軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87 夜

「本当にありがとうございました!」

魔道具店のお手伝いを終えた後、魔道具師のミアちゃんは何度も頭を下げて言った。

「すごく良い経験になりました。知らないこともたくさん教えてもらって」

思っていたよりずっと感謝してくれて。

お手伝いして良かったな、と胸があたたかくなる。

そんな大したことは全然していないのだけどね。

仕事量自体も前職のそれに比べたら、そこまで多くなかったと思うし。

「また来てくださいね!」

手を振り合って、ミアちゃんと別れる。

良い魔道具師になってほしいな、と思った。

自分の新人時代を思いだす。

とにかく大変で、家に帰ることさえできなくて。

目が回るような日々だったけど、それも思い返すとなんだかなつかしい。

あそこで限界以上の仕事をしていたのが、魔法使いとしてのスキルの向上にはかなり繋がっている気もするし。

とはいえ、やっぱりあの労働環境は絶対に間違ってると思うけど。

そんなことを思いつつ、ルークと合流して夜ご飯を食べる。

迷宮都市の冒険者ギルドに隣接した大衆食堂。

「おかわりお願いしますっ!」

「……まだ食べるの、君」

「モツ煮込みは別腹だから!」

明日の迷宮探索に備えて、大満足の夜ご飯を堪能してから取っておいた宿へ。

「良い部屋だね。で、僕の部屋は?」

ルークは二人部屋の内装を眺めつつ言った。

どうやら、他に自分の分の部屋を取っているんだと思っている様子。

「それが申し訳ないんだけど一部屋しか空いてなくてさ」

「え?」

困惑するルークに、私は言った。

「だから、ルークもこの部屋なんだけど」

◇ ◇ ◇

とんでもないことになってしまった。

平静を装いつつも、ルーク・ヴァルトシュタインは未だかつて無い動揺と混乱の中にいた。

幼い頃から誰よりも多くの時間を魔法に注ぎ込んできたルークにとって、友人と同じ部屋で寝泊まりするのは初めての経験。

しかもそれが、本当はずっと前から好きだった想い人なのだから、動揺するなと言うこと自体無理がある。

(落ち着け。あくまで友達として、普段通り)

彼女に背を向け、荷物を出すふりをして心を落ち着かせる。

「友達とお泊まり久しぶりだー」

後ろから聞こえる脳天気な声。

その響きひとつで、心が騒いで仕方なくなる自身の弱さを呪う。

「ルークは友達とお泊まりってどれくらいぶり?」

動揺が外に出ないよう意識して口を開く。

「覚えてないな。したこと自体ないかも」

「あー、ルークの家厳しそうだもんね。大貴族の家の子だとそういうのも許されないか」

彼女は隣のベッドでごろごろしながら言う。

「仕方ないね。友達とのお泊まり上級者の私が、正しいお泊まりの作法を教えてあげよう」

「正しいお泊まりの作法?」

そんなものあるのだろうか。

いったいどんな作法だろう、と振り向いたルークに彼女は言った。

「魔法クイズゲーム! いえーい!」

「……クイズゲーム?」

「うん。友達同士でお泊まりする場合、寝るまで魔法クイズゲームをして遊ぶのが正しい作法なの」

「……それ、君がしたいだけでは」

「おやおや、私に負けるのが怖いのかな?」

ムカついたので、全力で勝ちに行くことにした。

興味のある分野では誰にも負けない深い知識を持つ彼女だけど、その知識にはいくつかの穴がある。

そしてその弱点については多分、この世界で誰よりも僕は詳しい。

ずっと、ずっと見てきたから。

「バカな、こんなはずじゃ……」

「僕の勝ち。じゃ、おやすみ」

「もう一回! もう一回勝負!」

負けず嫌いな彼女は勝つまでやめようとしなくて。

やれやれ、と付き合ってあげながら、本当は求められることがうれしくて。

君の瞳に僕が映っている。

すぐ傍で名前を呼んでくれる。

それだけで、僕はもう他に何もいらないくらいに幸せで。

だけど、どこかで気づき始めている。

そんな時間にも、終わりの時が近づいていることを。

剣聖との御前試合で、彼女はさらに注目を集める魔法使いになった。

王国の頂点に立つ国王陛下も彼女に関心を持ち始めている。

開花し始めた才能と可能性は、僕から彼女を遠ざけようとしていて。

それでも、あきらめてなんて絶対にやらない。

手を伸ばすんだ。

他の何よりも大切なたったひとつ。

「おやすみ、ノエル」

疲れて眠った彼女に布団をかけてから、僕は魔導灯の灯りを消す。

己の価値を証明しろ。

隣にいるために。

君の世界にいるために。

迷いは無い。

覚悟は最初からできている。

隣にいるためならどんなことでもする。

初めからそう決めている。