作品タイトル不明
1099.言えば言うほど
古き英国の雰囲気を感じさせる、エディンベアにやって来ていたメイたち。
夜の街で出会ったのは、黒の装備に身を包んだ二人組だった。
両眼を閉じたままの、魔導士少女。
そして柔和な笑みを浮かべたままの、魔法剣士少女。
「かっこいいーっ!」
「はい! 最高の登場でした……!」
二人の掛け合いに思わず盛り上がる、メイとツバメ。
両目を閉じたままの少女は、銀細工のバラ飾りを頭部に付けている。
一方温和な笑みを浮かべたままの少女は、夜のように黒い剣を二本腰に下げ、揺れる金のチェーンピアスを右耳だけにつけている。
どちらも、見るからに『全開』だ。
「目を閉じてて、よく見えるねぇ」
「そういうスキルなのよ」
「視線を見せないことで、行動予知をさせにくくする狙いなのでしょうか」
目を閉じているように演出されているが、視界は通常と変わらないという変わり種のスキル。
その演出は、メイたちをワクワクさせる。
「しかしさすがはナイトメア。気づいたか、この街に眠る闇に」
「……何か、クエストがあるの?」
「まだ見つかってはいない。だが、時間の問題だ」
「要するに、何も見つかってないのね」
レンはすぐに気づく。
二人は、時計塔の見える月夜に酔って『ごっこ』を始めた。
そこに不本意ながら有名な自分がやって来たものだから、思わずテンションが上がっているのだと。
もちろんレンは純粋に遊びに来ただけで、他意など一切ない。
「んっふふ。でも『闇を超える者』が来たってことは、ここに『何か』があるってことだよねェ?」
魔法剣士はニヤリと、口端をゆがめて笑う。
クールな相棒に対して、この子は捉えどころのない意味深笑顔キャラを演じているのだろう。
「いいえ。本当に単なる偶然よ」
レンはそう言って、この空気を打ち消すかのようにわざとらしく首を振る。しかし。
「知っているぞ。普段は普通の魔導士を演じていることはな。だがその正体は、闇の使徒を退きながらも、今も背後からの指示一つで使徒の全てを動かすという、影の 支配者(レグナートル) 。それだけではない。ゼティアの門での戦いではそうそうたる猛者たちすら率いたことから、指先一つで戦局を変える戦術の 指揮者(マエストロ) とも呼ばれている」
「なんかとんでもない大物みたいになってるんだけど!」
「かっこいいーっ!」
「さ、さすがレンさんです……っ」
「それでいて本人も闇の炎を操る魔女として、その高い戦闘力を恐れられている。まったく……おもしろい」
両眼を閉じたまま、銀細工の少女はつぶやく。
「んっふふ、思わず身体が火照ってきちゃったよォ」
すると魔法剣士少女も、邪な笑みを浮かべた。
「残念だったな。我らを前に、闇の気配を隠し切ることなどできない」
「だからそんなものないのよ! どこにも!」
レンはあらためて大きく首を振る。すると。
「メイ……?」
不意にメイが、その視線を上げた。
そこには屋根の上を駆けて行く黒づくめと、後を追う悪魔の姿。
「【ラビットジャンプ】!」
負傷しているのか、黒づくめは屋根を行く足取りが頼りない。
一方悪魔は、翼による飛行で距離を詰めていく。
そして黒づくめを射程に入れると翼を開いて滞空、その手から青白い炎弾を放つ。
「【装備変更】【バンビステップ】!」
本来であれば、ここで悪魔の攻撃を受けた黒づくめが地に落ち倒れ込む展開へと続く。しかし。
青炎弾の射線に入ったメイは、そのまま【魔断の棍棒】で打ち返した。
「ッ!?」
これを喰らった悪魔は、空中で体勢を取り直して攻撃体勢に入る。
「【串刺し魔剣】」
しかし最初から屋根の上にいた魔法剣士少女の投じた魔力の刃が、突き刺さる。
するとさらに続けて魔力の刃が二本、立て続けに直撃。
悪魔はまるで夜空に縫い付けたかのように、空中に強制停止状態となった。
「この心眼に、見えぬものなどない【暗夜裂光】」
隙だらけになった悪魔に、向けられる魔導士少女の杖。
光の尾を引く高速の魔力弾は一直線に夜空を駆け、そのまま直撃。
盛大な魔力の爆発を巻き起こした。
悪魔はそのまま、粒子となって消えていく。
メイたちは、屋根の上で座り込んだままの黒づくめのもとへ。
「危ないところだった、礼を言う」
黒づくめの男は、安堵の息をつく。
よく見ればその手には、一つの宝珠が握られていた。
「だが魔族ですら圧倒してしまうその力、見事なものだ」
男はそう言って、覚悟を決めるように息を吸う。
「力を貸して欲しい。私は悪を暴き、正義を執行するための――――組織の一員だ」
「う、うそでしょ!?」
本当に謎の組織が出てきて、思わず驚くレン。
「ナイトメア、やはり闇の気配を追ってきていたようだな」
「違うのよ! 本当に偶然なんだって!」
「んっふふ、ナイトメアが追ってきたクエストと『組織』かァ……身体が火照ってきちゃうよねェ」
「だから追ってないのよ! いつも通りメイが見つけただけで!」
駆け抜ける嫌な予感に、レンは必死に否定するも、二人の少女は笑うのみ。
最高の流れで現れた『闇を超える者』と『組織』
こんなのワクワクしないわけがない。
「……話を聞いて欲しい。君たちに頼みたいことがある」
黒づくめの男は、そう言ってクエストを提示する。
満月の夜。
時計塔の見える古き異国の街で、巻き込まれた魔族と組織の攻防。
「おもしろい。聞かせてもらおうか」
誰一人、新たなクエストへの参加を断ろうとする者はいなかった。
すでに意識を失いそうになっていた、レン以外。