作品タイトル不明
1371.怒涛のルナティック
「これは短期決戦だからね。一気に攻めさせてもらうよ」
そう宣言した刹那は、【呪印】を妖しく輝かせる。
そして、すぐさま攻撃を再開。
「【跳び影】!」
いきなり空中から距離を詰めに来る。
まだ【悪魔の腕】がクールタイム中のなのを見越した速い攻撃だ。
「【連続魔Ⅳ】【炎槌】!」
地面に叩きつけた手を起点に、噴き上がる閃熱。
ベリアルはこれを後方への大きなステップでかわすが、攻撃は止まらない。
「【アイアン・メイデン】!」
それは広い範囲に大量の矢じり付き鎖を突き上げるスキルで、【呪印後】は高く突きあがり逃げ場もない。
ベリアルは慌てて防御を選択するが、足元からの攻撃は防御を崩す。
刹那は真っ直ぐに、その手をベリアルに向けた。
「【ブレイズキャノン】!」
「きゃああああ――っ!!」
三連続魔法の最後に放たれた炎砲弾に、弾き飛ばされた。
「【ファイアウォール】!」
とにかく接近を止めるため、炎の壁でけん制するベリアル。
「【連続魔Ⅳ】【アイアン・メイデン】! 【クルシフィクション】!」
大量の刃鎖が突き出した後、続けざまに狙うのは『絡みつく鎖』による攻撃。
「これだけはダメ……っ!」
捕まればその後は必殺の一撃を喰らうことが確定する攻撃を、ベリアルは転がってでも回避。
作れた隙は完璧なものではないが、刹那は攻撃を続ける。
「燃え盛れ、天を灰燼へと帰す烈火の煌炎――――【クリムゾンフレア】!」
「っ!!」
必死の回避で直撃こそまぬがれたが、ベリアルは巻き起こる爆炎に吹き飛ばされて跳ね転がった。
「とにかく【連続魔Ⅳ】が圧倒的だわ……!」
目まぐるしい攻撃は、息すらつかせない。
だが攻め続ける刹那には制限時間があり、止まる暇はない。
「まだまだ一気にいくよ! キミを相手に油断するほど、馬鹿な真似はないからね!」
そう叫んで、【ソロモンの指輪】を掲げる。
「さあおいで――――ボクのアモン!」
落雷のような激しい赤光が天地を駆けめぐり、足元に生まれた巨大な魔法陣から現れたのは、狼の腕を持つ半蛇のフクロウ。
「【フレイムバスター】!」
いきなり放たれた、巨大な炎砲弾。
「【低空高速飛行】!」
連続して炸裂する爆炎をかいくぐり、燃え上がる屋根を逃げるベリアル。
「まだまだっ! 【フレイムディザスター】!」
今度は通りに地割れが走り、慌てて逃げ出す観客たち。
建物をいくつも崩壊させて、溶岩のような炎が噴きあがった。
「くっ!」
ベリアルは爆炎にあおられ転がり、溶岩の一部を浴びてダメージ。
「悪魔の方も、火力を増してる……!」
「ボクがいくつの闇を渡ってきたと思ってるんだい?」
「【魔力蝶】!」
「くっ! そうはさせない! 守れアモン!」
ここでベリアルも大きな魔法で反撃を放つ。
【魔力蝶】はとにかく数が多く、同時に強い誘導のかかる魔法。
流れを変えかねない一撃に、刹那はすぐさまアモンに防御を指示。
刹那の狙い通り【魔力蝶】は、巨体を持つ悪魔に阻まれた。しかし。
この状況からでもベリアルには、攻撃が可能だ。
「【ペネトレーション】【誘導弾】【聖槍】!」
放たれた光の槍はアモンを貫き、そのまま誘導に乗って一直線。
「なっ!? ああああ――っ!」
突き刺さった光の槍は炸裂し、刹那を吹き飛ばした。
「さすがだよナイトメア! どんなに強い魔物と戦っても、これだけ痺れることはない! でもっ! 【シューティングゴールド】!」
アモンの咆哮と共に、天から黄金の輝きが降り注ぐ。
次々に炸裂する魔力の輝きに、ベリアルは必死の回避を見せる。
「怒涛の攻撃……でもこのスキルならまだ、守りようがあるわ!」
回避しながら、厳しければ防御。
このスキルなら、そういう対応が可能だ。しかし。
「そうかな?」
刹那は笑って、その新スキルを発動する。
「【別動】」
悪魔と共に、本人も同時に何かのスキルを使える。
そんな新戦法で、刹那が取った行動は。
「【飛び影】!」
「うそ……っ!?」
距離を詰めていたことが凶と出る。
まさかの事態に、さすがにベリアルの反応が遅れた。
「驚いただろう? 【レビティア】!」
空中にベリアルを打ち上げたところで、狙い撃つのは炎砲弾。
「【ブレイズキャノン】!」
「きゃああああああ――――っ!!」
見事な一撃を決めた刹那は、一つ息をついて後を追う。
しかしまだ戦いの最中にもかかわらず、なかなかその姿が見つからない。
少し考えて、刹那は見方を変える。
建物にぶつかり動けないのか、別の使徒につかまったか、戻ってこない理由は分からない。だが。
「こっちから探す必要はないよねぇ」
刹那は屋根から降り、【魔宝石】の設置が必要な魔法陣のポイントへとたどり着く。すると。
「――――ルナ!」
