた。
そのまま刀のドールは宝珠を輝かせ、腹心の召喚を始める。
嫌な風が吹き出せば、それは成功の合図。
赤い目をした灰色の人型山羊が、妖しい輝きと共に登場する。
「これで、あの腹心が場を離れたら終わりか……!」
もはやどうしようもない状況。
それでもエトワールが、諦めずに光の剣を構えたところで――。
「状況は!?」
飛び込んできたのはメイたち。
レンの問いに、エトワールは即座に答える。
「ドールが腹心を召喚し、さらにクエスト受注者であろう者まで……!」
それを聞いたメイとツバメ、まもりは腹心山羊を狙って駆け出す。
「【バンビステップ】!」
「【加速】【リブースト】【電光石火】!」
二人は一気に接近し、まずはツバメが斬り抜けで様子を見る。
対して魔導士型の山羊が手にした金の杖を向けると、その前に生まれる空間の切れ目。
「なっ!?」
ツバメはそのまま切れ目を通り抜け、敵の背後に強制ワープさせられた。
「【ラビットジャンプ】【フルスイング】だああああ――――っ!!」
先行したツバメに続く形で、メイは続けざまに空中から攻撃。
山羊が杖で地面を突く。
すると魔力が結晶のように固まり、六枚の花のような壁を生み出した。
振り下ろすメイの剣とぶつかり、盛大な粉砕音と共に結晶花が飛び散る。
これにはメイも弾かれて、そのまま地面に着地した。
「【チャリオット】!」
一瞬の膠着。
だがここでさらに、まもりが思い切った特攻を選択した。
「【シールドバッシュ】!」
駆け込んで来た勢いのまま、手にした盾を突き出す。
思わぬ火力に、大きく弾かれた腹心山羊。
再び杖を強く突くと、今度は足元に長方形の魔法陣が描かれる。
慌てて範囲外へと、駆け出すメイたち。
直後、盛大な焦熱の光が空へと駆け抜けていった。
「トリッキーさのある腹心、やっかいそうですね」
マントを払ってみせる灰色の山羊を見て、ツバメが息を吐いた。
「【火祭り】」
一方黒ローブ少女が放った八発同時の炎弾は、緩い誘導でレンを狙う。
「【低空高速飛行】! 【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」
これを引き付けてからかわして撃つ、四連発の誘導弾は、順番に迫ってくるため対応に手間がかかる。
黒ローブは日傘でこれを防御するが、そうなれば全てを受け切るまでの時間に、カナが距離を詰めてくる。
「【速歩】!」
良いところに踏み込んだカナは、そのまま拳を繰り出した。
「【雷走破】!」
「っ!?」
初見の【フェイント】の効果は絶大。
黒ローブ少女の虚を突き、カナはそのまま攻撃を継続。
「【爆水拳】!」
放つ盛大な飛沫が、防御を選んだ黒ローブを大きく弾き飛ばす。
「【焔薙ぎ】」
勢いに乗り、さらに迫ろうとするカナに対して、飛沫のごとき爆炎でカウンターを狙う。
しかしカナは、ここで急停止。
「っ!」
なんと爆水拳の飛沫と、そこからの接近は視線の誘導が目的。
頭上にはすでに、【氷塊落とし】が迫っている。
通常のプレイヤーなら、直撃は避けられない状況。
ここで謎の瞬間移動が活きる。
黒ローブ少女はギリギリで後方へ下がることで、範囲をなんとか抜け出した。
「……さすが」
【フェイント】で驚かされた状態の中、飛沫と接近は視線誘導。
本当の狙いは、気づきにくい頭上からの攻撃。
レベルの高い星城姉妹の連携に押されて、黒ローブ少女が感嘆のつぶやきをもらした。
そして、早くも大技での反撃を仕掛ける。
「――――【トライマギア】」
砕け散り、舞い上がる氷片と白煙の中から聞こえた知らないスキルに、レンとカナは意識を集中。
「【ローズフレア】」
聞こえた魔法名に、身構える。
「【ローズフレア】」
それにもかかわらず、魔法は届かない。
「【ローズフレア】」
三度の繰り返し。
レンとカナが不気味な気配を覚えたのと同時に、白煙が消えた。
「「っ!?」」
「その目に焼き付けよ、煌爛たる炎華の庭園――――『スカーレットガーデン』」
「ツバメちゃん!」
「はいっ!」
「【かばう】【水球の守り】!」
広がる業火の勢いを見たメイがツバメを呼び寄せ、集まった二人を含める形でまもりが水泡を生み出す。
「「「っ!!」」」
吹き荒れる炎は水球を蒸発させて、三人の体勢を崩した。
レンとカナは防御を選んだが、大きくHPを削られてその場に転倒。
大きく広がる炎。
そしてこの隙を突くように、腹心山羊は転移で姿を消した。
制限時間内の打倒に、失敗した形だ。
「せめて……ドールだけでも! 【シャインセイヴァー】!」
エトワールは駆け、どうにか刀のドールを打倒することに成功。
残りHP3は、もはや意地の勝利だろう。
「仕方ないわ。三体目、急ぎましょう」
魔神復活に、打倒が必要な腹心の数は二体。
居場所の分からない最後の一体求めて、レンが捜索を先導するが――。
「「「っ!」」」
その視界に現れたのは、クエストのアナウンス。
『――――二体の腹心が集結し、魔神復活のクエストが達成されました』
闇の使徒たちは発見が難しかった三体目のドールを、結局捉えられなかったのだろう。
腹心を呼び出し、復活の地へ移動したことが確定。
それはメイたち、そして光と闇の使徒にとってはクエスト失敗の宣告だ。
自然と止まる戦い。
今も残る残火を踏みしめながら、あらためて黒ローブの少女がつぶやく。
「――――時が来た」
そして目深にかぶったフードを取り、レンを見つめる。
「っ!!」
思わず目を見開くと、少女は告げる。
「光の登る場所で待つ。今日世界は――――変わる」
その姿に驚くレンに少女は視線を残すと、この場から転移宝珠で消え去った。