作品タイトル不明
1189.オトリの海戦
「来た! 来たぞォォォォォ――――ッ!!」
「メイちゃんたちの船が来た!」
モナココ港に集まった軍艦と、ハンターたち。
見えたメイたちの船に、騒ぎが広がる。
多くのプレイヤーたちがモナココ軍の船に乗り込み、メイたちの船への攻撃や、乗り込みを狙う。
「蜂の巣をつついた様な感じだな!」
「この神槍が、船ごと沈めてやろう」
港の光景を、楽しそうに眺めるグラムとアルトリッテ。
先手を打ったのは、元海賊バルディスだ。
「この距離から!?」
【記録の宝石塊】が放つ【誘導弾】【魔砲術】【フレアストライク】が、空を飛んでいく。
軍艦の大砲はまだかなりの距離を詰めないと、効果なし。
次々に放たれる炎砲弾は、信じられない距離を当然のように飛んでくる。
「「「うわああああ――っ!」」」
船が大きく揺れ、ハンターたちが甲板から落下する。
さらに直後、クリティカルヒットした炎砲弾が軍艦の壁面を突き破って爆発。
その火力によって空いた穴から、浸水が始まる。
こうしてメイたちの船を正面から狙った船たちが、次々に沈んでいく。
そんな中、左右から接近する軍艦の一団。
こちらの船は少し小型だが、進みが早い。
「今だ! 行け行けーっ!」
「船での戦いなら可能性あるぞ! 地上でメイちゃんとぶつかるより全然良い!」
「海上なら、沈めても勝ちだからな!」
戦いの舞台が海上ということもあり、あがる攻め気の声。
それに応えるかのように、【記録の宝珠】が新たな輝きを灯らせる。
すると海上に現れた魔法陣から、飛び出す巨大なクジラ。
「メイちゃんの召喚だ!」
「しかも……二体の方じゃねえか!」
「「「う、うおおおおおおおお――――っ!!」」」
【狐耳】による【幻影】で呼び出されたクジラは、立て続けに船の一団に激突。
波を起こして付近の船を押し倒し、豪快な青の炎で付近一帯を焼き払う。さらに。
「こっちも……!?」
「おい! こっちにも召喚が来るのかよ!!」
この隙に左側から距離を詰めていた戦艦の面々が、戦慄する。
空に現れた魔法陣を、突き破る形で出て来たのは【ケツァール】
こちらも【幻影】召喚のため、二体の巨鳥が同時に特攻を仕掛けてくる。
真横から船に取り付いたケツァールは、そのまま小型艦を持ち上げ大型艦に放り投げ激突。
直後、盛大な青の炎を巻きあげながら激突した幻影体が爆発。
左側の艦隊群も、爆発の影響で進行が止まる。
そうなればまた、【魔砲術】の餌食になるのみだ。
「うおおおお――っ!? ちょ、ちょっと待て! 強すぎないかこれ!?」
「なんだよこの無敵戦艦っ!」
海上にあがる、無数の悲鳴。
「でも、距離は詰めたぞ! 勝負はここからだ!」
無数の犠牲の上で生き残った三隻の船は、見事に距離を詰めることに成功。
するとバルディスの見事な操舵で、程よい位置を取ったメイたちの船は――。
【コンセントレイト】【ペネトレーション】【フレアストライク】による炎砲弾を放った。
「「っ!?」」
三隻まとめて、貫いての爆発。
これに驚いた後方の船に、【宵闇の眼帯】【増幅のルーン】での【氷塊落とし】で、十の氷塊が落下。
「「「うわああああああ――――っ!?」」」
船が沈み、ハンターたちが海に散らばる。
本来もっと大変な戦いになる、この海戦。
バルディスは操船が非常にうまく、上手にモナココ軍の攻撃を避けつつ攻勢をかけられる能力を持っている。
そこにレンたちの『記録』させた攻撃が乗った結果、運営も驚くほどの化物戦艦ができあがってしまった。
「今だ……! お前ならやれる!」
「任せろ……っ!」
そんな中、ついにメイたちの船にたどり着いたのは、小回りの利く小型船を持ち出したパーティ。