その背中にかけられた声。
【浮遊】を解除すると、急いで来たベリアルはバランスを崩し、その場にヒザと手を突いた。
「転んでしまうほど焦っているのか、ナイトメア……くくっ、なかなかいい光景だね」
刹那は笑って、両手を開いてみせる。
「でも遅いよ。勝敗を決してからクエストを達成させてもいいけど……さすがにこの状況から目的の成否を後回しにするほど、ボクは間抜けじゃない」
そう言って刹那は手に取った【魔法石】を取り出して、魔法陣の前へ。
「ああ、そうだ」
そして思い出したかのように告げる。
「この【設置魔法】も無駄になったね」
「っ!」
刹那は魔法陣手前に刻まれた【設置魔法】に炎弾をぶつけて、誘爆させてみせた。
「先回りして罠を張り、後から追ってきたフリをする。さすがナイトメアだよ。でも今回はボクが上回ったようだね」
「……くっ」
虚しく燃える炎を見ながら、刹那が笑う。
「悔しがるナイトメアを見ながら、個人的な戦いを続けるっていうのもいいかもね。でもそれは、降臨祭を潰した後の話だ」
すでに【設置魔法】は、解除された後。
刹那は余裕を見せる足取りで、魔法陣の前へ。
そして手にした【魔法石】を取り出すと、輝きが生まれ出す。その瞬間。
「――――ルーン、発動」
「っ!?」
【入れ替えのルーン】が起動し、ベリアルと刹那の場所が入れ替わる。
【魔剣の御柄】での接近戦時に行った突き飛ばしは、虚を突くためではなくルーンを刻むためだった。
「それでも! まだ勝敗がついたわけでは――っ!」
刹那は慌てて、屋根の上から飛び降りようとするが――。
「なんだって……!?」
位置を入れ替えられた刹那が、驚愕する。
その足もとには、さっきこの場に着いたベリアルが『ヒザを突いた瞬間』に設置した、二つ目の【設置魔法】
ベリアルより低い位置にいた刹那には当然、見えていない。
「着地時に体勢を崩してみせたのは、このためか……っ!」
「ルナの行き先は完全に『前のクエストで私たちが仕掛けをした魔法陣の一角』だった。そこに【魔法石】を持ち込んで陣をつなぐのだと分かったら、仕掛けの『二つ』くらいするでしょう?」
「ナイトメア……っ!」
「――――開放」
一つではなく二つ。
【設置魔法】によって吹き上がった爆炎が、刹那を吹き飛ばした。
「【浮遊】【コンセントレイト】」
溜めを行いながら再び屋根の上に上がり、高い位置からしっかりと刹那に狙いをつける。
「【インフェルノ】!」
続く溶岩弾の一撃が直撃し、広がる豪炎に逃げ場なし。
【魔法石】のゲージが一気に減少し、そのまま砕けて散った。
「やっぱりあのまま真正面から戦われた方が、私としてはキツかったわね」
強化されていた刹那の強さを思い出して、安堵の息を吐くベリアル。
「……いいよ、今回は君の勝ちだ」
まだHPは残っているが、クエストが失敗となった刹那は唇を噛んで引き下がる。
「うわ……すごかったな……!」
「最高だよ! 降臨祭の裏通り熱すぎだろ!」
見れば闇の使徒の戦いや、ベリアルたちの戦いを見かけたプレイヤーたちが通りを埋めていた。さらに。
「【ライティング】!」
一人の『知ってる』プレイヤーが、夜の聖教都市の街に照明弾を打ち上げる。
「さすがだなベリアル」
「まったくだねェ」
すると広がる光の中に、HPを半分ほどまで減らしたスキアとクルデリスがやってきた。
どうやら輪廻と彼方の二人も、クエスト失敗の時点で引き下がったようだ。
「うまくいったようですね」
さらにそこへ使徒勢を片付けたシールドやワイルド、最後にスワローが到着。
「……ん?」
自然とベリアルの周りを程よい距離感で固めると、通りに並んだプレイヤーたちを一瞥。
そしてスワローが、いつものように口を開く。
「畏怖するがいい、影に棲まいし悪鬼ども。我らは『闇を継ぐ者』……すなわち」
「「「「――――断罪の刃なり」」」」
ベリアルを中心にして、完璧なポーズを披露。
「「「うおおおおおおおお――――っ!!」」」
「こんなのあったわね……」
あがる盛大な歓声に、しっかり巻き込まれたベリアルが白目をむくと、まもりが盾を屋根の端に向ける。
「【フレイムバースト】」
闇の使徒の攻撃から【マジックイーター】で収集しておいた魔法を使用して、爆発を巻き起こした。
「いきましょう」
ワイルドたちは炎と煙に紛れる形で、その場を後にする。
こうして闇を継ぐ者は無事、魔法陣による降臨祭への攻撃を止めることに成功。
クエストを達成した。
「……だが、街の騒がしさ自体は変わってないかもしれぬな」
「ぶふっ!」
ワイルドの口調に、スキアが噴き出す。
事実降臨祭の会場近くでは、魔法陣に残った魔力を直接使用して降臨を妨害するというクエストに動く者が、戦闘の真っ最中だった。