作品タイトル不明
1095.闇を継ぐ者
石造りの町を冷たく輝かせる、青い月。
「ああもうっ、どうしてこんなことに……っ」
レンはまさかの事態に、思わず白目をむく。
前方には、黒衣に身を包んだメイとツバメが駆ける。
「スワローが先行する」
「了解」
黒の外套を揺らしながら、町の屋上を駆けるのはコードネーム『スワロー』ことツバメ。
口元から鼻先までを、黒いネックウォーマーのようなもので覆ったツバメはここで【加速】
一気に、敵の暗殺者たちのもとへ。
「落ちろ【電光石火】」
「ぐっ!」
容赦のない高速斬撃で、敵暗殺者を斬り裂く。
すると仲間がやられたことで、一気に暗殺者たちが反転。
ツバメに向けて、飛び掛かる。
「甘い」
そこに駆け込んできたのは同じく黒のショートマントをまとい、ストールで鼻までを隠した猫耳少女。
コードネーム『ワイルド』
「このワイルドの前に、安易な跳躍は命取りだ……【ソードバッシュ】」
「「「ぐああああ――――っ!!」」」
上空に向けて放つ一撃が、まとめて暗殺者たちを吹き飛ばす。
風に揺られるワイルドことメイの、黒いストール。
二人はクールに剣を払い、うなずき合う。
ここは人通りも多い、西北の古都市エディンベア。
「なんだ、あいつら……」
「動きめちゃくちゃいいな。ていうか黒の装備がカッコいい……!」
当然、夜の城下町で行われる戦いは通行人たちの目に留まる。
「だが、敵はまだ残っている」
現れたのは、黒のフード深くかぶった魔導士少女。
その特徴は何より、『閉じたまま』の両眼。
クエストで一緒になった彼女のコードネームは、『スキア』
それはギリシャ語で『影』を意味する。
「貴様は知っていたか、この私が控えていたことを」
掲げた漆黒の長杖を、ゆっくり構える。
「知らなかったのであれば無知、知っていたのならば無謀……それはどちらも、深き罪だ」
そうつぶやいて、わずかに口端に笑みを浮かべた。
「喰い尽くせ――――【万魔の眼光】」
放たれた十字光は一直線に夜空を飛び、弾けた。
すると無数の小さな十字光に分裂して、一斉に襲い掛かる。
炸裂した輝きは、パパパパパとフラッシュを輝かせた。
その全てが強い攻撃判定を持つこの魔法は、敵暗殺者たちを屋根から弾き落とす。
「ここはお前たちが足止めしろ! コレさえ持ち帰れば、任務は成功となる!」
そう言って暗殺者の一人は、部下たちを足止めに残し、夜の街中へと消えていく。
「そうはさせないよォ? 君たちはお楽しみなんだからさァ。このコードネーム『クルデリス』ちゃんのねェェェェ!」
速い足の運びで飛び込んでいくのは、黒のレオタードの上に黒の軽鎧をまとった魔法剣使いの少女。
耳に付けた長いチェーンに着いた宝珠ピアスが、大きく揺れる。
ラテン語で『残酷』を意味する名を持つ彼女は、舌なめずりを一つ。
「【フリップジャンプ】――――【残光連華】」
フィギュアスケートのように背中側から入る跳躍で躍り出ると、華麗に空中回転。
放つ魔力剣の輝きが、夜の街に幾重もの大きな白弧を描く。
着地と同時にバタバタと倒れる、時間稼ぎの暗殺者たち。
「お、おい! 逃げられちまうぞ!」
あがる、見学者たちの声。
肝心のリーダー暗殺者は、その速い足ですでにかなりの距離を稼いでいる。
屋根の上を高速で駆けて行くその背は、もう小さくなってしまっていた。
このまま地上に降りられてしまったら、見つけ出すのは極めて難しいだろう。
「そうはさせないわ!」
杖を構えたのは闇色のロングコートに、黒のレースを包帯のように頭に巻いて、片目を隠したレン。
いつもよりさらに一回り中二病感の増した装備で、逃げ去っていく暗殺者たちのリーダーを狙う。
「頼むぞ――――『ベリアル』」
「【魔砲術】【超高速魔法】【誘導弾】【ファイアボルト】!」
聞こえたのは、スキアのクールな声。
コードネーム『ベリアル』ことレンが放つのは、夜闇を駆け抜ける彗星のごとき炎弾。
光の尾を引きながら、目にも止まらぬ速さで突き進み、そのまま暗殺者の背を撃った。
炎弾は火花を散らし、炸裂。
暗殺者は、そのまま倒れ込んだ。
すると自然と黒づくめ衣装のメイたちと、魔導士スキア、魔法剣士クルデリスが屋根の上に集まる。
「【ライティング】!」
それを見たプレイヤーが、その正体見たさに、照明になる光球の魔法を複数使用。
するとハイビームのような白色の光線が、黒づくめのメイたちを照らし出す。
そしてレンがそこに追いついたところで、中心のツバメがポーズを取った。
「世界に巣食いし全ての邪悪なる者たちに告げる。恐れるがいい。我らは『闇を継ぐ者』。貴様たちを断罪する――――漆黒の刃なり」
そう言って、後方に倒れ込むようにして屋根から飛び降り、夜闇に消えた。
さらにメイたちも、その後に続く。
最後に残されたのは、闇を照らす照明魔法の輝きと、夜の静寂だけだった。
「お、おお」
「おおおおお……」
「「「おおおおおおおおおお――――っ!!」」」
そして、夜の町に歓声が響き渡る。
「なんだあの集団!?」
「ていうか最後の魔法、使徒長ちゃんだよな!」
「まさかナイトメアが、闇の組織を動かしてきたってことか!?」
そして次々に上がる、考察の声。
「お、遅くなりましたっ!」
そんな盛り上がりから、わずかに離れた集合場所に、まもりが遅れてやって来た。
コードネーム『シールド』は、すっかり白目状態のレンを見て首を傾げる。
「レンさ……ベリアルさん?」
「どうして、こんなことに……」
聖城レン・ナイトメア。
「どうして、こうなっちゃったのよぉぉぉぉぉぉ――――っ!!」
ついに闇の組織を率いる、黒き魔導士となる。