作品タイトル不明
1336.月の獣デラヴォロス
突如として月の荒野に生まれた、巨大な密林。
メイは【大自然のお仕置き】による圧倒的な攻撃で、デラヴォロスを残りHP3割強まで追い詰めた。
だが、もちろんこのままでは終わらない。
残りHPがわずかとなったデラヴォロスの十字王冠が、金色の輝きを放ち始めた。
「さあ、どうくるの?」
強烈な輝きと共に放たれる、甲高い咆哮。
「圧し掛かりーっ!?」
その全身で飛び掛かってきたデラヴォロスに、思わず驚きの声をあげるメイ。
しかし後衛組はわずかな後退で攻撃範囲を抜け、メイとツバメも早い走り出しで問題なく対応。
するとデラヴォロスはそのまま姿を黒い蛇龍のように変えて、地を泳ぐ。
怒涛の喰らいつきの狙いは、ツバメだ。
「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】!」
迫り来るデラヴォロスを、何度も角度を変えながら走ることで、どうにかやり過ごす。
するとここで勝負とばかりに、デラヴォロスが一直線に接近。
ツバメは即座に【村雨】に持ち替えて、カウンターを狙うが――。
「っ!?」
跳ねた龍は地面にぶつかり、一つの黒い水たまりのようになった。
あっという間に広がった黒の溜まりは、そのままツバメの足元に滑り込む。
そしてツバメが、溜まりの中心に来るまでその範囲を広げたところで、その『縁』から生まれる四つの黒き巨腕。
巨人の黒腕が、包み込むような形で叩きつけにくる。
「ああああああ――っ!」
意識がカウンターに入っていたツバメは、かわすことができず直撃を受け、弾き飛ばされた。
デラヴォロスはその姿を再び蛇龍に変え、追撃に向かう。
「【バンビステップ】!」
そこに駆け込んで行くメイは、蛇龍が喰らいつきでくると踏んで防ぎに向かう。
すると予想通り二人を前に、飛び掛かりの態勢に入ったデラヴォロスは――。
「「っ!?」」
突然内側から大きく球形に膨らみ、そのまま爆散。
「わああああ――っ!?」
メイとツバメを、まとめて吹き飛ばした。
まさかの自爆で、ダメージを与えたデラヴォロス。
爆散によって粉々になると、大量の黒い液だまりに変わった。
「……つながっていくわ!」
始まる異変。
なんと黒い液体は広がり、次々につながって、地面を薄く覆い尽くす。
「なに……これ?」
かなりの広範囲をカバーする、黒い液体。
自身の足の下にも広がった謎の液体に、レンが意識を向けると――。
地面が大きく一度揺れた。
「「「「っ!?」」」」
次の瞬間、凄まじい勢いで突き上がり出す漆黒の【断崖】
それは【グレートキャニオン】を思わせる一撃。
大きな範囲をまとめて攻撃する、無慈悲な必殺スキルだ。
「わあああああああ――――っ!!」
「「「っ!?」
不運にもその中心にいたメイは、高々と突き上げられた。
落下して、背中を打って跳ね上がると、一撃で3割近いダメージ。
強く弾かれる形で済んだツバメが2割、まもりで1割、かすめたレンで1割。
直前の爆発で中心部を離れていたツバメは僥倖。
もしもメイと共に直撃を受けていたら、死に戻っていただろう。
メイは残りHP4割まで減り、ツバメとまもりが3割台にまで低下。
こうして全員が転倒し、大きく体勢を崩した最悪の状況下。
「この範囲でこの火力、一体で月を滅ぼした力は伊達じゃないわね……っ!」
慌てて腕を突き、顔を上げるレン。
そこには黒い溜まりから、通常の状態に姿を戻したデラヴォロスの姿。
振り返り、こちらに向けて飛来してくる。
触手が刃になり、始まる回転。
「まさか、そのモーションは……っ!」
狙いはレン、そしてまもりも巻き込む形か。
迫る【死天スクリュー】も、圧倒的な火力を持つ範囲攻撃だ。
思わず、あげる悲鳴。
「……セレーネ、行こう!」
「分かってます、ムーナ」
そこに聞こえてきたのは、姉妹の声だった。
呼び合う二人は互いに向かい合い、その視線を合わせる。
ムーナは右手を、セレーネは左手を伸ばし合い、始まる祈り。
「思いは存在の、尊き証明」
「想いが成すは、汝が魂の在り方也」
左右対称の動きはまるで、神に捧げる舞いのようだ。
「「重きを成して、証明せよ」」
声を合わせて、同時にくるりと回転。
迫るデラヴォロスに、伸ばしたままの手を向けると――。
「「――――【グレート・グラビティ】」」
『ドン』と一度、大気が激しく震えた。
直後、驚異的な重力が襲い掛かり、デラヴォロスの身体は容赦なく荒野に叩きつけられた。
