軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

98 エピローグ3

黄昏時の病室。

ルーク・ヴァルトシュタインは深い苦悩の中にいた。

考えても仕方ないことなのはわかっている。

肉体的にも精神的にも限界を超えていたし、自分のできることを全力でやりきった結果でもある。

しかし、それでも頭に浮かんでは自身を苛む記憶と言葉。

『もっと大切なものがあるんです』

『今、あいつの隣で戦えないなら、僕の人生なんて今日まででいい』

『ノエルのことを守らないとって』

振り返って気づかされた。

あの日の自分は、かなり恥ずかしいことを言ってしまっていたのではないだろうか。

(いったいどうしてあんなことを……)

名家に生まれ、幼い頃から要領がよく立ち振る舞いにおいてほとんど失敗をすることなく生きてきた彼にとって、その記憶はあまりにも痛々しく感じられた。

彼女はどういう風に思っただろうか。

(あの日のルーク、なんか痛かったなぁ)

……消えてなくなりたい。

苛む自意識と募る後悔。

割り切れない気持ちを抱え、ルーク・ヴァルトシュタインはため息を吐いた。

◇ ◇ ◇

「お手柄だね。すごい活躍だったって聞いてるよ、ノエルさん」

退院が近づいたある日のこと。

病室を訪ねてきたのは王宮魔術師団の先輩たちだった。

後から正式に迷宮都市に派遣された先輩たちは、先行して攻略組とつながりを作っていた私たちのおかげで、想定していたよりずっと順調に仕事を進めることができているらしい。

あの二人が所属する組織なら、と八十層の迷宮遺物を優先して研究解析できる契約も結べたとか。

弾んだ先輩の声に、がんばってよかったな、とうれしくなる。

「ルークさんも順調に回復してるみたい。その割にはなんかため息多かったけど」

「ため息? 何かあったんですかね?」

「うーん、なんだろう? 優秀なあの方のことだから入院しなければできた仕事があったのに、とか悔しがってたりするのかな」

二人で少しの間考える。

ふと思いだされたのは、階層守護者との激戦――その直後のことだった。

傷だらけの身体を引きずって、最後の回復薬を私のために持ってきてくれたあいつ。

『ノエルのことを守らないとって』

なんだか胸の鳴り方がおかしくて。

自分が自分じゃないみたいな不思議な気持ち。

あれはいったいなんだったのだろう?

首をかしげる私に、「そうだ。大事なことを伝えないと」と先輩が言った。

「まず 黄金(ゴールド) 級への昇格が決まったよ。平民出身の魔法使いをここまで早く昇格させることへの反対意見も王宮内にはあったみたいだけど、出してる結果がすごすぎるからいよいよ認めざるを得なくなったみたい。力で黙らせたって感じだね」

「いやいや、そんなそんな」

たくさん褒めてもらえて頬をゆるませる。

ほんと褒め方うまいんだよね、王宮魔術師団の先輩。

みなさんやさしくてほんと良い職場だなぁ、と改めて実感する私に先輩は言った。

「それから、もう一つ。帝国が主催して開催されている国別対抗戦があるんだけど」

「もうすぐですよね! 都合がつきそうなら見に行きたいと思ってるんですよ! 何せ、四年に一度! 各国を代表する魔法使いたちの戦い! なかなか見られるものじゃないじゃないですか! 生観戦なんて一生ものの思い出間違いないですし! アーデンフェルド王国はあまり力を入れてないのがちょっと残念ですけど」

早口で言う私に、くすりと笑う先輩。

しまった。

好きなことになるとついいっぱい喋ってしまう大好き特有の癖が。

気恥ずかしくて頭をかく私に、先輩は言った。

「その代表選手としてノエルさん内定したみたいだから」

………………ん?

今、なんかとんでもないことを言われた気がする。

いや、気のせいだよね。

そんなことあるわけないし、うん。

「いやいや、冗談はやめてくださいよ。いくらなんでもそれは」

「これ、正式な要請書」

「え……?」

全力で疑いつつ、目を通す。

信じられないことに。

本当に、信じられないことに。

魔力の刻まれた印字は、王宮魔術師団で正式に使われているものだった。

「ルークさんも選ばれてる。今回は王国も本気で勝ちに行くみたいだから」

先輩はにっこり微笑んで言った。

「期待してるよ。がんばって」

私はしばしの間、硬直してから、

えええええええええええええええええええええええええええええ――!?!?

と白目を剥いて頭を抱える。

拝啓。

お家で待つお母さん。

駆け出し王宮魔術師としての私の新生活は、やっぱり想像もしていない方向へと進んでいっているみたいです。