作品タイトル不明
1160.闇の一手
「あ、ああ」
「あああああ……」
「や、やめろ! どこへ連れて行くんだ! 俺をどこに連れて行くんだぁぁぁぁ!!」
倒れ伏す、多数の破産者。
そして、黒服NPCにどこかへと連れていかれる債務者たち。
そんな中、ポーカーの台にはレンとローランの姿があった。
「グラムはよく先生に怒られて逃げ回ってるよ。でも最近、おだてるといいことがバレてきてるかも」
「ここでの姿とは、結構違うのね」
「金糸雀なんかは一見ギャルっぽいけど、文系が得意で、体育もできるよ。一番得意なのは家庭科だけど」
「それは意外ね」
「レンちゃんはどうなの? やっぱり儀式してるの?」
「品行方正な文学少女よ」
「あははは、やっぱりレンちゃんたちは皆面白いよね」
「…………」
レン、会話の流れが『野生』を否定してる時のメイにそっくりだと気づいて、息を飲む。
さすがに文学少女は、狙い過ぎだったようだ。
「でもローランは、場所に合わせて装備品も変えてるのね」
「これは趣味かな。あはは、せっかくだからさ」
いつもは爽やかな少年の雰囲気もある、弓道部少女のような感じだが、今日はカジノということでドレスのようなものを着ている。
ローランの女子らしい面もまた、金糸雀の『家庭科が得意』に負けない意外性だ。
「似合ってるわね。かわいい」
「えっ、そ、そうかな?」
一転、恥ずかしそうにするローラン。
どうやらこういうのが、彼女の弱点のようだ。
「私もこういう明らかに戦闘がないところでは、着替えようかしら」
そうすることで、イメージが変わるかもしれない。
これは名案と、アイテムを確認するが――。
「でも、制服はなしよね……」
この場所でもギリギリ浮かなそうな装備が、手持ちには魔法学院の制服くらいしかないレン。
ため息を一つ。
「さて、それじゃあ次の勝負といこうか」
「そうね」
こちらはすでに十戦が終わり、レンとローランが四勝ずつ。
ディーラーが二勝という、なかなかの勝負を見せている。
ブラックジャックとの違いは、ディーラーに勝てばよいのではなく、その卓で一番良い役を完成させた者だけが勝つということだ。
「次が一つの区切りかな?」
「そうしましょうか」
「負けないよ」
レンかローランが、頭一つ抜けた時点で終了。
よって、次の勝者が覇者となる。
そう決めて、二人は五枚ずつ配られた自分の手札に、あらためて目を向ける。
まずディーラーが二枚交換して、役を確認。
続けてローランも、二枚交換して手札を確かめる。
「今回は勝てそうかな?」
それは思わずこぼれた言葉ではなく、続くレンに『留まるか』『攻めるか』を迷わせる一言。
ヤマトのイベントでも、敵軍の参謀のような位置にいたローラン。
言葉一つで、勝負を盛り上げてくる。
「……私にも一枚」
レンはそれを聞いたうえで、一枚だけカードの交換を要求。
中身を確認せずに、待機させておく。
これで、交換のターンも終了。
ここからは、手札を開いての勝負となる。
「勝負だね」
「ええ」
「私の役は、こちらになります」
ディーラーが手札を晒す。
今回は、五枚中同じ数字のカードを三枚集める『スリーカード』を完成させていた。
なかなか強い役だ。
「私は、こういう感じかな」
対してローランは、五枚全てが同じ柄の『フラッシュ』だ。
ディーラーの役を超える、強いカードの組み合わせ。
最後にこれをもってこられるのが、ローランの強さだろう。
「最後は私ね」
まずは、交換しなかった四枚を開示。
この時点では、『ツーペア』だ。
もちろんこのままでは、ローランはおろかディーラーにも勝てない。
レンは交換した最後の一枚に指を伸ばし、カードを挟んだ。
その内容はまだ、分からない。
「――――勝負!」
テーブルを滑らせるような形で投じたカード。
放たれた最後の一枚が、残り四枚の手前に滑り込み、クルクルと回転。
そろった手札はもともとあった『9』『9』『8』『8』の並び。そして。
五枚目は――――『ジョーカー』だ。
「フルハウス……!」
思わずローランが感嘆する。
三者の中で一番強い役をそろえたのは、レンだった。
これでレンの五勝。
この卓で、一番の勝者となった形だ。
「さすがレンちゃんだね」
「初見のゲームででこれだけ勝ったローランの方が、恐ろしいけどね」
初めてルールを見て始めたポーカーで、これだけ強かったローランにレンは笑う。
しかしローランは、謙遜するように笑い返す。
「クラブとスペードでツーペアを作って、最後にジョーカーで真っ黒なフルハウスに変えるのは、もうレベルが違うよ」
「っ!?」
レン、ローランに言われて慌てて自分の出した手札を確認。
衝撃を受ける。
「待って! これは偶然なの!」
見れば確かに、作った役は黒一色。
しかも最後に切り札とばかりにジョーカーを投じて締めるのは、いくらなんでも出来すぎだ。
「普段は普通の少女。でもその正体は闇を超える者。やっぱりレンちゃんたちは面白いよ」
「違うんだって! 私自身もこれには驚くしかない感じなの!」
うっかり最後のカードを滑らせて出すという演出まで決めたレンの言葉に、もはや説得力はなし。
背後でのぞいていたプレイヤーたちも、その見事な流れに唖然としている。
『闇のフルハウス事件』は、さらにレンの凄まじさを轟かせるエピソードになりそうだ。
「……頭を使ったし、移動しましょう」
レンはため息をつきながら、席を立つ。
「どこも賑わってるね」
「初日っていうのもあるんだろうけど、本当に盛り上がってるわね」
「それで、次は何をするつもりなのかな?」
「やっぱり、頭を使わずにできるって考えるとスロット辺りじゃないかしら。カジノの顔だし、一度は触ってみたかったの」
「いいね。初日だし、評判を良くするために『当り』がいっぱい出そうな気がする」
「ふふ、実はそういう狙いもちょっとあるかも」
何せ今日はカジノを中心にした新マップ、モナココのお披露目日。
運営も当たりの確率を、高めに設定しているだろうと予想。
笑いながら二人は、スロットのコーナーへ向かうのだった。