まるで隕石でも衝突したかのような、盛大な衝突音。
それでも止まらず地面に押し付けられ、地面に壮大な穴を開けヒビを走らせる。
超重量に押しつぶされた、黒き魔物。
重力が戻るのと同時に、二人は片ヒザを突きながら息をつき……五月晴れの方に振り返った。
「お願いします」
「月の英雄たち」
「ツバメっ!!」
「はいっ!!」
月の姉妹はただ、守られるだけの存在ではない。
自らを導く冒険者と共に戦う、仲間でもある。
気付いたレンはすぐさま【魔神の黒杖】に持ち替え、連携をつなぐ。
「【滅多打ち】! 【フレアストライク】【フレーズストライク】!」
本来ならば、とにかく【フレアバースト】と【フリーズブラスト】を連射する流れだ。しかし。
「【インフェルノ】……【コキュートス】!」
大きく消費MPを上げてくる【滅多打ち】の最後に【コキュートス】を入れるため、使用魔法と回数を大きく制限。
狙い通り、最後の【コキュートス】がデラヴォロスを凍結に追い込んだ。
その時間は短いが――。
「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】【加速】【リブースト】!」
全速力で駆けつけたツバメが、巨大な敵の正面に入り込んでいた。
そしてその手に【村雨】を握ると――。
「――――【斬鉄剣】」
振り抜いた刀に、吹き荒れる風。
まるで時間が止まったかのように、制止するデラヴォロス。
刀を鞘に納めると、動くことを忘れていた時間が思い出したかのように、遅れて黒い飛沫が盛大に飛び散った。
ツバメはすぐさま下がり、振り返る。
「飛び散った黒い液体が、残ったままです」
黒の飛沫は空中にとどまったもの、地面に落ちたものとバラバラの状態。
これだけでも異常だが、この黒の液球はさらに分裂して、その数を増やしていく。
「……来るわ、最後の猛攻が」
設置完了。
これまで以上に、デラヴォロスの冠が強烈に輝き出す。
そしてその光が、爆発した次の瞬間。
メイたちを囲んでいた大量の溜まりが、魔力光線を無差別に乱射。
「「「「っ!?」」」」
【分散閃光砲】は、無数の溜まりから次々に噴き出す光線。
赤外線センサーを思わせるほどに絡み合った、縦横無尽の光の檻。
上下両方からの攻撃の回避は、異常なまでに難しい。
「きゃあっ!」
レンが肩をかすめ、よろけたところに足元からの光線で弾かれる。
これでHPが4割ほどになった。
「でもずっとは続かないはず! 耐え抜きましょう!」
「はひっ! 【コンティニューガード】【天雲の盾】!」
まもりは盾を掲げ、同時に足元に集中する。
二本目の光線も、空いた手の盾で防御。
しかし後方から来た魔力光に、腕を撃たれて体勢を崩した。
「【加速】!」
ツバメは足元の輝きを見て、即座に前方へ。
しかし頭上にも、新たな輝きあり。
「【スライディング】!」
これを滑ることで避けることに成功したが、その先の地面に新たな輝き。
「くっ!」
これだけでは終わらない。
弾かれ転がると、その先には二つの溜まりが空中に輝いていた。
「【チャリオット】【水球の守り】!」
慌てて駆け出したまもりは、光線を受け止めながら走ってツバメのもとへ。
泡のような水を張ることで、どうにか瀕死のツバメを守り抜く。
次々に、HPを削っていく光線。
この凄まじい光の檻が、『前哨』であることに気づくのは難しい。
「……【四足歩行】!」
凄まじい勢いで迫る分散ビームの凄まじさに、メイは意識を集中し始めた。
必然的に視野は狭くなってしまうのだが、メイは迫る光線の乱舞を四足状態でかわすことで、その視野に余裕を作る。
そしてこの判断が、人数の少ないパーティを救う。
「まもりちゃんっ!」
呼ばれてまもりが顔を上げると、煌々と輝くデラヴォロスの王冠。
本体の頭部の中心に空いていく穴に、溜まる白光。
そして突然、【分散閃光砲】が止まった。
「「「っ!」」」
全体の態勢を崩した後に来るのは、奥義。
一瞬、耳鳴りがするほどの静寂を残して【終焉の月光】が放たれる。
「【錬金の盾】! 【不動】【コンティニューガード】【天雲の盾】っ!!」
メイの言葉に突き動かされ、まもりは大きくなった盾を突き立てると、支えるように立つ。
「【加速】【リブースト】!」
ツバメが最高速で駆け出し、まもりのもとへ。
「【裸足の女神】!」
メイも一瞬で、まもりの背後へ駆け込む。
「【低空高速飛行】っ!」