大型船の陰に隠れての接近が、功を奏した。
「行ってこい!」
「おう! 【ショートダッシュ】【ハイジャンプ】!」
メイたちの船が、攻撃をした直後の跳躍。
これなら撃ち落とされることもない。
見事な接近だ。
「船に飛び乗れば、何かを起こせる可能性がある!」
こうしてついに、一人のハンターが船に乗り込むことに成功した。
「メイちゃんたちはどこだ!?」
ハンターはメイたちを探して、しきりに辺りを見回す。だが。
「う、嘘だろ……!? メイちゃんたちが、いない?」
驚愕の事実を知る。
ようやくここまでたどり着いた船に、肝心のメイたちがいない。
「ハッ! そういうことか! 船はオトリだ! この事を早く伝えないと!」
ハンターたちは五月晴れがいると思って戦っているが、恐ろしいことに船には元海賊バルディスしかいない。
初めから何かを起こせる『可能性』は、存在しないのだ。
この船の狙いに気づいたハンターは、大急ぎで戻ろうとするが――。
「なっ!?」
記録の宝珠から走った【紫電】の雷撃を受けて硬直。
バルディスの一撃で、この事実を伝えられずに脱落した。
「……行くか」
ここで元海賊は船を高速走行させて、かつて相棒だった船のもとへ。
「終わりだ、相棒!」
放つのは、爆破の砲弾。
次々に放つ砲弾が、今は軍艦となった船に次々に突き刺さり爆発。
「これでようやく、心残りがなくなった。あとは……オレが帰れるかどうか」
炎を上げる軍艦を見て、息をつくバルディス。
「撃てぇぇぇぇ!!」
そこに放たれるのは、断末魔のごとき一撃。
沈みゆく軍艦に乗せられた大型の魔法石が点灯し、バルディスの駆る船の方へ超大型の炎弾が飛来。
よほど上手にいかない限り、この炸裂炎弾でバルディスごと船が轟沈。
二つの船が同時に沈むというのが、基本のシナリオだ。
「すごい火力だ……っ!」
思わず、ハンターたちが目を見開くほどの爆炎。
メイたちの船が、沈んだと思わせるに十分な状況だ。
しかしバルディスは、最良の選択を取るようになっている。
【記録の宝珠】を発動すると、現れたのは【水球の守り】
容赦のない炎から、水のバリアが船を守り切った。
運営の予想では、ここで派手に元海賊船と賞品船の二隻が撃沈。
ドラマチックな演出が見られるはずだった。
だが実際は、最強の船が無傷のままモナココ港を駆けるのみ。
「やはりメイたちは一筋縄ではいかないな! 圧倒的な攻勢だ!」
それを見て、興奮の声を上げるアルトリッテ。
「フン、まあまあだな」
そう言うグラムも、目を輝かせている。
「んー……」
「どうした、ローラン?」
そんな中、いぶかしそうな顔をしているローランに、金糸雀が問いかける。
「なんか、妙だなと思って」
「妙?」
「確かに一つ一つはメイちゃんたちのスキルなんだけどね。どうして同時じゃなくて、順番に使ってるのかな」
「ああ、言われてみればそうだな」
「いくらメイちゃんたちが強くても、上陸を狙わず敵船を減らす戦い方をしてるのは、少し変じゃないかなぁ」
「……構えていた方が良さそう。向こうにはレンもいる」
「そうだね。乗り込んでくるなら動けばいいし、そうでないなら追わないくらいでいいかも」
マリーカの言葉に、うなずくローラン。
駆けつけようとしていたアルトリッテとグラムも、この言葉には足を止める。
『レンがいる』という事実は、それだけである種の抑止力になるようだ。
「……それなら、ここに残っても良さそうぽよ」
「そうですね」
そんなトップ組の言葉を聞いた掲示板組の一部も、この場に残ることを決定。
その場で体育座りでの見学を継続。
元海賊バルディスの操る船は、カジノ側の態勢を揺さぶり続ける。