移動速度も動き出しも、共に一番遅かったレンは慌てて向かうが、わずかに間に合わない。
迫る、無慈悲な閃光。
「レンちゃんっ!」
しかしメイが伸ばした手をつかむと、即座に引き込み、腕を打たれるまでにとどめる。
直後、魔力光の粒子がまもりの盾にぶつかった。
光線は水流の様に割れ、大気に溶けて消えていく。
その光景は圧倒的だ。しかし。
「敵が月光砲を撃つようなものね……ありがとう、メイ」
「いえいえー」
「こ、この後はどうしますか?」
「HPは、本当にギリギリですね」
なんと四人は、ここで最後の作戦会議を開催。
一撃必殺の魔力砲が注がれる中でも、作戦を考える姿は楽しそうだ。
「私は、あれが見たいかな」
「いいですね」
「えへへ、りょうかいですっ!」
「がんばりましょう。メイさんにつなぐために」
「もちろんよ」
「は、はひっ」
笑い合い、タイミングを計る四人。
そして、魔力砲が止まったその瞬間。
「ツバメちゃん、ゴーッ!」
「【疾風迅雷】!」
ツバメが【加速】の連打で、前に出る。
再び分散ビームが飛び交い出すが、最速での飛び出しが少ない回避で攻撃範囲を抜けさせた。
飛び込む、デラヴォロスの懐。
「【分身Ⅲ】!」
生まれる大量のツバメに、デラヴォロスは触手の全てを以って攻撃するが、当たらない。
「【跳躍】【エアリアル】【回天】!」
最後に飛んできた本物のツバメが、本体に刀で長い刀傷を刻み込んだ。
「【誘導弾】【フリーズストライク】!」
先手を打たれたデラヴォロスは分散ビームによる攻撃ではなく、ツバメへの攻撃に入ろうとしたが、レンが先に氷砲弾を直撃させた。
これによって、その狙いはレンへ。
まばゆい輝きと共に本体から放たれたのは、超高速の【閃光砲】
「【かばう】【マジックイーター】!」
目にも止まらぬ光線は、まもりの盾に喰われて消えた。
「安易な反撃が、決め手になったわね! まもり!」
ツバメから『ターゲット』を引き継いだレンはそう言って、杖を構える。
「【フレアストライク】!」
「【閃光砲】!」
まもりの盾から放たれた魔力の輝きと炎砲弾が混ざり合い、デラヴォロスの体勢を崩す。
こうして、生まれた隙。
「お願い、メイっ!」
「おまかせくださいっ!」
応えたメイは木々の中、高く右手を上げていた。
「【装備変更】!」
【猫耳】が【狼耳】に換わる。
「それでは皆さん――――ご一緒にどうぞーっ!」
広がる緑の上、一斉に現れる三つの魔法陣。
【群れ狩りⅢ】で呼び出したのはクマ、白狼、そしてケツァール。
緑の大地に変わった月の一角に、密林の王者と共に並ぶ巨大な獣たち。
その迫力は、圧倒的。
「いっくよー! よーい、ドンッ!!」
メイは三体の召喚獣と、一緒に密林を走り出す。
先行したのは白狼。
猛烈な飛び掛かりで懐に入り込むと、その牙でデラヴォロスに食いつき、一瞬で広がる凍結。
放り出したところに、迫るのはケツァール。
動けずにいるデラヴォロスに、滑空からの強烈な蹴りを叩き込む。
砂煙を上げて転がると、そこに駆け込んで行くのは、鉢巻を巻いて杵を抱えた餅つきクマ。
豪快なジャンプで掲げた杵を、全力で放り投げてグレートベア・クローを叩き込んだ。
さらにそこへ、遅れて来たラビもタックルで追撃。
こうして派手に、転がったところに――。
「【モンキークライム】!」
世界樹を駆け上がっていくメイ。
手に取った【世界樹の実】をかじって、【腕力】を大きく上げたところで跳躍。
そのままデラヴォロスに向けて、一直線に落ちていく。
「……セレーネ単体では、何かできたりするの?」
たずねたのはレン。
するとセレーネは静かにうなずいた。そして。
「【グラビティポイント】!」
それは対象が『どこに向けて落ちるか』という、重力の起点を定めるスキル。
「ええっ!? えええええっ!?」
発動すると、メイが流星のような速度でデラヴォロスに向けて落ち始めた。
驚きながらもメイは、セレーネを見て理解した。
剣を掲げ、そのまま超高速でデラヴォロスに振り下ろす。
「ダイビング【ソードバッシュ】……グラビティだああああ――――っ!!」
叩きつけた剣が、衝撃波を巻き起こす。
その威力に地面が大きく落ちくぼみ、爆風が付近を駆け抜けていく。
慌てて【錬金の盾】に隠れるレンたち。
見学中だった飛行艇は数十メートルほど回転しながら飛ばされた。そして。
超重量の一撃は、荒野に月最大級の緑のクレーターという、世にもめずらしい光景を生み出したのだった。